PHASE-625【メールをしなかっただけなのに】

「どうした? 時折、鳴るな」


「ああ、まあいいんだよ」

 そう、いいのである。別段、急いで見る事もないからな。

 ここはデートイベントをこなして、今以上に親密になりたい。


「あ――」

 さっきよりも後に続ける事が出来ない速さでピローン♪ と、メール受信音。

 久しぶりに聞いたからこの音にはドキッとした。

 だってメール送ってくるのって……、一人しかいないからな……。

 ゴクリと、音がベルに聞こえるくらいの唾を呑み込む。

 

「どうした? 顔色が優れないぞ? やはり飲みすぎたのではないか」


「いや、うん……」

 俺としてはメールを無視して今後のイベントを――、

 ピローン♪

 ピローン♪

 ピローン♪ ピローン♪

 ピローン♪ ピローン♪ ピローン♪

 ピローン♪ ピローン♪ ピローン♪ ピローン♪


「いやホラー!」

 どんだけメール送ってんだよ! 怖えよ。

 ここ最近まったくもって相手にしてなかったからって、メールの圧が恐怖だよ!


「なんだか用事が出来たようだな」


「いや、ちが……」

 俺の返事を聴かないままに、ベルがバルコニーから大広間へと戻っていく……。

 ――…………畜生めー!

 声には出さないよ。声に出すと戻っていくベルが自分に対しての発言なのか? と、不快になるかもしれないからね。

 心の中だけで怒りを発するだけさ。


「……ったく、なんなんだよ……」

 俺一人になったところで小声にて独白しつつ、まずはレベルアップを確認。


「一気に63か」

 52から11アップだ。

 リンやアンデッドとの戦いが大きな評価になったようだな。

 63もあればRPGだと、ラスボスどころか裏ボスも倒せたりするレベル。

 まあ、この世界だと幹部クラスが80や90を超えてたりするから、そうもいかないんだろうけど。

 63というアップには満足だ。

 ベルをデートイベントに誘えなかったイライラも少しは解消された。

 解消されると怒りのかわりに恐怖が強くなっていく。

 ――……メールラッシュは本当に怖い。

 精神的に追い詰められるものがある。


 開くのも嫌だが、ここ最近、本当に相手をしてなかったからな。

 よくよく考えると、フレンド登録した後にゲームとかやってないし。

 そもそも、この世界に来てからはゲームなんてやってないけども。

 

 固唾を呑み、勇気を出して受信メール一覧に目を通す。

 当然だけど差出人はセラのみ。件名がないのが余計に怖い。

 件名があればどんな内容なのか推測できるんだけどな。

 大量に来たメールの中から、最新のヤツを勇気を出して開く。

 

 ――………………。

 

 ――…………。


「ひぃ!」

 一瞬にして心臓が早鐘を打つ。

 思わず情けない声を上げてしまった。

 恐怖のあまり、手にしたプレイギアを投げ捨てそうになってしまったほどだが、残った片方の手で何とか制止させた。


 開かなければよかったという悔恨と、この段階で対応しておいた方がいい。という二つの考えが生まれた。


 メールの内容はというと……、


{レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を忘れてる? レベルアップおめでとう。私の事を…………忘れてる?}


「こ……怖い…………」

 ここまでの恐怖を抱いたのはベルを怒らせた時以来だと思う。

 ベルの時は背後に迫る死の恐怖だったけど、セラのは精神を病ませてくる状態異常を引き起こすような恐怖だ。

 セラの事を病んでいるとは推測してはいたが、まさかここまでとは……。

 レベルアップの通知音が来てレベルは確認しても、セラとのやり取りは面倒くさくて最近は放置してたからな。

 いや本当に、ここでメールを開いて良かったかもしれない。

 同じ内容を連続で書いている内はまだいいと思う。

 これが本格的に病んだら、文字化けかな? ってな感じになるんだろうからな。

 そうなると相手の精神が完全に壊れて、常に俺を悩ませてくる可能性がある。

 ここは迅速に対応する事で、あいつの精神を緩和させる事が肝要だろう。

 

 ――――勇気を出して俺は文字を入力していく。

 ――……へっ……、入力する指が、恐怖で震えてやがる…………。


「すぅぅぅぅぅ――はぁぁぁぁぁぁ――」

 大きく深呼吸を行い、勇気を出して――――送信。

 

 内容は――、


{やあやあ久しぶり。レベルが63にまで上がったよ。たくさんの賛辞の言葉を贈ってくれてありがとう♪}

 音符記号を入れる事で軽い感じにしてみる。

 

 長期にわたって連絡を取り合わない疎遠な関係に対して、久しぶりにメールのやり取りをしても、フランクな内容を送るのが俺って男。

 毎日のように連絡を取る相手でも、たまにしか連絡を取らない相手であっても、平等にフランクなメールをするのが俺って男。

  ――――的なことを文体から匂わせてみる。

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