PHASE-974【鉄仮面】

 ――――手応えのない連中。余裕の相手と思ったな。

 ――アレは嘘だ。


「前言撤回。心の中の呟きだったけど」


「分かったようだな」


「俺だって戦いを何度もこなしているし、その度に知識は蓄積しているつもりだぞベル」


「ならばどう判断する」


「もれなく全員が強いな」

 うん。間違いなく強い。

 今までの愚連隊崩れの傭兵団とは明らかに違う。

 見ただけで分かる統率の取れた規則正しい動き。

 迫ってくる集団が纏う毛皮のマントによって、まるで一体の巨大な獣ようにも見える。

 

 五百もいれば当然、駆ける足音はするが、それ以外の音がしない。

 防具は金属音が出ない鎧皮系が殆ど。そして得物となる担ぎ、佩いている利器には布が巻いてある。

 走る時、柄や鞘が体にぶつかっても音が出ないよう工夫されていた。

 巻いている布はご丁寧に柿色系。忍者の忍び装束でも利用される、闇に溶け込みやすい色を使用している。


 統率の取れた移動。その移動時において武具に工夫をする思考。 

 それらを見るだけで、練度の高い訓練をひたすらに繰り返し、実戦にて培ってきた経験を活かせる連中だというのが分かる。

 先生のユニークスキルの効果によって、素晴らしい統率がとれ、精強になった王都兵に似ていた。

 ちょっと力を手にしただけで浮かれていた傭兵達と同じ所属の者達とは思えないくらいに、迫ってくる連中は強い。


「大将」


「おうラルゴ」

 近衛や征北が休暇をとっていても、ラルゴをはじめとする百数人は俺の私兵ということもあって、休みを取らずに行動を共にしてくれるのでありがたい。

 目の前の連中を打ち負かしたらしっかりと休暇をとらせてあげないとな。


「戦いになった場合、俺達の後方で布陣して援護を頼む。間違っても前には出すぎないように」


「分かった」

 ラルゴ達はそこいらの兵士に比べれば十分に強くはあるが――、まだまだだ。

 先生のユニークスキルの恩恵で調練の底上げがされているとはいえ、目の前の連中とぶつかれば苦戦するのは目に見えている。

 

 装備は相手に負けていないんだけどな。 

 

 俺が公爵になったというのもあって、爺様が公爵直属の私兵の装備があまりにも粗末だと不満を漏らし、湖でのデモンストレーションの後にラルゴ達には爺様が私財を投じて装備を用意してくれた。

 ミルド領の兵達に合わせたケトルハットには改良が施されていて、小札によるしころが備わり、ブレストプレートにヒーター・シールドと、革製中心から金属製中心となった防具。

 ロングソード、ショートソード、槍からなる利器も、今までの物と比べてつくりがランクアップしている。

 

 他にも自分たちを強くするために、ラルゴをはじめとした面々が、魔法を封じた入れ墨であるマジックカーブを体に入れたとも耳にした。

 へっぽこ傭兵団の自己満足マジックカーブと違い、強くなって俺の力になりたいという決意からの入れ墨だという。

 嬉しくなってくる話だからこそ、ここでラルゴ達には怪我を負わせたくはない。


 目の前の連中は自己満へっぽこ傭兵団ではなく、強者からなる本物の傭兵達だからな。

 

 ――そんな傭兵団が俺達と距離を取りつつピタリと停止。


「では――」

 相手が停止すれば、コクリコが一歩前に出ようとする。

 そこで――、


「ここは俺が行かせてもらう」

 なんたってここは俺の屋敷だからな。

 屋敷の主として敷地内に武装して闖入する理由をたずねないといけない。

 俺の声のトーンが本気だったからか、コクリコは「そうですか」と言って、素直に下がってくれた。


「こんな時間に何のようだ? こっちは物騒な連中を招待した覚えはないぞ」

 問えば一歩前に出て来る男。

 赤毛短髪の屈強な体躯からなる男がこちらを見据えてくる。

 

 ビジョン未使用だけども月の光だけでも分かるほどに、相手の眼光の強さがこちらまで伝わってくる。

 ――ありゃ相当に場数を踏んでるな。

 背負ってる得物は布で巻かれてるけど、形状からしてバトルアックス――いやウォーハンマーだな。


「我は団長補佐であるガラドスク・ゼイホス。二つ名は必壊ひっかいのガラドスクである」

 うん、二つ名があるところがこの傭兵団らしいところだな。

 今までのその他とは違って、通り名がハッタリじゃないのは見ただけで分かるけど。

 でもって団長補佐ときたか。多分だけど、副団長のガリオンと同等の階級ってところだな。

 となれば、強さも同クラスと見るべきだろう。

 戦うとなればキツい相手になりそうだ。


「で、その団長補佐殿が話さないといけないということは、隣に立つ団長殿は喋れないのか? それとも引っ込み思案なのかな?」

 ちょい挑発気味に、嘲笑混じりに言ってみる。


「ほう、団長と理解するか」


「そら出来るだろ」

 最前列の中央で強そうな連中に挟まれて立っているし、そのうちの一人が団長補佐と名乗れば、間に立つのは団長くらいなもんだろう。

 

 団長として威厳があるかとなれば、両サイドの男達に比べるとないけどな。

 周囲の鎧皮系と違い、金属のフルプレートを装備している団長。

 その鎧越しにも分かるくらいに細身で、身長も俺とそんなに変わらない。

 鉄仮面を被っているところが俺の中二心をくすぐるけどな。

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