PHASE-1445【次元が違う安心感】

 ベル命名――ツッカーヴァッテへと近づき、


「これからよろしくな!」

 巨大でモフモフな足に触れれば、手が毛の中に沈んでいく。

 これは極上の感触。

 このモフモフに乗っての移動となれば快適な空の旅を楽しめそうだな。


「キュイィィィィィン」

 感触のよいモフモフの足を撫でていたら、ツッカーヴァッテも心地よかったようで、可愛い鳴き声? を上げてくれる。

 凶悪な風体とバインドボイスを発していた幼虫の時とは打って変わって、巨大でありながら愛らしい存在になってくれた。


 それもこれも――、


「ふぅぅぅぅぅ……。成し遂げたようね」

 と、俺が視線を向ければ、それに合わせてリンが安堵の声を漏らしつつ笑みを見せてくれる。

 これでもし幼虫の時の風体に似た成虫として誕生していれば、ベルからどういった叱責を受けていたことだろう。

 結果が分かるまでの間、平静ではいられなかっただろう。

 

 リンもそうだけど、リンの使役する上位アンデッド達の精神耐性すらも無効化してくるベルって、やっぱり規格外な存在だよな。

 操る浄化の炎もこの世界の理を無視してるみたいだしな。

 リンと敵対していた時、ベルの操る炎にリンが驚いていたことも思い出す。

 性格、炎ともに規格外な帝国軍中佐殿である。


「さて、王もここにいらっしゃった事ですし、今後の話をするのには丁度いいですね」


「然り。まだ朝日も顔を出していない時間ではあるが、これからの事を決めるには早ければ早い方が良いからな」

 王様と共にギルドハウスへと皆して向かう。


 ――。

 

 俺の自室兼執務室には、メインパーティーであるベル、ゲッコーさん、コクリコ、シャルナ、リン。

 進行役の先生。

 王様。

 で、俺と俺の左肩に座るミルモン。


「では、これから主達が向かうことになります、翼幻王ジズの居城である天空要塞フロトレムリに関する会合を始めたいと思います」


「進行よろしくお願いします。先生」


「はい。では、我々が理解している相手の戦力ですが――」

 俺はガルム氏と話したけども、それ以外にも先生はリズベッドや翁。

 サキュバスメイドさん達やその他の前魔王派閥の面々とも話をしており、可能な限りの情報を得てくれていたのだが――、


「配下の連中はともかくとして、領袖である翼幻王ジズ――ベスティリス・バルフレア・エアリアスなる人物はなんとも掴みどころのない、雲のような存在だということだそうです」


「そうですか」


「絶大な力を有し、天女を彷彿とさせる美しき顔立ちだということ。三対六枚の純白の翼は神の使いの如し――だ、そうです」

 美人で六枚の翼。

 正に天の使い。

 でも仕えているのは天ではなく、スライムから成り上がった現魔王のショゴス。

 ショゴスの配下として活動し、尚且つ天空要塞はこの大陸に入り込んでいる状況。

 にもかかわらず、こちらに対して攻撃らしい攻撃を行ってこない。

 

 以前にヴァンパイアのゼノを倒した後、一度だけ翼幻王ジズの配下が攻撃を仕掛けてきたけど、ゲッコーさんとS級さん達によるスティンガーミサイルの板野サーカスで撃退すれば、直ぐさまタンガタ・マヌと取り巻きは撤退。

 

 ガルム氏の話に照らし合わせれば、あそこで大魔法を使用可能な連中は三つ揃いタンガタ・マヌと側にいた二人のガーゴイル。

 こちらに対して脅威になるような攻撃方法を有していながらそれを実行せずに撤退。

 主だけでなく、側近たちも掴みどころがないようだ。


「味方になってくれたり――するんでしょうかね?」


「それは分かりませんが、蹂躙王ベヘモトと比べれば話は可能かもしれません」


「なら、最初はフレンドリーに接していくべきですかね」


「どうでしょうね。相手の出方次第ではそれでもいいかもしれません。突破された事がないであろう雷に守られた雲の外殻を無理矢理に突破して内部へと入り込めば、それだけでも脅威ないし感嘆されることでしょう。後者ならば対話が可能なだけの理性は持っていると考えられます」


「だと、いいんですけどね」


「それは困ります」

 うん……。そう言うと思ったよコクリコ。


「自分の偉大さを自伝に書けないもんな」


「そうです」


「でも、交渉で友好関係を築いたとなれば、それも歴史には残るんだぞ」


「私らしくないです。戦いによる功績を残したいのですよ」

 根っからのバトルジャンキーじゃねえか……。


「コクリコには好戦的な性格を抑えてほしいところでもあるが、ショゴス配下となれば戦いとなる可能性の方が大きいだろう。常在戦闘の心持ちで行動すべきだな」

 生まれたのが愛らしい巨大カイコだったことで喜び浮かれていた先ほどまでとは違い、落ち着きある声音のベル。

 ポンコツモードから中佐モードに戻ってくれている。


「少数での戦いとなれば、急襲から一気に本丸を叩くのがベストだろう」

 と、ゲッコーさんが続く。


「然り。数の差は覆せないでしょうからね」

 と、先生。

 最悪、S級さんを要塞内で召喚って手もあるけど、要人、要所の守りにも就いているから全員って訳にはいかない。

 少数でも十分な戦力になってくれるのがS級さんの強味ではあるけど。

 加えてリンのアンデッド軍団を他の進捗が遅れない程度に召喚してもらえれば、大きな戦力になると思う。

 

 これを伝えると、


「良策でしょう」

 先生からお褒めのお言葉、


「リン、いける?」


「精兵となるとエルダー以上よね。投入するとしても百で我慢してもらいたいわね。次の拠点が現状で最重要であっても、大陸全体の為にも、使役する者達を割くのもね~」


「出せるだけの戦力を出してもらえればいいよ。その分、俺達が頑張らないとな! なっ! リン!」


「つまりは私自身も励めってことね」


「おうよ。今回は全力で頼むぞ。エビルレイダーをツッカーヴァッテという愛らしい存在にした時のようにな!」


「う、うぅぅ……ん……」

 非協力ならベルのプレッシャーを受ける事になるよ。と、暗に伝えれば、渋面になりながらも頷いてくれた。

 リンはアンデッド使役を抜きにした個の能力だけでも大きな戦力になってくれる。

 大いに頼らせてもらうぞ。


 ――執務室に揃った面々を見渡せば、メインパーティーの安心感よ。

 前回のエルウルドの森攻略メンバーも頼りになったから比較するのは申し訳ないけど、今いるメンバーはやはり次元が違う。


 やはり俺のベストメンバーはこの面子だな!

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