PHASE-713【食いたきゃ働け】
奴隷として長く働かされた事により鍛えられた筋肉。
奴隷でありつつも飼い主がしわかったのか、護衛の一人としても利用されたそうで、戦闘基礎も教えられたという。
教えられ力を得ても反抗できなかったのは、歴とした護衛もいたからってことみたいだ。
逃亡先では鍛えられた腕っ節でならず者達の上に立ち、いつの間にか百を超える連中の頭目になったわけだ。
「とはいえ、本物の戦闘巧者に出くわせば相手にならないのが現実だったわけだ」
跪いたままにS級さん達を見上げるラルゴ。
「相手が悪すぎただけだ」
と、フォローを入れといてあげる。
S級さん達を相手に戦って勝つというのは、この世界の強者達でも難しいだろうからな。
「境遇は同情するし、こういった情勢。でも悪事は悪事だ」
伯爵とは違いすぎる眼力にはやはり畏怖するようで、ラルゴはゲッコーさんから視線を逸らし、反論も出来ない。
「さあ、どうする?」
うん。まあゲッコーさんとの付き合いも長いですからね~。
当たり前のように俺に振ってくるのは分かってましたよ。
でもね、王土において砦を占拠。
この案件は王様に問うものでしょうに。
だからこそ流れるようなパスで、ゲッコーさんの視線をそのまま王様へと届けてあげれば、
「どうするのだトール」
おお……。イタリアサッカー発祥とされるカテナチオの如き堅守で、俺のティキ・タカを正面から受けとめて返してきたな。
なんで俺に丸投げなのかが分からない。
王様もゲッコーさんみたいに俺を試すつもりかよ。
ラルゴはアライメントで例えると混沌ではなく秩序側。つまりは俺たち側だろう。
紆余曲折した結果、ごろんぼう達のまとめ役になったようなものだ。
砦を占拠してたのも仮住まいみたいなもんだろうし。
これを否定してしまえば……、
「な、なんです」
コクリコを瞥見。
俺たちと出会う前は不法侵入をしまくっていたであろうコクリコも否定することになるからな。
「今まで力を行使したことは?」
「それは悪事としての行使ということか?」
「そう。特に弱者に対して」
「ない」
至極簡素な返答。
無駄に長ったらしくない分、信頼は出来る。
「人間、食わないと生きていけないし、こういった情勢下だからな。何よりも困窮した状態の中、閉塞的な空間での生活であったにも関わらず、統制を乱さなかったのを評価したい」
自分が助かりたいから、他人の取り分を奪おうと考える者達だって中にはいたはずだ。
瘴気のないルートから近くの村なんかを襲う事だって出来たかもしれない。
でも、それがなかった。
ラルゴに押さえ込む力があったということと、邪な情念を抑制できるだけの胆力を百余人のごろんぼう達も有していたからだと思う。
似たような境遇だからこそ連帯感もあったのかもな。
それが良い方向に傾いていたから、人々に迷惑をかけるような事がなかったんだろう。
こういった連中は――――、
「希有だ」
言葉尻だけを口から出しつつ、
「ただでさえ人手不足なんだ。いい大人を百余人も牢屋でだらけさせながら食べ物を食わせるなんて事はできないね」
「だったら――処刑か?」
「するわけないだろう。ラルゴ達は俺のとこで働いてもらう」
「なりからするに冒険者だろう。俺たちに冒険者になれと?」
「なりたいのか?」
「そこまで夢は持っていない」
「だったらギルドの雑用や、王都の兵達の助力でもしてもらおうかな。しっかりと働くなら寝食は保障するし、給金だって出す」
「敗者のあつかいとしては破格だな」
奴隷として使い潰すと思っていたのかな?
んなことはここにいる連中が誰一人として許さないし、俺も断固拒否する。
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