PHASE-17【乗馬】
「――――ふむ」
手綱を引いて、俺の周囲を駆け足にて操るベル。
納得がいったのか、首肯している。
「兵の質は低いが、馬はよく調練されている」
それを周囲に兵がいる中で、はっきりと口にするなよ……。
正鵠を射られているからか、偉いさんである将軍に、兵達も苦笑いしか出来ないでいる。
怒ることなく笑えるだけ、人格者なのかもしれない。
「早く乗れ」
はいはい……。で――、どうやって乗るんだ? しっかりと止まってはくれているけども、俺の股はベルヴェットのように、Y字バランスをとれるようには開かないぞ。
経験がないと、いざ騎乗しようとすれば気後れするな。
「しかたがない奴だ」
と、俺の横で手を伸ばしてくれるベルヴェット。
掴めば引き上げてくれる。
「
「ありがとう」
こういった指導は丁寧にしてくれるんだよな。
資料設定でも、部下の面倒見はいいとのことだからな。俺は部下ではないけども。むしろマスター的な立場だけども。
先ほどのベルヴェットのように、俺も馬を操ってみる。
「――――お!」
調練されてるって言うだけあって、俺が騎乗する白馬は、俺の無駄な動きを制してくれる。
初めて乗るけど、自分で歩いているみたいに安定してる。
「こういう馬を名馬っていうんだろうな」
独白のつもりだったが、この言葉を聞いて、ベルヴェットの発言で苦笑いだった人達が笑みを湛えた。
大切に育てた馬が、勇者に褒められたのが嬉しかったようだ。
「付いてこい」
と、言えば、黒馬に乗った美人様が、門の代用になっている土嚢の間をすり抜けて、西門から外へと出て行く。
「早えよ」
俺は将軍たちに会釈をしてから手綱を引く。
「頼みました」
重く低く、だけどしっかりとした語気である声を背中で受ける。
ナブル将軍の強い意志を感じ取れる、そんな声だった。
声を受けてから、ドンドンと加速して前を行く従者に付いていく。従者って、従う者って書くんだけどな。
駈足から次第に襲歩になっていく黒馬。
黒馬だから純白の軍服と、同色のケープが栄える。
徐々に加速し、なびき始める赤い髪が陽射しを浴びれば、燃えているかのような煌めく美しさ。
「いいね~」
おっさんくさい感想が口から漏れてしまう。
出来れば後ろに乗せてもらって、その細い腰にガッシリとしがみつきたいとも思ってしまった。
「何を惚けている」
――――おっと! トリップしてたら、いつの間にか速度を落として、併走してくれている。
「最低限の走りは、砦までには体に叩き込んでおけ。実戦こそ一番の調練になる」
付いてこいとばかりに、またも速度を上げていく。
俺としては後ろ姿を見たいけど、遅れると怒られそうだから、懸命に付いていくことを選択。
――――さすがに襲歩になれば、馬が地を蹴る度に、ズンズンと体に衝撃が伝わってくる。
これが砦まで続くとなると、流石にきついな……。
「どうした? まだまだ先は長いぞ」
素っ気なく言わないでくれる。こっちだって頑張ってるから。そもそも一長一短で上手く乗れる才能あるなら、俺この世界でやってける自信あるよ。
よくよく考えたら、昨日の今日だぞ。俺、昨日、日本で蝉に驚いて死んだばっかりだよ。
まさか一日が経過した時点で、砦攻略とか思いもよらないぞ。しかも二人で。
――――ん? 先頭をひた走っていたベルヴェットが乗る黒馬の速度が落ちてくる。
俺へと顔を向けつつ、前方に指を伸ばし、
「さあ、慣れるのに一番適した状況だぞ」
は? なんで笑ってるんだよ。
長く綺麗な食指に沿って前方を見るけども――――。あん? なんかあるか?
目を細めて見てもなんも見えん。
視力は右左共に1.2程度だから決して悪いわけではないが、俺には見えないものが、ベルヴェットには、はっきりと見えているようだ。
あの発言と笑みからして、嫌な予感しかしないけども……。
――……ほら……、嫌な予感とかだけは本当に当たるもんだ……。
馬上で抜剣ですよ。
剣を抜いたあたりから、俺にも確認できたよ。
前方には、王都を攻めていたオークの軍団と同じ奴らが休憩をしているのか、座ったり寝そべってたりしている。
剣を抜いた、赤髪が目立つ美女が、馬にて全速力で接近してくれば、容易く発見し、慌てて武器を手にして迎撃の態勢。
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