PHASE-551【ネクロマンサー】
大貴族で広大な領土を統治する人物なんだから、苛烈さもあって当然だろうけど、理性より感情が先行しているのは統治者としてどうなのだろうか。
だとしても、五万を動かせるってのは王都から考えたら凄い事だけど。
もちろん実行すれば各地の防衛力はそれだけ低下するから、本来、実行するのは難しいだろう。
最低限の防衛力を配置して五万の派兵って事だから、五万ってのは総動員に近いと考えていい。
そうなると各貴族や豪族に対して兵の派遣を要請しないといけないし、その時の兵糧、物資を何処が出すのかでも揉めそうな気がする。
実際に動員できるのは、動員しないと領地全体が危機に陥ってしまうって時くらいじゃないと、総動員という選択肢は実行できないだろう。
となれば、やはり現実的じゃない。
「感情のままに兵を動員すれば大きな損害が出ますよ」
ゲッコーさんが冷淡に具申する。
用兵も卓抜した人物からの発言。冷ややかな声に熱が下がってきたのか、侯爵は口を真一文字にして苦い表情。
勢いで発言した感情と、踏みとどまろうという理性が頭の中でせめぎ合っているようだ。
「ゲッコー様の言うとおりですエンドリュー候。多くの派兵を実行しても被害は大きくなると思います」
「負けると?」
「それは分かりませんが、被害は大きいでしょう。その間に姿をくらますことも考えられます」
「負けなくとも時間はかかる相手ということですか? 廃城にそのような大多数の者達がいるという報は入っておりませんが」
いくら廃城とはいえ、近隣の町や村にもちゃんと兵を配置し、バランド全体を監視させているから、大規模な動きがあれば耳に入ってくる。
「個であり衆でもありますから」
リズベッドの言い様はなぞなぞのようで皆して首を傾げてしまう。
分かることは、廃城を塒にしている存在が強者ということだろう。
リズベッドが記憶しているマナとなると、
「魔王軍のどこの所属なのかな? リズベッドの派閥なら話せば解決しそうだけど」
「彼女は魔王軍ではありません」
彼女――、廃城の主は女か。
「魔王軍ではないとしても、ゼノの言い分を聞き入れているから人間サイドとは敵対関係と考えるべきだよね。となると第三の勢力?」
「どうでしょうか、単純に自分に関わってほしくないから、それを条件に協力したと考えた方がいいかと。喧騒を嫌いますから」
「――――リズベッドは完全にその人物のことを知っているよね」
「ええ、怜悧な人物です。生前はこの大陸で活躍されていたのですよ」
もはや過去のこと。
でも、現在も存在するような言い方から察するに、死者であり自らの意思で活動が可能な人物。
ゼノのようなヴァンパイアと同じ高位のアンデッドということになる。
「生前の活躍っていつ頃の話なの?」
「今の王から遡って六代ほど前でしょうか」
――……大体、二世紀くらい前って事かな? 先王達の天命にもよるけど。
「当時は今ほど人々と魔族との間に大きな争いはなかったのですが、その……、人の驕りが原因で、亜人達との間で大きな戦いになったこともありまして」
「あった、あった」
と、ここでシャルナだけが話に乗れるという状況。
驕った人々に対して、エルフやドワーフの面々は自重を求め、この時の亜人との戦いに対しては人類に味方をする事はなく、戦いを早期停止するように、双方の説得に努めたそうだ。
が、それでも双方が戦いを止めることはなかったそうだ。
で、人間、亜人に多大な損害が出る無益な戦いを絶大な力で収めたのが、
「現在、アンデッドのその女性か」
「そうです。偉大なるネクロマンサー。リン・クライツレンです」
「なんと!? 彼の大賢者であるリン・クライツレンですか。その方がこの地にいらっしゃると!?」
「マナの痕跡が確かなら」
驚きの侯爵。
歴史上の大英雄だそうだ。
練兵所などの学舎において、戦史教本に必ず出て来る名前らしい。
かなりのページ数で彼女のことが紹介されているという。
ネクロマンサーは魔術師職で最上位の存在だそうだ。
ゲームなんかでもお馴染みの最上級ポジションだよな。
捏造も辞さない姿勢で、自伝を書くのに一生懸命な、なんちゃってロードウィザード様とは違い、ガチで凄い魔術師。
ネクロマンサーと聞けば、確かに大軍勢にて派兵すれば、損害も大きくなりそうだ。
俺の知るネクロマンサー同様に、この世界のネクロマンサーも死者を使役して戦わせるそうだ。
個にして衆とリズベッドの言っていた理由が分かった。
下手したら無尽蔵にアンデッドの軍勢を使役できるかもしれない存在。
戦死者が出れば、その人がアンデッドの兵に変わる事だって考えられる。
しかも最上位の魔術師でもあるのだから、一発で形勢を逆転させられる大魔法だって使用出来るだろう。
リズベッドはオブラートに包んだんだろうな。
正直、精兵とはいえ通常装備の五万の兵では太刀打ち出来ないだろう。
魔法付与の装備とかなら話は別だけど、五万が五万とも魔法付与の装備で身を固めるなんて事は、如何にこの潤沢な地であっても無理だろう。
戦いとなれば、ジリ貧になって、数の利が逆転する未来しか見えない。
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