PHASE-1595【どえらい忘れ物……】
また一歩、ショゴス打倒へと近づいたと心中にて高揚している最中、腰を折るような――、
「あ……」
と、間の抜けた声が上がる。
声の主はゲッコーさん。何とも珍しい。
「どうかしましたか?」
問えば、ツッカーヴァッテの背中を膝歩きでササッと移動しながら俺へと接近。
「トール。耳をかしてくれないか」
「はいはい」
ゲッコーさんへと耳を近づければ、
「やってしまった……」
誰にも聞かれないように小声にて話しかけてくる。
そうするもんだから、要塞サイドの二人は何事かとこっちを見てくるので、笑顔を貼り付けて対応しつつ、
「なんです? なにをやっちまったんです?」
俺も小声で返す。
「あれだ。要塞に忘れ物をしてきた。とんでもない忘れ物を……」
「え!? なんですか?」
宙空から武器やアイテムを取り出せる人が何を忘れることがあるのか?
そう継げば、
「あの……アレだよ。アレ……」
えらく歯切れが悪い伝説の兵士だ。
らしくないじゃないですかゲッコーさん。
「はっきりと言ってくださいよ。俺は人よりやや劣る頭の持ち主なので、はっきりと言ってくれないと分からない事の方が多いんですよ」
「そうだな」
――……そうだな。って、面と向かってきっぱりと肯定されると、それはそれで傷つく面倒くさいお年頃な俺氏……。
「アレってのは、主にお前の剣舞に使用するモノだ……」
――…………。
――……。
ここで俺は頭を抱えてしまう……。
「つまりは……。マッチポンプのヤツですね……」
「そうだ……」
「C-4……ですね……」
「そう、
「忘れた数はいくつほど?」
「要塞東側に五十ほど設置している……」
「それは俺が行ったへっぽこ剣舞で消費した分を差し引いての数字ですか?」
「ああ……」
「……そうですか……」
五十か……。
五十……ね……。
「どうすんですか!」
「どうしようか」
戻るか。
いや、ここで戻れば何事か!? となる。
爆発物を要塞に仕掛けていたので回収します。って、正直に言えば言ったで、余計ないざこざを生み出しそうでもある。特にストームトルーパーの一部から。
かといって放置すればこれまた問題だな……。
「一応、俺以外は見つけられないところに設置はしているんだけどな」
「起爆させなければ――」
「問題なし」
ならば――、
「次の――機会にでも」
「そうだな。もしかしたら設置したことが功を奏するということもあり得るかもしれないしな」
「ですよね。もしかしたら天空要塞が魔王軍に乗っ取られるなんて事があるかもしれませんからね」
「そうだな。その時は設置したのを使って、相手を驚かせてやろう」
「ええ、そうならない方がいいですけど、もしもの時の保険として役立てましょう」
第三者視点なら、間違いなく駄目人間たちによる、駄目な弁解にしか見えないな……。
「だがそうなると、俺は今後、C-4の使用が不可能になるけどな」
ゲーム使用だからね。設置した順番に起爆するってのがネックなんだよね。
別の所に設置して起爆となれば、天空要塞でまず爆発が起こるって流れになるんだろうな。
この場合、距離とか関係なく爆発するのかな?
とりあえず、ゲッコーさんは使用禁止になるか。
代わりの爆発物で代替するか、S級の誰かに頼むかで対応しよう。
俺個人でも別ゲーから召喚可能だしな。
などと、お互いに言い訳と今後の対策を話しつつ、俺とゲッコーさんだけが知っていればいいこととして、話題を終える。
――風龍を救い出し、天空要塞に無事に連れて行き、ベスティリス達が堂々と俺達と同盟を結ぶのが主目標。
――外殻を取っ払った天空要塞から絶景を見渡したいという目的。
――更にここに一つ追加して、C-4 を回収するという目的も生まれたな。
共通するのは天空要塞フロトレムリにもう一度戻るってことだ。
絶対に成し遂げよう。
――決意と言い訳がごっちゃになったところで、
「もうすぐルドルクナスより出るころかと」
俺たち以上に外殻に詳しいミルディ。
その彼女の発言に合わせるように、
「おお! 久しぶり!」
曇天世界から抜け出せば、眼界に広がるのは蒼穹の世界。
急な明るさに目が眩む。
細目になりつつも、肩越しに後ろを見る。
灰色の塊。
そして俺達が出たのを確認したかのように、パッと雷光が走り、ゴロゴロとした雷音が体の芯まで届いてくる。
「ついさっきまで静かだったのに、出た途端に防衛システム再稼働って感じだな」
「次に勇者殿が訪れる時は、帰り同様、安心して入れますよ。敵味方の識別も可能ですので」
「それは助かるよミルディ」
返しつつ、曇天の塊を見やる。
出たばかりだから全体を眼界に捉えることは出来ないけども――、
「あの中で戦ってたんだな」
「ね。とんでもない存在と戦ってたんだよね」
思い返せば強者達のと連戦に次ぐ連戦をよくもまあ切り抜けられたもんだよ。
シャルナは自分の五体が無事で済んでいることが奇跡とすら言う。
「さあ、後は王都へと凱旋するだけです!」
ツッカーヴァッテの背にて立ち上がるコクリコは、王様たちにどういった活躍を語ろうかと考えているご様子。
要塞の主より賜った魔道具もあるしな。それを証拠として、大いに自分の活躍を脚色することだろう。
今までと違って、脚色を加えても信憑性は高い。
コクリコ個人の能力がそれだけ高くなっている証拠。
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