PHASE-197【秘策】
「ふむん……」
重く大きな声を漏らして、シャルナに殴られた時と同様に天井を眺める。
「僕は会頭の考えには賛成ですよ。そういうお店も必要でしょうから。需要があれば供給するのは当然ですから」
「ありがとうございます」
ワックさんの協力は得られるわけだ。
「俺も、いい酒を用意してくれる店なら大歓迎だ」
「もちろんですよ。最高の酒を用意します」
「頼むぞ。なんなら酒造りに参加しよう」
ゲッコーさんも俺に協力。でもって、ノリノリだ。
酒か――――。
酒造りも先生に頼んでおかないとな。
以前、ゲッコーさんとビールの話をしていたし、酒造第一号はビールにしよう。
先生は言わずもがな。
忠誠心MAXなので、俺の味方である。
ギルドメンバーは大半が男だから、多数決票なら、民主主義の正義で問題なく勝てるんだが……。数の利なんて、帝政が当たり前の帝国軍人のベルの前では塵芥に等しいからな。
数なんて、力で黙らせればいいと考えるはずだもの。
ベルを味方に付けることが出来れば、コクリコもシャルナも黙るんだろうが。
それが出来たら苦労はしないか……。
「ただいま~」
ぬ?
「やあゴロ太。楽しかったかい」
「うん♪」
小さいのがこの部屋に入るのに一生懸命だったのが窺える。
ドアノブにぶら下がったままのただいまの挨拶。
正直、その仕草が可愛い。
窓から外へと目を向ければ、なるほど、空はすでに薄暮である。
掴んだドアノブを離して着地。
キュ♪ って効果音を着地時につけたいくらいだ。
愛らしい姿だが、同時にこっちの動悸も早くなる。
「ベ、ベルは?」
ゲッコーさんの死の宣告発言が原因なのか、上擦って聞いてしまう。
「お姉ちゃんはお風呂の準備だよ。後でボクも入るんだ~」
へ……、羨ましいね。相変わらず目を閉じて渋い声だけを聞けば、完全に犯罪にしか思えないけどな。
――――!?
「そうか! ゴロ太か!」
「なに!?」
小さな体が俺の叫びにビクリと震えて怖がる。
声だけなら、全く動じていない存在感なのにな。ゴロ太。
「なにか一計を案じたようで」
「先生。我々、男の勝ちを見せてあげましょう。ゴロ太よ――――。その時が来たぞ」
外を見つつ俺は言う。
窓に映る俺は不敵に笑んでいた。
「大体はシャルナから聞いた」
「おう……」
流石に勝つとは言い切ったが、この炯眼はやはり怖い。
何度も殴られ蹴られた思い出が蘇ってきやがる。
「私も無論反対だ。女人を傅かせて、男の欲を満たさせるなどな!」
ゆっくりと傾けていた紅茶の入ったティーカップをカタンと強めにテーブルへと置く所作は、威圧のつもりなのだろう。
横のソーサーに乗せてよ。とは言えない俺。
「コクリコもシャルナも、このギルドにて風紀委員というのを設立したそうだ。私には大それた役職だろうが、お前の暴走を止めるのは私の仕事でもある。風紀委員長として、お前の野望は阻止してやる」
「そのやる気は魔王の野望を阻止することに向けてもらいたいな!」
「無論そのつもりだが、まずは目の前の脅威から排除しないとな」
目の前の脅威て……。
「先日、二人にも言ったが、別にいやらしいことを考えてるわけじゃないぞ。疲れた冒険者を癒やすためのものだ。それに働き手も生まれれば、労働対価として、生活を営めるだけの報酬を得られるわけだし」
「もっと違う経営を考えろ」
「お前のいた帝都にだって、普通にあるはずだからね! ここよりも規模が大きければ、それこそお酒を出すだけじゃなく、娼館だってあったはずだ!」
ずばりと食指を伸ばしてベルへと強気に攻撃。
「確かにあった……。だがそれは昔からの習わしでだな」
おっと、声音が弱くなった。
チャンス!
「何ですか習わしって? そんなものが習わしとか、ちゃんちゃらおかしいね。大体ワックさんが言うには、王都には昔、娼館があったそうじゃないか。だったら習わしの復活だね」
「悪しき風習は、わざわざ蘇らせなくていい」
「う……」
でたよ、不利になった途端に睨みだけで俺を押さえようとするごり押しですよ。
馬鹿凸なごり押しですわ。
これ以上なにかを言えば、手が飛んでくるシステムですよ。
パラメーターでは知力が98も有るくせに、弁舌で対抗しないで手っ取り早い鉄拳制裁で即解決なやつですわ。
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