PHASE-987【感情は表に出やすい】
「コクリコ。相手は強いぞ――やれるか?」
「この程度の使い手に遅れは取りませんよ。それよりもトールは自分の相手に集中した方がいいですよ」
しっかりとシェザールの台詞を模倣して挑発する余裕はあるようだが、普段の勝ち気な口調とは少し違って真剣さを纏っていた。
仕方のないことだろう。
目の前の相手は副団長であるガリオンと同クラスの使い手だ。
正直、コクリコだけではちとキツいのも事実。
さっきフォローしてもらったから、そういったネガティブな発言を本人に言うのは気が引ける忖度勇者な俺。
ここはシャルナにお願いしようとしたところで――、心地の良い風切り音がシェザールへと接近。
軽やかな音色は矢羽が奏でていた。
「エルフが!」
プロテクションでしっかりと防ぎ、髪で隠れた顔から目だけを出しての睨み。
「あんまり無茶はしちゃ駄目だからね。コクリコ」
「援護は頼みますよシャルナ」
「お任せ!」
俺が言わなくてもしっかりとシャルナがコクリコを後衛として掩護してくれる。
――……コクリコも後衛なんだけどな……。
変な感じだがいつものことだ。
「マイヤ!」
「はい」
言えば即座にコクリコの横に立ってくれる。
よしよし、これで問題なし。
「あのローグ風の女が入らなかったなら、隊列は珍妙なものだったな」
「言わないでくれる。悩みのタネでもあるんだから……」
流石に後衛が前衛で戦う姿は不可思議であると鉄仮面。
「それで――仕掛けて良いのかな?」
「今まで待っててくれたんだ」
「私はこう見えて慈悲深いのでな。最後になる仲間の勇士をしっかりと見せてやった」
「仲間の最後を見せてやったとか、こっちをなめすぎ。むしろ三対一で卑怯とは言うまいな?」
「戦いとは有利に事を運ぶが定石。当たり前の選択だ。それになめているなど毛頭ない。お前の後方でこちらを見ている者達を目にしてそう思う者は、私を含め同胞達にはいない」
「俺がお宅の立場なら間違いなく降伏するけどな」
「それはお前が弱者だからだ。それに仲間の最後の勇士をしっかりと見せてやるというのは、あの者達の死だけではない。お前が仲間と別れ冥府へと旅立つという意味合いでもある」
「くぐもった声だけど、しっかりとこっちを馬鹿にしたのは分かった」
分かったのでしっかりとコイツを倒して分からせてやらないとな。
俺の後方に陣取っている連中だけが強いってわけじゃないって!
俺もコクリコもお前等に負けないくらいの戦いは経験してんだよね。
「お前等も俺達みたいに魔大陸で経験を積んでから、俺達を侮辱するんだな」
「世迷い言を! 上に立つ者が虚言を吐けばそれだけで真実になってしまう。私はそれが無性に腹立たしい!」
「魔大陸に行ったのは真実だよ」
「黙れ!」
なんか触れてはいけない内容だったのか、鉄仮面越しでも十分に怒りの感情が伝わってくる。
「いくぞ!」
「怒気と殺気が出まくってるな」
そうなると――、
「チッ!」
動きが直線的になるから補足しやすい。
鉄仮面で表情はよめないけど、結構な激情型のようだな。
一直線にアクセルを使用し、感情むき出しで神速の斬撃に繋げても動きを線で捉えれば回避は難しくなかった。
加えてアクセルからそのまま斬撃へと移行するのはまだ修練不足のようだ。
俺もアクセルから攻撃へと繋げるのはよくやるから分かる。
どうしても神速の直線移動から次の攻撃へと移るのは難しい。
アクセルで瞬時に移動すれば、目標と自身の刃の間合いには誤差が生じてしまうこともある。
特に目の前の相手のように、感情が悪い方向で高ぶればそれは顕著になり、こちらも回避などの対処がしやすくなる。
大型モンスターのように的が大きいならいいけど、ほぼ変わらない背丈の相手となると、わずか数センチのズレが明暗を分ける事だってあるだろう。
これは反面教師として生かさせてもらう。
「最初の方が怖かったぞ」
「私もまだまだアクセルから次への動きが修練不足だな」
「予習と復習は牢獄でお願いします」
「では貴様は棺桶でだな!」
お互いの刀の間合いの一歩外。
納刀すればその一歩で一気に攻められると判断したのか、驀地からの斬撃は得意であろう抜刀術ではなく、上段の構えからの振り下ろし。
「俺の得意とする構えだな」
だから動きも分かる。
鎬で受けてそのまま下に向けられる力をいなし、相手の姿勢を崩したところで――、
「胴!」
「プロテクション」
腹部に障壁を顕現。
こいつら揃いも揃ってしっかりと障壁魔法を使用してくるのな。
マジックカーブなのか、はたまた団長ともなれば実力によるネイコスなのか。
ともあれ実力のある集団だと再認識させられる。
だが今の上段で分かったこともあった。
コイツの刀はえげつないくらいに鋭いけども、力はそこまでない。
力だけなら俺が勝ってると自信を持って思える。
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