PHASE-495【白銀の強者】
「蛮勇は褒められん」
雄々しく攻めてくる護衛軍に対しての、ベルの感想はコレだった。
本来の力なら、レイピアを横に薙ぎるだけで、炎の津波に敵が呑まれる事になるけども、現在はそれは出来ない。
それでも問題はないだろうけど、迫ってくる敵全てを相手にすれば、
全体攻撃が出来ない状況だから仕方がない。
「ふん!」
俺に迫る驚異の前では、悠長に構えてはいられない。
出来ればベルと共同で当たりたい相手なんだけど。
デスベアラー。レベル87は伊達じゃない。
壁を力任せの一突きだけで突き破り、切り裂く存在。
そんな膂力によって握られる大剣が、大上段から振り下ろされれば、俺がさっきまで立っていた床が抉れる。
電柱のような棍棒を持ったトロールのような一撃。それを一振りの剣でやってのける。
質量を無視した一撃を目にすれば、背中に冷たいものが伝ってくる。さっきから伝わりっぱなしだけど。
――波状の剣。
炎のような揺らめきからなるデザイン。確か、フランベルジュとかいう大剣。
身長と剣身があまり変わらない大剣。
両手で持って使用するだろう大剣を片手で軽々と振るってくる姿は恐怖だ。
「ちょこまかと」
スピードで逃げ切りたいけど――、
「くぅ……」
咄嗟に炎の盾で防ぐ。
今度は正面からの斬撃だった。
逃げ切りたくても相手には瞬間移動があるから、撒くのは難しい。
炎で防いでいるのに、振られた剣の衝撃は、しっかりと俺の体の芯まで伝わってきた。
「防ぐとはな」
「くあ!」
防がれてもお構いなしとばかりに、今度は拳を炎の壁に叩き付けてくる。
炎の壁に触れてもダメージは見受けられない。
むしろ、俺の方が後退する。斬撃と殴撃によるラッシュは、今までに経験のない圧倒的なプレッシャーだ。
腕試しでベルを怒らせた時のプレッシャーとはまた違う。実戦特有の緊張感。
どっちにも共通するのは、背後に死がヒタヒタと迫ってくる感覚だ。
「ドカドカと好き放題、斬りつけたり、殴りやがって」
隙が全くない剣速と拳速に、反撃が出来ない。
だが、こっちは一人ではない。
「コクリコ」
「ライトニングスネーク」
言われなくともと準備万端。
耐えきる俺がなんとかバックステップで距離を取ったところに、コクリコが現状使用出来る最強魔法を唱える。
「――――で?」
――……だよな。レベル87だもんな。中位魔法程度だとダメージも入らないか。
雷撃は容易く打ち消された。
そもそもこいつはスモールゴーレム。ゴーレムと言えば大地から創造された存在。
大抵のゲームなんかだと、大地系は雷系に強いからな。
シャルナに目を向ければ、
「ウインドランス」
風の槍が轟音と共にデスベアラーに直撃。
高速移動も出来る存在が回避を選択しないってのがな……。
「心地のいい風だ」
風系も通用しないようだな。
白銀の体は岩とか鉱物で出来てんのかな?
魔法など通用しないとばかりに、直撃しても気にも留めずに、俺だけに攻撃を傾倒する。
炎熱や電撃、風には耐性があるようだけども、大地系の存在ならば、炸裂、爆裂、後は水系の魔法なら効果はありそうだな。
俺も一応は使用出来るけども、ここでは――狭すぎるかな。
くそ、大魔法って限定されるな。
最悪、使用は考えるが、ここはまず、
「シャルナ。水系よろしく」
「わかった」
二千年ちかくの時間を生きてるんだもの。水系だってお手のものと、エルフ様は即座に魔法を唱えてくれる。
「カスケード!」
「むぅ!?」
俺へと強い足取りで迫ってくるデスベアラーの頭上から、突如として顕現した水が、ゴウゴウと激しい音と共に降り注ぐ。
俺が使用するスプリームフォールの可愛いバージョンだ。
可愛いといっても威力は馬鹿にならない。
白銀の体にかかる水圧はかなりの威力のようで、強い足取りが停止し、煩わしそうに左腕で、流れ落ちる水を防ごうとする。
「ついでだ、コクリコいったれ」
「ライトニングスネーク!」
さっきは通用しなかったけども、バリバリと音を発し、電撃が蛇行しながらデスベアラーに直撃。
先ほどは打ち消されるように消滅したが、今回は、青白い閃光が白銀の体全体に走った。
「ぬぅ!」
流石に感電攻撃は効果があるのかな?
体に染みこんだ水により、電撃が体内を襲っているのだろうか?
青白く輝きながら、デスベアラーの体全体から、濛々とした白煙が立ち上る。
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