PHASE-1416【逞しくなって何より】
「大将」
「おうラルゴ」
「また出迎えられなかったな」
「気にしなくていいよ。今回の演習だけでなく、王都付近でも訓練してるんだろうから」
「日々、鍛えてるよ」
元奴隷が中心となった俺の私兵。
爺様が俺の私兵になるのだから恥ずかしくない装備を! ということから私財を投入して準備をしてくれた装備。
ブレストプレートに、頭部を守るケトルハットは金属小札の
右手に槍を持ち、左腕にはヒーター・シールド。腰にショートソードを佩いての馬上の人。
「ちょっと!」
「なんだこの小っこいのは?」
「小っこいのとは失礼なヤツだな。いや、そもそもが失礼だ!」
ラルゴ達にご立腹のミルモン。
私兵の主である俺を前にして、馬上から挨拶をするのはいかがなものか! ということだった。
「ああ、悪い、悪い」
指摘されれば直ぐさま下馬。
戦闘訓練はしていても、まだまだ礼儀作法がなっちゃいないな。と、反省の弁。
別段、俺との間にそこまで堅苦しい礼儀は必要ないんだけどね。
でも――ミルモンはそうはいかない。
「兄ちゃんの私兵として活動するとなれば、お偉方とも接する機会があるからね。兄ちゃんが無礼を許しても、あんた達の行動で兄ちゃんに恥を掻かせる事だってあるんだ。その辺はしっかりと学んでほしいよ!」
「ごもっとも」
500㎖ペットボトルサイズの小悪魔に、壮年のラルゴは素直に頭を下げていた。
――……ミルモンもお偉いさんに対して大概、無礼だけどな……。
――とは言うまい。
「隊長。そろそろ始まります」
「おうリーバイ」
「会頭!」
俺が名付け親となったリーバイとの再会。
ラルゴを呼びに来たリーバイは、俺を目にすれば急いで下馬。
この若者の方が礼儀を知っている。と、ミルモンから高評価。
「お帰りなさい!」
「今回も無事に戻れたよ。それにしても――」
リーバイの頭頂部から爪先までを見て、
「立派になったね」
「これも会頭に救われたからこそです」
ミルド領にて奴隷として商品扱いだった当時は生気がなく、全てを諦めたような目をしていたけども、今はそんなことない。
精悍な顔立ちと眼力。
装備越しからも分かる褐色肌の筋肉は細マッチョ。
敏捷さとしなやかさのある筋肉だ。
「目にしただけで頼りがいがあるってのが伝わってくる」
「有り難うございます」
名付け親である俺が褒めれば凄く喜んでくれる。
「リーバイは俺達の中で一番の実力者になったよ」
と、ラルゴも嬉しそう。
ラルゴって四十過ぎてるからな。リーバイは大人っぽい顔立ちだけど俺より年下。
自分に子供がいたらこれくらいの年齢なのだろうといった感情もあるのか、ラルゴはリーバイを自分以上に自慢してくる。
「恩人である大将のためにリーバイは日々訓練だ。俺達の二倍――三倍は鍛えているぞ」
「オーバーワークにならないようにな」
「分かりました!」
快活のよい語気が返ってくるのは嬉しい。
今のリーバイは生きがいを持ってくれている。
まあ、戦いの中を生きがいにされるのもなんかアレなので、魔王を討伐したら違う生業を見つけてほしいよね。
「じゃあ大将。俺達は準備する」
「おう! 頑張れよ」
「大将の私兵だからな。恥ずかしい戦いはしないさ。当然、大将は俺達に賭けてくれるんだろう?」
「ああ――うん」
「なんだよその空返事は……。こっちのやる気がなくなっちまうだろうが……」
元々、賭けるつもりがなかったし、アルスン翁にゴブリン達を頼んだのは俺だからな。
その手前、ラルゴ達だけを応援するってのは気が引けてしまう。
ゴブリン達だって訓練課程が修了すれば、俺のところで活躍することになるわけだし。
つまりはラルゴ達と同じ私兵として活躍してくれるんだからな。
「う~ん……」
「いやいや、そこで悩むとか本気で傷つくぞ……」
「実戦に出るころには今回の対戦相手はご同輩になるからな。俺からするとどっちも大事な仲間になるんだよね~」
「付き合いが長い俺達に賭けてくれよ」
「じゃ、じゃあ、そうしようかな……」
さっきまで生気に漲っていたリーバイの表情が、俺が快諾せず思案した事が原因で曇ったからな。
「頼むぜ。儲けたら俺達の祝勝の宴の為に使ってほしいね」
「現金なヤツめ」
「そういった中で生きてきたからな。この性格だけは変えられん」
奴隷としていいように使われてきたからこそ、得られる時には絶対に手に入れる精神のようだ。
「よし! 出してやる! 祝勝会を開くためにも勝利を手に入れてこいよ!」
「おうさ!」
ラルゴを皮切りに、私兵達からも気迫溢れる返事。
馬上の人となれば、自分たちの猛りを馬たちへと伝えるかのように棹立たせ、勢いよく駆けて俺達から離れていく。
去っていく後ろ姿を眺め、馬の扱いにも慣れてきたようだ。と、心底で呟く。
「練度期間は王都兵に比べればまだまだ短いけども、引けを取らないくらいの成長はしてくれているようだな――――!?」
「全くですな」
「「「わあ!?」」」
俺の左下方より突如として聞こえてきた声に、ミルモン、ルッチとカルエスが驚きの声。
「流石は勇者殿。驚かないですね」
「ええ、横に立ったのに気付いていたので。音もなく、気配を殺しての接近は見事ですね」
俺の横では、腰の後ろで手を組むアルスン翁。
「それに気付く勇者殿こそお見事。しかし、我が静夜の歩法をもってしても気付かれるとは」
「その静夜の歩法ってネーミングはなんですかね! 俺やゲッコーさん、コクリコの琴線に触れますよ」
スニーキングの神であるゲッコーさんが、自分の歩法として取り入れそうなネーミングだよ。
「静まった夜闇に溶け込んで歩くが如く。そういった意味で若い時代に名付けたものです」
ホッホッホッホッ――と、濃紺色の頭巾の奥から聞こえてくる翁然とした笑い方。
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