PHASE-322【イケメンの興奮は、女性には見せられない】

「記念すべき拠点を奪ったのですから、名前をつけましょう」


「――――はあ?」

 名前ね~。既成事実のためにも名前をつけたいそうだ。

 リオスの近くなんだからリオス要塞とかでいいんじゃないの?

 洞窟にはダイヒレンがいるけど、共存するのだろうか? というのが名前以上に気になるところ。

 そう考えると、あんまり足を運びたくない拠点だな。

 でも、犠牲になったコボルト達のお墓をちゃんとしたものに出来るのは喜ばしい。

 

 それに魔王軍が南から侵攻してくるなら、この要塞がある事で、今後、王都が最前線にならないというのも進歩だよな。

 ダイヒレンはどうにかしてもらいたいけど……。


「どうしますか主?」

 ん? ああ、名前か。なんか目がキラキラと少年のように輝いてますね。

 女が惚れてしまうよ。


「リオス要さ――」


「駄目です」

 ズイッと身を乗り出してくるイケメンさん。

 俺の発言を断ち切ってくる。

 こういうのはちゃんとした名前を付けないと、人々の士気にも影響するらしい。

 その地で励む事は、選ばれた存在としてのステータスに繋がるから、ちゃんとした名前でなければならないそうだ。


 歴史から見ても、大抵の要塞とか基地って、土地名から来てるよね?

 リオス要塞ってちゃんとしてると思うんだけど。

 中二病を煩ってるくせに、何とも捻りのないネーミングで申し訳ないですけど。


「ここは、主の力で得た拠点です。つまりはギルドの拠点なのです」

 との事で、ギルド・雷帝の戦槌に相応しい名前にすべきだとの事だ。

 ギルドと王兵で協力して統治するとはいえ、得たのはギルドの手柄。よって、差別化を図るためにもギルドの名に近しいものがいいそうだ。


 他勢力と協力するためには、まずは優位に立つこと。

 いくら協力しあうといっても、決定権がなあなあになってしまえば、指揮系統に遅延と怠惰が生じ、楽観主義者の巣窟になるそうだ。


 盤石な一枚岩にするためには、片方が決定権を持たなければならない。

 得た方であり、現在の戦いを優位に進めているのはギルドなのだから、ギルドが決定権を有さないといけない。

 六花のマントを有している勇者こそが! と、熱のこもる先生。


「ナブル将軍は柔和に話を聞き入れますし、麾下の戦士団の面々もきっとそんなタイプでしょう。その分、ギルドからの指揮官は有能で勇猛な、王兵からも信頼の置ける人物を責任をもって選ばないといけませんね」


「そこが少し問題ですね……」

 と、珍しく声が暗い。

 未だに人材は不足。カイル達のような戦巧者を前線にも出したいだろうけど、新人の育成も大事だから中々に前へは出せない。

 私兵団を創設するとも言っているから、よけいに師事する者は前に出したくないといったところか。


「で、先生には要塞の名前に妙案があるんでしょうか?」

 暗いのは嫌なので話題を元に戻せば、


「はい!」

 と、元気な返事ですね荀彧君。真っ直ぐに手まで伸ばして。

 なのでどうぞと手を向ければ、


「この洞窟は面白い形状をしています。いえ、これは運命と言うべきでしょう」

 イケメンが鼻息を荒くするものじゃないですよ。

 隠していたかのように背中から筒状に丸めた羊皮紙を取り出せば、それをテーブルへと広げる。


「地図ですね」


「そうです。リオス近辺の地図です」


「これはリュミットが先生に渡して欲しいと言っていた物の一つですね」


「はい!」

 本当に元気ですね。

 ――――リオス近辺と言うだけあって、湿地帯が占める地図である。

 クランベリー畑の場所に、出没モンスターの注意書き。その中には巨大ワーム、ウォーターサイドの名前も記されている。


 地図にはコクリコがたまたま発見した道も描かれている。

 そのルートを先生の食指が沿うようにして動き――、ある場所で止まった。

 ある場所とはもちろん洞窟だ。

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