PHASE-635【霊薬】
俺がゲームをしている間にも、皆はちゃんと休日でも活動をしていたわけだ。
ベルは休日を利用してヴィルコラクのちびっ子達と楽しんでいる最中にも、リズベッドが王都に赴くという話も聞かされたそうだ。
魔王が動くとなれば、必然的に戦いに特化した集落の亜人さん達も俺たちと一緒に行動するということになる。
集落の強者だけでなく、リズベッドが動くとなれば、百を超えるサキュバスさん達からなる戦闘メイドも同行するわけだ。
一人インキュバスもいるけど。
コクリコは休日であっても、自身の現状の実力と素直に向き合って、シャルナに師事を受けていたという。
本当に、皆ちゃんと活動している。
そう思えば思うほど、置いていかれているという焦燥感も芽生えてくる。
「――――まだまだ準備はかかるみたいだし、体を動かして訓練をしないとな――」
って、本心から思った。
ゲームとはいえストレンクスンを持続できた。思考から指先への伝達速度も向上。
戦闘となれば、指先から残火を握った手に変わる。
戦闘に活かせるように、実戦に近い訓練で昇華させていかないとな。
「関心だな」
「ありがとう」
素直なベルの称賛が嬉しくもあり、申し訳なくもあった。
さっきまで面倒くさいからって、洗面器の水をすすってたほどの自堕落ぶりだったからな……。
「実戦訓練こそ体に身につくというもの」
――……。
「え?」
確かに実戦に近い訓練で昇華させたいとは思っているけど、発案者がベルとなると、嫌な予感しかない。
ベルと戦うのだけは避けたいんだけど。
トラウマが発動するだけだから……。
「も、もしかしてベルと手合わせか……?」
「なぜ声が震えている。私はあれだ。その……」
何を照れているのだろう。美人だけど可愛いじゃないか。
そういった表情はウエルカムですよ。
ま、どうせ、
「集落で手伝いか」
「ああ……そうだ」
うん。分かってた。
可愛い者達が関わらないと、そういった表情にはならないもんな。
寂しさ半分、ベルと戦わなくていいという安堵感が半分。
「じゃあ、実戦訓練となると何をすればいいんだろう」
「この都市の冒険者たちをギルドに勧誘するためにも、大きなクエストでもこなしたらどうだ」
実績が伴えばそれだけ名声を得る事も出来るということだ。
大きな都市であり、王都方面と違って瘴気の影響もないことから冒険者たちの活動は活発で、当然ながらギルドがいくつもあるという。
ギルドの代表と仲良くなったり、野良の方々を勧誘するためにも、ここはこの都市でも珍しいクエストをこなせば、更に俺たちの名声も高まるというもの。
「う~ん。どんなクエストがあるのかな~」
この辺のクエストは比較的ゆるいって話だ。
魔王軍の脅威が王都に比べれば無いようなものだから、採取クエストなんかが多いという話。
討伐系もあるようだけど、採取クエストが人気のようだ。
以前に見た冒険者たちの装備はいい物だったから、身なりに余裕があるという事は、採取系でも十分に生活が出来るだけの収入があるんだろう。
だからといって脆弱って訳ではない。
採取の時にだってモンスターと遭遇するわけだし、
採取系に偏っているみたいだけど、冒険者としての実力は本物だろう。
そんな本物たちを採取クエストであっと言わせる事が出来るような物をゲットすれば、勇者トールはやっぱり凄い! って事になるんだろうな。
「どんな物をゲットすれば鼻高々になれるかだな」
やるからにはレアアイテムをゲットしたい!
現在、皆さんの頑張りに触発されているから、やる気は十分。
ぶっちゃけ皆の頑張りを聞いていなかったなら、残りの休暇もゲーム三昧で、自堕落がベルにばれて怒られるってのがパターンだっただろう。
そんな円環の理から脱している俺は頑張るモード。
休暇を返上してでも名声を高める事が、ギルド会頭としての責任でもあるからな。
「エリクシールです!」
と、ここで快活な声による提案が上がる。
「急にどうしたんだコクリコ」
「採取となると最高峰はやはりエリクシールでしょう」
エリクシール。シャルナと採取をしてた時に聞いた話だと、死んでさえいなければ、どんな状態からでもたちまち回復する奇跡の霊薬だって話だったな。
作るための素材は、巨龍の爪だったりを集めて、加えてそこに大魔法なんかを封じるという超がつく高等技術を投入して作り出す霊薬。
確か大魔法を封じるという技術は、シャルナでも無理だって言ってたな。
悠久の時を生きるエルフであっても、作るのが困難となれば、正に奇跡の霊薬。
エリクシールの素材となる物を一つでもゲット出来れば、採取がメインのこの地の冒険者たちから注目を浴びることは間違いないな。
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