PHASE-231【装備を貸してくれい】

「ほれ灯りじゃ」


「サンキュー」

 流石に洞窟内は真っ暗。小舟で運んでいた道具の中にはランタンも入っていて、ギムロンが火打ち石にて一発で火を灯す。


「ほれ嬢ちゃんも」

 

「ありがとうございます」

 と言って、ランタンの扉を開き光源として使用される蝋燭に向けて、


「ティンダー」

 と、唱えれば、指先に小さな炎が揺らめき、それを芯に移す。

 ファイアフライの使用も有りだろうが、移動中、常に発動するってのは精神的疲労も大きいんだろうな。

 ここは素直に道具に頼って正解だな。


「魔法は便利じゃの」

 ギムロンが羨ましそうに言いつつ、火打ち石をそっと雑嚢に仕舞う。

 首からぶら下げる認識票が赤色級ジェラグであっても、魔法の習得は難しいんだな。

 しかも、人間よりも長命であるドワーフが習得が難しいとなれば、人間だと本当に大変なんだろう。

 コクリコにタチアナ、先発のクオンって子、貴重な人材だな。

 コクリコを貴重と思うのには、引っかかるものもあるが……。


「ところで、ギムロンて歳いくつ?」

 長命で気になったので質問。


「ん? 二百十八のまだまだ若造よ」

 若造なんだな。

 立派な灰色の髭を自慢げにしごいての若造発言は、なんとも説得力がない。


 この風貌でシャルナより千七百歳くらい年下なんだな。


 ――……なんだよ! 千七百歳年下って!

 ファンタジー世界め! 違和感が仕事しまくりだよ。

 

 ――――荷物を確認してから歩き出す。

 さて、この狭い洞窟内。俺の得物ではいささか不便だな……。

 

 刀を振ると洞窟の天井や側面にぶつかる可能性がある。それが分かっているからギムロンはバトルアックスではなく、手斧を握っている。

 更に革帯には、小舟で運んでいたショートソードを新たに佩剣。


 クラックリックは刃渡りが三十センチくらいのダガーを右手に持ち、左手には俺やタチアナのランタンとは違い、松明を持っている。

 戦いに慣れている面々は準備も立派だ。


 対して俺は刀と銃。

 小太刀も今度から帯刀しないとな。


 洞窟内では、光を必要としない目を持つドワーフのギムロンが先頭。

 クラックリックと俺がそれに続き、最後尾がタチアナ。


「あんまり離れすぎないようにな。それと後方にも注意しといてくれ」

 とにかく足並みを揃えるのが大事と、発する。


「はい」

 スタッフを持つ手が強く握られるのが、ランタンのほのかな灯りでも分かる。

 駆け出しが挑む洞窟とはいえ油断は出来ないからな。

 背後から強襲なんてされたらたちまち混乱だ。


 タチアナが背後の警戒にも集中できるように、男三人は前衛に励もう。

 だが、今の俺の得物は頼りない。

 目の前には、俺が帯刀する得物を打ってくれたドワーフがいるから口には出しにくいが、長すぎる……。

 これならクラックリックの松明を俺が持とうかな。あの長さなら狭い空間でも振り回せるし。

 でも、棒切れだと心許ないし……。


「ギムロン。申し訳ないけど、なんかいい長さの利器はないかな?」

 

「おお! そうじゃな。そいつは振り回すのに難儀しそうだもんな。よし! とっておきを貸しちゃる」

 革帯に差し込んでいたショートソードを鞘ごと俺に渡す。

 

 鞘は革製。でもって柄も革製。柄はグルグルと巻いてるだけの革巻きだ。

 外観は一言で言うなら――、無骨。

 鞘越しから見て刃渡りは四十センチほどか。


「抜いてみ」

 ふふん! と、自信ありげに口角を上げてギムロンが勧める。

 言われるままに抜けば――、


「おお!」

 抜ききる前に感嘆の声を上げてしまう。

 理由は剣身だ。剣身が輝いている。

 ランタンや松明の光を受けて、鏡のように光を反射している。


 反射する光は火の色をそのまま反射するのではなく、青白い輝きに変換している。

 なんとも神秘的だ。

 美しくて、見入ってしまう。

 ここにベルがいたら、武器に魅了されるな! と、蹴りを受けるところだろうが、これは見とれてしまう美しさだ。


「すげ~な……この剣」

 無骨な革巻きや革鞘からは想像が出来ない剣身だったから、余計に美しく見える。


「そうじゃろう。これがワシらドワーフご自慢のミスリルじゃ」


「これがミスリル……」

 ファンタジーの代表的な素材が、ここで登場。

 ようやくお目にかかれたミスリル製の剣。

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