PHASE-847【後は折檻だけ】

「まあいいんだけどな。こんな状況下だし」


「ですよ……ね」


「後で約束通りベルに見せてやればいい。馬鹿息子の時でなく、直接ベルと試合でもして――な」


「…………」

 嫌でございます! 試合ではなく俺が死絶の死合にしかならないからね! っと反論したかったが、ゲッコーさんの目が本気なものだったので反論は出来ず、首肯で返すしかなかった……。

 じゃないとこの場で死絶になりかねない……。

 本当に、この人達は俺に対してスパルタすぎるよ……。

 

 インスタントで力を簡単に得るとか絶対に許さないといった意思が伝わってくる。

 お手軽にストレージデータからポンポン召喚できない原因でもある。

 俺の最強データを召喚したら絶対に激オコするだろうな……。

 出したくても出せない。

 有っても押せない核のボタンみたいなもんだ。


「じゃあ試合も見たいし、さっさと終わらせようか」


「……了解です」

 声のトーンがマジすぎて肯定だけを強いるパワハラオーラのゲッコーさん。

 ガリオンのオーラアーマーの方がよっぽど攻めやすい……。


「トール。とりあえずコイツ等はどうします?」

 敗者に対する尊厳を少しは覚えるべきなんだろうが、今回の連中は同情するような相手でもないからな。倒れているそいつ等を踏みつけているコクリコを見ても注意はしなかった。

 ゲッコーさんが登場したあたりから兵士たちも謁見の間へと到着。

 到着したばかりで申し訳ないけども兵士たちに拘束を任せ――、


「大物は逃したか」

 と残念がる高順氏も征東騎士団たちと共に入ってくる。

 お見事なくらいに白銀の鎧には傷も返り血もなく、戦場に赴いたとき同様に輝いていた。


「中央を攻めてくれたから、他が手薄になってたんで助かりました」


「そう言ってもらえると助かる」


「高順氏にはこの謁見の間と、まだ抵抗している勢力が近辺にいるでしょうから制圧をお願いしたいです。後――コイツも」

 白目になっているガリオンを指さしてお願いする。

 高順氏に任せておけば、抵抗したとしても直ぐさま無抵抗にしてくれるだろうからね。

 快諾してくれるあたり話の分かる武人である。

 本当に、なんで冷遇されていた呂布の下にいて、更には一緒に殉じたのか謎すぎる。

 生き残っていれば絶対、後世に名をはせた武将になっていただろうに。

 俺はしっかりと厚遇するけどね。

 呂布のように甘言かんげんに耳を傾けて、諫言かんげんを煩わしく思うような人間にはならないよ。

 だからゲッコーさんの言葉にはしっかりと首肯で返したわけですから……。


 ――――有能な人材達によって相手側の拘束はほぼ終わったので、俺は俺のパーティーと共に先へと進む。

 ラルゴ達はここで一息だな。


 リンがまだ到着していないけども、報告に来たエルダースケルトンによれば、練兵場一帯の制圧が完了したからゾンビ兵となった死者を丁重に埋葬した後、合流するということだった。

 

 ゾンビ兵を連れ立っての行動となれば、王様の戦いの品位を下げると判断したようだ。

 いつまでも死者を弄ぶような行為もよくないからな。

 戦闘で奪われた命も多いだろうから、その者達の供養も任せよう。

 ネクロマンサーでアンデッドなリンに任せるってのも変な話だけど。



 ――謁見の間より更に先。

 シンメトリーからなる白亜の柱が立つ通路を駆ける俺たち。

 抵抗勢力はほぼ残っていない。

 ガリオンを倒した事で、傭兵団たちの動きは鳴りを潜めていた。

 その代わりに、


「ここから先は通さん!」


「忠勤だね」

 要塞を守っている正規兵が俺たちの前に数人立ちふさがる。

 士気は低くても、自分たちが兵だという矜持と、兵という任を全うするといったところ。

 馬鹿にはもったいないくらいに胆力のある兵達だ。

 なので全力で殴ってやろう。

 手心を加えれば失礼だろうからな。

 命を奪う事だけは回避だ。後の魔王軍との戦いで活躍してもらいたいからな。

 てなわけで、


「押し通るぞ」

 矜持を持つ者達の腰を落としての踏ん張る姿勢は綺麗なもの。

 カイトシールドを前面に出して構えることで、攻撃よりも守勢にて俺たちの動きを押しとどめようとする気概。

 選択肢がそれしかないというのが本当のところなんだろうけどな。

 カイトシールドに拳を打ち込めばそれだけで兵は後方へと吹き飛んでくれる。

 両隣の者達が飛ばされる味方を顧みずに俺へとシールドバッシュを仕掛けてくるが、


「遅い」

 穴の空いた部分に足を踏み入れ、両隣の兵士たちの顎先に拳を打ち込めばそれで終わる。


「綺麗だな。今のはいい動きだった」

 言いつつ既にゲッコーさんが残りの兵達を投げて投げて、絞めて終わらせていた。

 俺なんかよりも遙かに早い制圧からの称賛。

 嬉しくもあり、悔しくもあるというもの。

 もっと強くならないとな。

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