PHASE-986【頼りすぎは依存に繋がる】
「ほう、躱したか。流石は勇者と褒めてやろう。だが大人しく死神の手招きに応じていれば、これから先、私に苦しめられることもなかっただろうに」
「あいにくだけどな、死神はこんな所で手招きなんてしねえよ。今ごろ相手をキルして屈伸しているだろうさ。はい、ざまぁ! ってディスプレイの前で大声を出しているだろうし、トング使ってポテチを食いながら楽しんでんだろうな~。ていうか最近ほったらかしているからな。そろそろメールがバンバン送られてきそうな悪寒がする……」
「……お前は精神を病んでいるのか?」
「はいそこ、仮面の奥で呆れ声を出さない」
呆れた声を発しつつも、直ぐさま刀を鞘へと収める鉄仮面。
こっちは余裕をもっているように見せているけど、虚勢だ。
先ほどの回避は、今までの戦闘で培ってきた経験によるもの。とっさに動けた自分の体に感謝しかない。
鉄仮面の抜刀に自然と上体を反らせて足が後方に下がってくれたからね。
お陰で首チョンパはまぬがれた。
にしても――、
「……ふぃ~。神速の抜刀術ってやつか」
どっと汗が体の毛穴から噴き出たのが分かった。
こいつはやばい。
心底やばい。
めちゃくちゃ強いぞ。
躱せはしたが、抜刀による斬撃がまったく見えてない。
見えないといっても、俺が断空の二つ名から戦利品としてちょろまかしたバニッシュリッパーのように見えない剣って分けじゃなく、目で追えない斬撃。
刀身は抜刀術の前から目にしているからな。
輝き方からして、刀身はミスリルを素材にしたものだと思われる業物。
「では今度こそ――」
鉄仮面同様に金のエングレーブが入った漆黒のフルプレートが中腰の姿勢を取る。
全体を瞬時に見渡す。
漆黒の鎧の胸部は、肋をイメージしたデザインからなっている。
白銀の肋は、ほのかにだが青白く輝いており、ミスリルコーティングを施した防御力向上のものだと思われる。
「――首級をいただく」
「御免こうむるね!」
発言から即イグニースを半球状に展開。
わずかの差で俺の動作が速かった。
当たり前のようにアクセルを使ってくるが、俺の炎の結界には入り込めないでいた。
アクセルからの神速の抜刀とか、限りなく瞬で天で殺なやつだな。
俺は終の秘剣モドキを使用した事もあるし、立ち位置的に仲良くなれないかな~。
「臆病者め。見ろシェザール。この程度の者がこの地の領主であり、勇者と呼ばれる者の姿だ。例え仲間が強くてもこの男はこの程度。この男を仕留めれば向こうの者達も無駄な戦いはしないだろう。この程度の男のために無駄な戦いはしたくないだろうからな」
「この程度って連呼すんなよ……」
「言われたくないのならばそこから出てこい。出てこれないような軟弱者ならば話しかけるな。さあ立てシェザール。我らは獅子だ。常勝の獅子だ。同胞達のように力を示せ」
「――お任せを」
リンのカウンターマジックに自信が砕かれたかと思いきや、力強くこちらサイドを睨んでくる。
「存外、極界のメンタルは強いな」
「当然だ。私が誇る同胞達に弱者はいない」
圧倒的なカリスマ性を持っている鉄仮面は、団員達に対しても絶大な信頼をよせているようだ。
持ちつ持たれつが生み出す結束力か。
「でもどうするよ?」
俺のイグニースはそうそう簡単には破れない。
隙を作って反撃をする為にはまずは様子見――、
「その発言は驕りだな。己の力に過信しすぎれば命を落とす」
「命を奪いにきてんだろ」
「そうだったな。では――」
言うと同時に神速の抜刀による一振りが俺の眼前で行われる――。
――…………。
――……マジかよ……。イグニースを断ち切りやがった……。
「シェザール!」
「はっ!」
断ち切った箇所に向けられるスタッフ。
やばいと思った瞬間。
「トールは困った時イグニースに頼りすぎなんですよ。身体能力による回避や防御も高めないといけませんね」
「返す言葉もございません」
本当にためになる発言をコクリコ様からいただく。
そんな俺の側面に立っていたコクリコ様がシェザールに攻撃を仕掛けてくれた。
蹴撃により俺に狙いを定めたスタッフが強制的に外されると同時に、
「ていや!」
ミスリルフライパンによる一撃をシェザールへと打ち込む。
「ええい!」
器用にプロテクションをバックラーサイズで顕現させてそれを防ぐ中、間髪入れずにコクリコが零距離で、
「ポップフレア!」
「頭がおかしいのか!?」
特攻攻撃とばかりの零距離による炎爆魔法にシェザールが驚き後退。
オムニガルの時は確かに特攻だったけども、今回はしっかりとミスリルフライパンで自分の顔を中心に守り、衝撃を緩和。
それでもダメージはあったようで、しっかりとハイポーションを飲んで対処していた。
「貴様と違って気概ある仲間だな」
「返す言葉もございません」
コクリコに対しての返答と同じものを鉄仮面にも言う。
側面で起こった攻防には瞥見のみ。俺からは決して視線を外さない鉄仮面。
「シェザール」
「問題ありません。この程度の使い手に遅れは取りませんよ。しかし、なんとふざけた小娘だ。なんなのだ! ミスリル製の調理器具とは!」
「羨ましいでしょう」
「呆れているのだ! 希少なミスリルでそのような馬鹿げた物を作るとはな! 発想力がねじ曲がった作り手だ。そいつの顔が見てみたいものだな!」
口角泡を飛ばすとは、正にいまのシェザールのこと。
作り手の正体がお前の最強大魔法を容易くかき消したリンだと知れば、一体どういったリアクションをとるんだろうな。
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