PHASE-173【まんまで笑いを堪えるのが辛い】
拳骨を見舞って直ぐに走り出すベル。
「流されてるならまだいいが、崩れた小屋の下敷きになっていないことを祈らないとな」
ベルに続いてゲッコーさんも小屋へと走る。
続いてシャルナ達。遅れて俺とコクリコだ。
「誰かいますかー!」
幸いだったのが、小屋に使用している材料が、細い木と葉を多用していたことで、下敷きになってもさほどダメージがない事だ。
とはいえ、瀑布にさらされてしまえば呼吸もままならなかっただろう。
どうしよう、俺のせいでワックさんが最悪の状態で見つかったら……。
怖くて震えだしてしまう。
「あそこだ!」
流石はゲッコーさん。誰よりも見つけるのが早い。
倒壊した部分に走り出すので後を追う。
木材が折り重なっているところ。若干だが動きが見られる。
山賊の可能性もあるからと、ゲッコーさんは麻酔銃を構える。
俺たちも身構えつつ木材を撤去していく。
「ゲホ、ゲホ」
うむん……。
俺の魔法のせいで、土壁が泥となり、それが体についていて、山賊なのかワックさんなのか分からないったらありゃしない。
「眼鏡、眼鏡」
なんて言いつつ、体を丸めて眼鏡を探し始めたのが、この泥人間の第一声。
泥人間って失礼だな。俺が原因なのに……。
「この声はワック!」
シャルナが確認を取った。
「「ああ、よかった」」
シンクロするシャルナとワックさん。
シャルナはワックさんの無事から。
ワックさんは眼鏡が見つかった事での安堵からで、意味合いは違ったものだ。
泥まみれのワックさんは、俺の魔法が作りだした水たまりでジャブジャブと顔と眼鏡を洗い始める。
眼鏡が傷ついていないか、生い茂る木々の中でも空に向けて確認し、大丈夫だったようで眼鏡をかける。
「ああ、よく見えるよ」
安堵しつつこちらに顔を向けた瞬間――。
「ぶはっ!」
思わず俺は吹き出してしまう。
急に俺が吹き出すもんだから、俺に対する周囲の視線は冷ややかだ。
こんな状況にしておいて、反省しているのか! といった感じである。
だがしかたないだろう。なぜにワックさんは、まるこくて厚みのある黒縁眼鏡なんですかね。
まんまじゃねか! って台詞が、吹き出した後に出なくてよかった。
絶対に怒られてたから。
赤い帽子がハンチングに変わってるだけだし。
そこだけ差別化をしてもさ、変わんねえよ。
やばい――――、また笑いそう。
「ワック!」
「やあ、シャルナ」
喋るニュアンスも、おっとりしていて優しい声だ。
というか、声もそっくりだ。
だめだ、俺の笑い耐久値が臨界点を突破しそうだ。
「まったく、無茶をして」
本当だよシャルナ。
この人物は明らかに無茶ですよ。
見た目も声もアウトだよ。
二次創作になっちゃうよ。
「面目ない。ところで、こちらの方々は」
心の中で、ふっふっふ――と、呼吸を整えつつ、出来るだけワックさんの顔を見ないように心がけ、何とか臨界点突破を阻止してから。
「俺は王より勇者の称号を与えられたものです。名は亨。皆はトールと呼んでいます。この六花のマントが勇者の証です」
即座に背中を向いてマントを見せる。
これならワックさんを直視しなくていいからな。
「ほ~。こりゃすごいや」
やめて、その語調。背中向けてても笑いそうになる。
「では、瘴気が消えたのも勇者殿たちの活躍によるものですか?」
コクリと背中を見せたまま頷く。
――よっし! 笑いを堪えることが出来たぞ。
「つい大魔法を使用してしまいまして」
下手したら大惨事だったからね。ここはちゃんと顔を見て謝罪した。
満面の笑顔で、いいですよ。と、返してくれるところから、ワックさんが人格者だという事はすぐに理解できた。
魔法は用途をちゃんと考えて使用しないとな。
魔法素人が調子にのってはいけない。
「それでゴロ太は?」
「ああ、そうだった!」
シャルナの質問に、焦燥を感じさせる声音で矢庭に立ち上がるワックさん。
「ハンター職に近い山賊たちに追われているようだ」
――――ゴロ太を探し出すために行動していたワックさんだったが、山賊に囚われてしまった。
山賊たちは主目標であるワックさんを捕らえて上機嫌。
さらに稼ごうとしていたのか、珍しい生き物を見つけたと、ハンター職の山賊たちのやり取り。
囚われた状態でも、その会話にワックさんは聞き耳を立てていた。
不思議なことに、ハンター職たちは、ワックさんには興味が無かったようで、珍しい生き物のほうに執着していたそうだ。
聞き取れた内容から、珍しい生き物がゴロ太だと判断。
山賊たちはゴロ太を捕らえるために、自分たちの中で狩猟に秀でた者たちで部隊を編制して、ゴロ太の後を追っているとワックさんは考えている。
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