PHASE-1343【統率は取れてる】

 ――搦手の三人は良い仕事をしてくれたようだ。

 離れた位置から登場してくれた三人と目が合えば、三人が三人とも口端を上げての微笑みで返してくれるのをビジョンで見る事が出来る。

 この拠点へと入る前に俺が搦手組に渡したのは――C-4 。

 一箇所ではなく各所に上手く仕掛けてくれた。

 

 短時間で広範囲によく設置してくれたよ。

 やはりコクリコの挑発でこちらに視線を集めたのがよかったようだ。

 

 突如として発生した数回――正確には六回の爆発。

 この爆発で俺達へと攻撃を加えようとしてきたハルダームの手勢は浮き足立つ。

 精兵でこの中央部分は固めたようだけども、それでも混乱は起きる。

 それだけ効果のある爆発だったわけだ。


「鏑矢の合図で数カ所から爆発。我らに悟られることなく行動させる。勇者、貴様は中々に策士のようだな」


「褒め言葉として素直に受け取るよ。大体、敵のど真ん中に俺達だけで攻め入るわけがないだろ。復讐に燃える腕っ節に自信のあるアラムロス窟のドワーフさんも参戦してんだよ」

 ――といった嘘であって嘘じゃない内容を口に出せば、精兵たちは更に浮き足立つ。

 こちらに目を向けさせている中で後方からの翼包囲にてこの拠点に攻め込んだ。

 鏑矢を合図として同時に拠点を破壊させたのがその証拠。

 間もなくここには強力な軍団が押し寄せてくる。

 と、言えば、オーク達は恐れからお互いを見合い、どうする? といった動作を見せてくれる。

 まあ、ドワーフの軍勢なんていないけどね。

 アラムロス窟の出自であるパロンズ氏が参戦しているから全くの嘘ではないので、バレた時にはそれを言い訳にさせてもらいます。


「この拠点は俺達が統治させてもらう」


「ぬかせ! 皆、落ち着け。急襲ではあってもたかが知れている」


「あれだけの爆発があったのにか」

 指摘してあげれば、


「そんなものは炸裂魔法を使用できるのが数人いれば造作もないことだ。そもそもが何が軍勢だ! そういった者達がいるなら堂々と正面から攻めてくるものだろう。それが出来ないのはそれだけの手勢しかいないということ。後方の爆発も軍勢ではない。少数のネズミ共がうろついているだけだ。少数でなにが包囲だ。寝言を言うにはまだ目は冴えている時間帯だろう」

 ――オーク達と違って考える事が出来るだけの頭は持っているか。

 喋々とした推測はよく通る声であり、それによりオーク達の混乱もわずかながら収拾していく。


 こちらとしては部隊を編制させて爆発現場へと向かわせる事は出来たけども、欲を言うならこの場の半分くらいを割きたかった。

 自分が思い描くとおりにはいかんわな。


「これがゲッコーさん自らが使用するC-4ならな」

 と、独白。

 以前にもマッチポンプで活躍した大量のC-4だったけど、大量使用ってのはゲッコーさんだから出来る芸当。

 今回使用したC-4は、ゲッコーさんが主人公のゲームであるペネトレーションシリーズのモノではなく、CFコンバットフィールドのガジェット。

 こっちの最大携帯数は六。

 でもって前者のように設置した順番に起爆させるってのは出来ず、設置した全てを同時に起爆させるという仕様。

 

 でもまあ今回のように同時起爆させることで、統率の取れた集団が後方にいるという錯覚をさせるのには適していた。

 少なからず人員を割かせたという意味合いでは効果があったからな。

 

 大軍相手に声東撃西による嫌がらせで戦うってのが今回の狙いでもあるから、少しでも割かせる事が出来たので及第点としよう。

 ここに本物の策士である先生や荀攸さんがいてくれたなら、もっと効果的な事も出来るんだろうが、俺の矮小な脳みそではこれが精一杯。

 もっと精進させてもらいましょう。


「喰らうがいい!」

 俺が考えている横では、隙が生じれば絶対に見逃さないガールであるコクリコが、軍を割いたことで陣形の再編成によって動きが鈍くなっている相手に対し、アドンとサムソン、そして装身具を使用して強化したファイヤーボールで狙い――、


「ブラストスマッシュ!」

 視認できるまで圧縮された風の上位魔法をシャルナも放つ。

 以前にガグとなったポルパロングが使用した強力な魔法を跳躍して高い位置から下へと向かって放てば、下方にいる軍勢が圧縮された風に押しつぶされ、風は地面とぶつかった衝撃で周囲に解放されると風の刃となり、動きを封じられた者達に襲いかかる。


 鋼鉄の鎧で守られているが風の刃を防ぐには不十分だったようで、倒れたまま起き上がることはなかった。

 威力ある魔法に襲われながらも、陣形を崩さずにいるのは中々。

 敵ではあるけど良く鍛えられている。

 カクエン達もその陣形の中にいるが、今までのと違って統制が取れていた。

 ヤヤラッタだけでなく、指揮官であるハルダームにも威光ってのがあるようで、こちらに対応するために恐れず行動する姿は、初めて会敵した時の連中とは同族であっても違う。


 こういった連中は時間が進むにつれて冷静になっていき、数にモノを言わせることを最大限の強味にしていく。

 そうなれば相手の方が優勢になる。

 

 爆発に対して割いた連中が戻ってくるまでに決着をつけるには、


「強力な一撃ってやつだ」

 キューポラから出していた上半身を引っ込めて、コクリコ、シャルナに続くようにR2トリガーを引き、アハト・アハトによる攻撃を恐れることなくツッコんでくる連中に撃ち込む。

 壁を思わせる金属の盾と、重量級のトロールが為す術もなく絶命した一撃である。

 目の前の連中では止める事は不可能であり、着弾場所では爆煙と土煙に血煙も混ざり、着弾から離れた場所でも、衝撃で体を宙に舞わせるという光景。

 

 今までに目にしたことがないであろう戦車の一撃には、カクエン達だけでなくオーク達も動きを鈍らせてしまう。


「やっぱ強烈だね♪」

 と、俺の左肩では圧倒的な力が小気味良いとミルモン。

 俺としては動きが止まるどころか後退、もしくは逃げ出すと思ったんだけどな。

 特にカクエンならとも思ったが、鈍くなっただけで前進する足を止めようとはしていない。

 やはりヤヤラッタ並の求心力を持っていると思われるハルダーム。

 そんなハルダームはハルダームで、こちらの砲撃に対して臆することなく仁王立ちのまま兵の進軍を見るだけ。


 あの目で見られているから進軍するしかないってのもあるんだろうけど、あのオーガロードの余裕さ――、


「なんかあんのか?」


「とりあえず撃ってみれば」

 ミルモンの提案に乗るように照準を大将首へと向けて、L2トリガーで狙いを絞ってからR2トリガーを引く。

 ――大気を劈く発射音。

 選んだのはAP弾。

 

 ――直撃――とはならずか。

 キューポラから上半身だけを出し、


「指揮官だけあって対応してきた」

 と、独白。

 こちらの砲撃を――アハト・アハトを三重の障壁魔法で防いでみせた。

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