PHASE-1459【痺れ】

 キラキラとした鱗粉を舞わせ、ヴェノムショットを放てば、両翼もそれに続くように矢と魔法を放ってくる。

 

 こちらも負けじとマスリリースと、コクリコのファイヤーボールで迎撃。

 加えてアドンとサムソンからも放ち、こちらが数で勝るも、ここでもモスマンは自らの翅でかき消し、勢いを弱めることなく迫ってくる。

 

 編隊の接近を迎え撃とうと二人して構える中、


「掩護」

 と、モスマンの一言で上方の連中がこちらに向けて遠距離攻撃。

 シャルナが展開していない障壁の間を縫うようにして攻撃してくるが、的が絞れている分、軌道が読みやすいと、コクリコがアドンとサムソンと共に対処。

 対処できないのは上空で敵を相手取りながらシャルナが迎撃してくれる。

 

 この二人が対処してくれている以上、下方の攻撃は俺が全力で対処しないとな。


「くろいバリバリ」

 そう思っていた矢先、もう一人の頼れる仲間であるミルモンが牽制攻撃。


「躱せ!」

 防げ! ではなく躱せというモスマン。

 直線的な飛行から大きく弧を描いての回避行動。

 はったりとはいえ、初見だとミルモンのくろいバリバリは誰もが警戒する。

 大魔法のダークネスライトニングと勘違いされるのは本当に有り難い。

 

 直線から弧を描いて迫ってくるなら、こちらも十分に迎撃の態勢を整える事が出来る。


「ウインドスラッシュ&マスリリース」

 弧を描いて飛行するモスマン達を線で捉え、未来予想位置と言えば大仰だが、その部分を狙って斬光と風の刃を放つ。


「……」

 刀身から放たれた斬撃がモスマンの右側にいた一人を切り裂けば、声を発することなく落ちていく。

 ―――誰も救出には向かわない。

 流石に上半身と下半身。そして翼がバラバラとなれば、絶命だというのは分かりきっているからな。


「この地にて最初の命の奪ったな」

 存外、落ち着いた声が出せる。


「割切ることです」


「分かってるさ」

 コクリコの言うとおり。

 戦いとなれば仲間と自分の命を優先しないといけない。

 敵対者に一々と感情を抱いていては、こちらに累が及ぶからな。

 

 だが、恰好も悪い。


 相手に対して戦闘ばかりではなく。臨機応変で柔軟な対応をしてほしいと思いながら、真っ先に命を奪ったのが俺なんだからな。

 まずは話し合い――って発言に、説得力がなくなってしまった。


「怯まず攻めるぞ!」

 まあ、モスマンが挑んできた時点で無理なんだろうけどさ。

 一人がやられれば周囲から一人を呼ぶ。

 モスマンの呼びかけに慌てて動き、指示に従う。

 態勢を整えると再度、俺へと向かって仕掛けてくる。


「二度目の発言だが――寄らば斬る」


「やってみろ小僧!」

 左右からの魔法による攻撃。

 これをマスリリースとウインドスラッシュで迎撃する中、編隊中央のモスマンがここぞ攻め時と一気に加速。


「オラ!」

 繰り出すのは初手同様に鉄靴による蹴り。

 籠手でガードすれば、初手以上に重さがある一撃だった。

 蹴りの威力に体が押され、あわや落下というところでいなして受け流す。

 毒系で遠距離も可能なのに白戦を好むか。


「そら! そら! そらっ!!」

 体を反転させ、俺の上方に留まりストンピングを繰り出す。


「足癖の悪い――ことで!」

 二振りでその足を狙えば、


「おっと」

 優雅な宙返りで回避。

 キラキラと舞う鱗粉が優雅さを際立たせる。


 すかさず、


「いい連携だ」

 編隊の両翼がファイヤーボールを放ち、モスマンに対する俺の追撃を妨げてくる。

 中々にやりづらい。

 本来なら直ぐさま追撃してモスマンを斬るんだけども……。


「いかんせん足場がな……」

 人一人が歩けるくらいの幅しかない通路。

 こういった足場で相手が俺と同じ目線にいるならいいけども、そうじゃないからな。

 縦横無尽に飛行しての多方向からの攻撃は面倒この上ない。

 一足飛びで屋根のある場所まで行きたいところだけども、


「しっかりと塞いでくるね」

 モスマンの強襲で屋根部分まで行けなかったのが悔やまれる。

 出入り口部分では、敵兵がヒーターシールドを前面に出して立ち塞がり、こちらを絶望させるかのようにプロテクションも展開。

 

 こちらの前進を完全に止めたと確信したのか、


「今が好機です。通路を破壊しましょう」

 と、こちらとしては聞きたくない提案をするのが一人。

 その通りとばかりに、包囲している連中の兜の奥の視線は、通路に注がれている。


「いや待て!」

 提案を却下するモスマン。


「この程度なら普通に殺せる」

 不気味な声音は余裕の表れ――か。

 こちらの生殺与奪の権利を自らが有しているかのようだな。

 手柄を得るなら、首級は確実に手に入れたいという欲が伝わってくる。

 もし苦戦するようなら、その時、通路を破壊して外殻へと落とせばいいと思っているんだろう。

 いつでも奪える命だからこそ、手柄を優先したいってことだな。


「なめられたもんだ」


「強者の余裕というものだ」


「強者ね。俺の視界に強者なんて一人もいないんだけどな」


「そういった言い様もあとわずかと言ったところだな」

 モスマンの声音に不敵さが増す。


「うぅ……」


「ミルモン?」


「なんか体が痺れるんだけど……」


「わ、私もで……す……」


「えっ!?」

 さっきまで迎撃で活躍していたコクリコが両膝をついている。


「シャルナ!」


「私はなんとも……」

 空を飛んでいるシャルナにはなんの変化もない。

 で、俺も。


「なんなんだ?」


「お前も直ぐに理解する。その小娘のように無様に四つん這いになり、苦しみながら死ぬがいい!」

 苦しみながら死ぬって言う以上、ほっとけば命の危険があるってことだな。

 やばい状況だ。

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