PHASE-1650【元は取れた】
「ほんなこつ、ありがたか」
「有り難くない!」
「まあまあ、これも製造所に入るためだから」
「くぅ!」
これならどんな男でも心を魅了されてしまう。
広域で活躍する王都の美姫なのでは? という疑念は、踊り子としての美しさの方に傾倒し芽生えることはないだろう。
ベルの美しさを際立たせるベリーダンスのようなオリエンタルな衣装。
「それを半日くらいで仕立てるなんてね。凄いね老公の店の人達」
「腕が見事なのは認めよう」
サイズもぴったり。
「有り難うございます」
「どこを見ながら言っている!」
「ひゃ!?」
「躱すな!」
「躱すよ! 明らかに首を刈り取りそうなハイキックだったじゃないか!」
「お前がだらしない表情になるからだ!」
言いながらも追撃を仕掛けてこないのは、動けばお胸様がまろび出てしまうからかな?
「まったく! お前という男は」
呆れられてしまうけども、男なら誰もが俺と同じリアクションになるね。
どんな連中も今のベルを見れば心奪われるっての。
「まあ、いい。これで明日は堂々と中に入る事が出来る」
「だな」
「それと――」
「なんだ?」
怒っていたと思ったら、なんか急にしおらしくなりましたよ。
なんか良い雰囲気な感じがするの。
ミルモンがいつの間にかソファからいなくなっているし。
今から二人だけのイベントでも始まるのかな。
製造所で踊る前に、俺にだけ見てほしいという流れなのかな?
「あの――な」
言葉が詰まっている。
何かを伝えたいようだが言いにくいといった表情だ。
「言いたい事があるなら何でも言ってくれ。俺とベルの間柄じゃないか」
良い声で言えましたよ。
「そうか。助かる」
「ベルの助けになるなら喜んでなんでもするぞ」
ということで見せてもらいましょうか。そのけしからん姿での舞というものを!
「
「大事?」
「ああ――」
――なにこの間は?
良い雰囲気とかじゃないぞ……。
明らかに悪い状況が発生して言いにくいといった感じだな。
何が起こったんだ?
「はっきりと言ってくれ」
「分かった。この衣装だが――買い取りとなった」
買い取り――だと?
「老公は協力って言っていたよね? 協力してくれるんだから俺としてはその衣装は無償で貸してくれたのか、貰ったもんだと思ってたんだけど。宿に戻ってきた後も催促とかなかったし」
「そうだったんだが、仕立てる時、職人達がこれを無償というのは流石にどうかと老公に申し立ててな。ちょっとした口論になってしまった。それを見ていて申し訳ないと思ったので買い取ると言ったんだ」
「うん」
となれば、
「おいくらだったのかな?」
継ぐと、
「円形金貨が三十枚だそうだ。これでも割り引いてくれたそうだけどな」
――…………。
――……。
「……トール?」
――……。
「大丈夫……か?」
さ……、
「三十枚! 円形金貨が三十まぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?」
「あ、ああ……」
三十枚? 日本円で三百万くらい!?
いくらなんでもふっかけすぎじゃないかな!
「あのジジイ! 俺からぼったくるつもりか!」
「いや、妥当だと思うぞ。むしろ良心的だろう。生地はとても良いものだし、身につけている装飾は純金と宝石からなる」
「ぬぅぅ……」
本物の金と宝石によるアクセサリーだったか。
だとしたら割り引いてくれてその値段ってのも頷ける……。
ベルが言うように生地も良いもののようだ。
薄地であっても丈夫そうだしな。できれば触りたいが流石にそれをすれば蹴られそうなのでやめておく。
キラキラとした装飾に情熱的な赤からなる衣装。
完璧に仕立ててくれた職人さん達。
素晴らし仕事ではあるが……、高額すぎだよ……。
俺とベルの冒険者装備よりも遙かに高いじゃないか……。
スティミュラント一本から始まり、エマエスへの報酬。
宿泊費に装備。
そしてトドメとばかりの踊り子の衣装代金も加算される……。
――……俺の巾着袋は完全にすっからかんですわ……。
今までケチケチして使わず、ズシリと重さのあった巾着袋がこの二、三日で軽くなっちまったな……。
「すまないな」
相談もなく買い取るという事を選択したベルからの謝罪。
「いや、いいよ。うん! これも今後の活動のためだからな」
と、見栄を張る。
「そう言ってもらえると助かる。もし手持ちに余裕がないなら言ってくれ。現状、持ち合わせはないが王都に戻れば少しは工面するように励もう」
愛玩達との店の展開を考え、得た報酬をソコにつぎ込んでいるみたいだから持ち合わせはほぼないだろう。
ベルの活躍からすれば報酬はまだまだあってしかるべきなんだけどね。
ギルドのクエストをこなしているわけじゃないからそういった部分で報酬はないが、功績を考えれば求めるだけで大金を得る事も出来るだろう。
でもここは――、
「いいよ。ベルは俺のパーティーメンバーだ。攻略に必要ならリーダーの俺が出すのが当然だ。別に工面とか考えなくていいから」
「いや、しかし――」
「ベルのこれまでの活躍を考えれば、円形金貨三十枚なんて安いもんだ」
遮って言えば、
「助かる」
典雅な一礼。
四十五度ペコリによる一礼にて我が目に入り込んでくる――TANIMA。
最高です。
露出高めの衣装を目にし、加えて撓わなTANIMA。
十分に元は取れました。
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