PHASE-536【引っ越し準備】

 地龍と耳にすれば、そこは神に等しき存在なので、皆さん主のリズベッドの時と同様に跪く。


「その様な恭しさは不要だ。準備次第この地より脱するべきだ」

 なんて言ってるけども、地龍として恭しくされてまんざらでもないご様子。

 お馬さんじゃないもんね。

 再度の提案を皆さんが耳にすれば、一斉にリズベッドへと指示を仰ぐように視線を向ける。


「パルメニデス様の仰るとおりです。皆さん準備を」

 ――――発言後の集落の皆さんの動きは素早かった。

 俺達の前から直ぐさまいなくなる。語り足りなかったのか、コクリコは不満げな表情だったけど。

 迅速なる行動で準備を行っていく。

 元々が仮の住まいって事もあって、荷物そのものが少なく、食料や衣服、得物さえ手にすれば直ぐにでも出立できるとの事だった。


「家畜はどうするんです?」

 俺たちの為に振る舞ってくれた、ガルム氏たちが大切に育てていた家畜。


「可能ならば連れて行きたいが、移動が鈍化するのはな……」

 肉、ミルク、卵の食料。骨、腱、毛皮、革製品となって生活を支えてくれた存在たち。

 ただ放置するとなると、モンスターの餌になってしまうのは忍びないとも思っているようだ。

 子供たちも家畜の世話をしているからか、ガルム氏の声音のように表情は寂しいものだ。

 こうなると誰よりも素早く行動する人物がいる。


「トール」

 決まっている。ベルだ。愛玩たちの願いを聞き入れる女神、ベルヴェット・アポロ様。

 そんな女神様が何とかしろとばかりに、俺の名前だけを口にする。


「飼い主たるもの、責任をもって最後まで面倒を見ないとな」

 マンティコアを見つつ発する。

 俺自身にも戒めるように。


「助かる」

 深々とガルム氏が頭を下げてくる。

 これから自分たちが向かう土地。

 知らない土地で得られる物も無いままに行動するより、あった方がいいとの考えはやはり大事だ。

 侯爵が統治するバランド地方なら豊かだし問題はないだろうけど、子供たちを寂しい表情にしたままってのは勇者として見過ごせないからな。

 だが問題もある。

 ――――輸送だ。

 多くを運ぶのに適しているのは、軍用の五トントラックだけなんだよな。


「家畜の数は?」


「大小入れれば百を超える。牛だと三十ほどだ」

 それに加えて豚に羊、ニワトリってことになる。

 五トントラックを出したとして、運転できるのはゲッコーさんとベル。

 確実に往復の運転になるだろう。

 そもそも、見たこともない乗り物に家畜たちが簡単に乗るとは思えないし、固定しないとトラックから落ちる事にもなる。

 

 ゲッコーさんの見立てだと、大小いるけど牛は平均して一頭を600キロと見ればいいという。それが三十となれば18000キロ。つまりは18トン。

 これに豚なんかの家畜も入れれば……。

 トラック二台で三、四往復はしないといけないような気がする……。


「ここから近くの海岸までどのくらいかな? 砂浜がいいんだけど」

 流石に最初に上陸したところを家畜を連れて崖下りってのは無理だからな。

 ガルム氏に問えば、

 

「北の方に砂浜海岸がある。そこなら俺たちの足で半日だ」

 ハンヴィーに併走できる脚力でそれなら、トラックも同じ速度として、四往復と見立てれば、一往復で一日……、つまりは四日。

 ――……駄目だ、時間がかかりすぎる。


「頭を悩ませているな勇者よ」


「どうにかしてよ地龍」


「いいだろう」


「出来るんだ」


「その為には皆の力を出し合わないとな。私とて現状では力の全てを出せるわけではないからな」


「これが終わったらしばらくはゆっくりと出来るから」


「長だけに無理はさせられんのだが」

 今現在、火龍は一柱で浄化にあたっているだろうからね。

 でも、十全とはいかずとも、少しは休んでもらわないとな。侯爵領についたら皆にはゆっくりしてもらおう。




 ――――とりあえず麓の集落から少し登ったところで放牧している家畜たちを集落まで集めた。

 ここの皆さんに慣れているからか、柵がなくても逃げることがない。

 暗がりの中でもヴィルコラクの面々は夜目がきくようで、なんの不自由もなく放牧していた家畜たちを集めてくれた。

 数を数えて、ちゃんといる事も確認。


 ニワトリだけが集落の鶏小屋で飼われており、現在は蓋の突いた網かごに移されている。

 

 集落の皆さんは頭陀袋や背嚢を背負い、いつでもここから出られると準備を終えた状態。

 ヴィルコラクのちびっ子たちにもしっかりと戦士の血が流れているようで、腰には雑嚢とは別に、革鞘に納まるボウイナイフサイズの刃物を佩いていた。

 俺から見てボウイナイフだから、この子たちにとっては立派な刀剣だ。

 将来は父親みたいに、巨人が使いそうな剣みたいな槍を軽々と振り回す戦士に成長するんだろうね。

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