PHASE-985【見えない】
ま、衝撃を受けるのは当然だわな。
仕方ないぞシェザール。お前の前で嘲笑を浮かべているのは古の英雄様。王様どころか爺様まで敬語を使うような人物だからな。
大魔法を使用できるだけの実力者であり、強さを求めるシェザールならば、リンの正体を知れば懇願して弟子入りを望むかもな。
「団長。我々は自らドラゴンの口に入ったも同然です」
そんなシェザールが力な述べる。
「その怯えよう、誉れある二つ名である極界としてどうか? と、言いたいところだが、目の前で起こった事象は現実。圧倒的な存在が向こうには多数いるようだな」
震えるシェザールとは対照的に、プロテクションの要塞から出てきて言葉を返す鉄仮面の言い様は、落ち着きのあるもの。
「だが決して勝てない相手ではない!」
右側からの大音声はガラドスクからのもの。
声と一緒になって……、
「カイル!?」
宙に舞うカイル。
ウォーハンマーを振り切ったガラドスクによる一撃というのは理解できた。
近くで見ていた他の傭兵達から感嘆声が上がったということは、良い一撃だったんだろう。
大魔法同士のやりあいから直ぐに、カイルとガラドスクも戦いを開始していたようだ。
「ふん!」
体を捻り、ガラドスクに負けない巨躯が着地。
どうやら無事だった様子。
――……とはいかないか。
着地して直ぐに小瓶を取り出して中身を一飲み。
ポーションによる回復をしなければならないダメージを受けたわけだな。
「大丈夫か!?」
俺の側で着地したカイルは大きく吸気を行って――、
「問題ないですよ会頭」
言う割には、余裕がないな。
というか、怒りが籠もっている感じか。俺には敬語で接してくれる礼儀正しい奴だけども、根っからの冒険者でもあるからね。
「この赤髪ぃ! 会頭の前で恥かかせやがって! ぶっころがす!」
――……だからこの血の気の多さはどうにもならん……。
怒り心頭のままにガラドスクへと段平を振り回していく。
力の中にもしっかりと経験から培った技量もあって、ガラドスクの躱す姿に余裕はないのが分かる。
怒りのままにとも思ったけど、言葉と態度はともかく、カイルの動きそのものは存外に冷静。
「余裕だな!」
「んなもんねえよ!」
側面から迫ってくる鞘による刺突を籠手で弾く。
反撃として残火の一振りをお見舞いすると、俺を真似るように籠手で受けるとめ、そのまま捌いて間合いをとる鉄仮面。
ここでお互いに一呼吸置いて弛緩の時間。
「例え相手がドラゴンだろうとも、口の中に自ら入ろうとも問題ない。我々は中から食い破るだけの力を持っている。皆、獅子の顎門によって敵を食い散らかせ」
淡々と語る中には情熱もある。
だからこそ――、
「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!」」」」
包囲されても臆することなく傭兵たちがこっちの兵達に向かって突き進んでいく。
プロテクションは解除され、多彩な攻撃魔法を放ち、多用な得物を月の光でぎらつかせながら突っ込んでいく。
こちらも負けじと練度の高い兵達がヨハンに従い、騎兵は馬を棹立たせ、兵士は長柄を絞るように握り突き進む。
さて――、
鉄仮面へと視線を移せば、
「こちらも本気でやろうか」
と、首をわずかに傾げながら返してくる。
「そんなフルフェイスの鉄仮面をつけてて視界は大丈夫なのか? 本気出しても鉄仮面が原因で負けましたって理由は駄目だぞ」
「余計な心配だな。そもそも私に勝つつもりでいると見える」
おっと鼻で笑ってくるね。
強者の団長殿は中腰で構える。
左手で鞘を握り。
右手は柄に優しく添える。
「抜刀術」
「そうだが」
拵えの立派な――行き過ぎて些か下品でもある鞘は、俺の残火の鞘とは違って反りがないから、初見では中身が剣かと思ったけどね。
「俺と一緒で刀の使い手なんだし、話し合いですませない?」
「お断りだ。それに――一緒ではない」
「どう違うんだ?」
「使い手の差が天壌の差だ。ほら、死神がお前の側で手招きをしている」
添わせていた右手が動いた瞬間だった。
「!?」
不気味なほどの風が俺の顔の前を通り過ぎた。
「トール!」
背後からのコクリコの声はしっかりと聞こえた。
なので俺は生きている。
首をしっかりと押さえて確認。
――大丈夫だ。血も出てないし、首も飛んでいない。
先ほどまで見せていた斬撃がフェイクだったのかと言いたいくらいに、次元の違う鋭さのある斬撃だった。
――……いや、鋭さがどうのこうのと評価なんか出来ない。
だって見えてないんだから。
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