PHASE-1245【愛は食卓にある】
――――。
「ふっへぇぇぇ……」
「おつかれさまでした」
「おうよ……」
まさか本当に徹夜で押印することになろうとは……。
コクリコやドッセン・バーグ達との試合の後からのこの徹夜は、流石に体にこたえるね。
港町レゾンの塩田による塩作りに、乾物。
それらの輸送と販売。
王族の湯治場でもあるクレトス村からは硫黄の調達。
コルレオン達コボルトと出会ったクランベリーが特産のリオスの町では以前にも聞いた、リオスの町と要塞トールハンマーに渡る広大な湿地帯を利用しての水田による作物栽培。
大陸最大の穀倉地帯構想の進捗――などなど。
以前に訪れたことがある町や村での新たなる特産や生産などの報告――といっても先生がすでに目を通しているから問題はないのだけども、会頭としての立場から目を通しての押印作業。
――……酷ぞ……。
ギルドの商売として得られるモノが大きな規模になっているような気がする……。
王土でここまで好き勝手にやってもいいものなのかとも思ってしまうんだけどね。
いかんせん王様がああいった性格だからな。あんまり気にしてなさそうで困る。
先生曰く、商売をしてそれで生まれる税を国に納めているのでいいんです。だそうな。
むしろ大陸全体で見たら人手はまだまだ足りないわけで、国だけでは手が回らない部分をギルドがこなし、尚且つ大きな税を納めているのだから現状では喜ばれているそうな。
これに加えて地代収入も入っているので、町村が富めば自然と王侯貴族も富むというわけだ。
この世界の王侯貴族は馬鹿ではないが豪放磊落な性格の方々が多い。だからこそ良い関係性を築けているわけだけど。
だが独占して利益を得れば軋轢が生じてくるのも事実。
王様や臣下の貴族が良くても、その下が不満を抱くだろうからな。
更に規模が大きくなったなら、酒蔵みたいに第三セクター的な経営体制を立ち上げないといけないかもね~。
「お茶をどうぞ」
「ありがとう」
執務室で徹夜をこなした俺にランシェルがお茶を注いで出してくれる。
一口ふくめば目が開く。
気付けとばかりに濃い味だった。
目がシャキッとなる苦味はあえてのもの。
飲み手のことを考えての配慮が一口でわかるというものだった。
嚥下すれば胃の腑に染みる温かさ。
こういった配慮をしてくれるメイドのランシェルが女の子なら本当に良かったのにと思わざるをえません。
この世界は魔法とかあるんだからな。そんな不思議な力で性別を変える事とか可能ならいいのにな~。
そしたらいつでもランシェルの想いに対してCome on! って言うんだけど。
――などと邪な考えが浮かぶくらいには疲労は溜まっているようだ。
疲労が溜まったり死にかけると性欲に傾くって本当なんだな……。
拇指と食指で目頭を揉めば、
「少し横になりますか?」
と、ランシェルからの提案。
「いや、大丈夫」
と、即効で断る俺氏。
先生は夜更けには寝ると言って執務室から退室。
現状、執務室には俺とランシェルだけ。
ここで寝るを選択すると、インキュバスにどんな夢を見せられるか分かったもんじゃないからな。
何より俺が本気で邪な方向に傾倒し、越えてはならない一線を越えてしまいそうで怖い……。
「朝食をとってから本日も見てみたい場所を回ろうと思っている」
「お供いたします」
「……おう、そうか……」
いい加減リズベッドのところに戻らないといけないんじゃないの……。
有給休暇とかあるのかね?
――――。
食事はギルドハウス一階のお食事処でいただく。
朝一からクエストに赴く面々に挨拶をすれば、朝から幸運が訪れたと喜んでくれる辺り、俺ってメンバーに好かれているんだなって嬉しくなる。
女性メンバーからも好印象なので、実をいうと俺っていま絶賛モテ期が到来しているのではないのだろうか? とも思ってしまうよね。
もっともっと頑張って、皆の好感度を上げていこうじゃないの。
――朝からそこそこヘビーな食事を注文。徹夜明けだからこそ、あえてのガッツリ系を選択。
ライ麦パンに厚切りベーコンとスクランブルエッグ、野菜が挟まったサンドイッチ。コーンスープを食する。
この世界に来たばかりの時と比べると、食事環境は恵まれたものに変わってきた。
以前もベーコンなんかの加工肉を食べることは出来たけど、価格は以前よりも抑えてあるようで、新人さん達でも粟、稗、麦などの粥に加えて肉を口に出来ている。
食が行き届いているのは素晴らしいことだ。
そして今回の朝食で驚いたのが、マヨネーズが開発されていたことだ。
マヨネーズとマスタードを混ぜたソースがサンドイッチに入っていたことで、文明開化の味がしたよ。
これでケチャップも生産されればハンバーガーもいただける世界になりそうだな。
食材が潤沢になってきているからこそマヨネーズだって作れるわけだしな。
卵を材料にするわけだからね。
今までなら卵として食さないと勿体ないモノが、調味料の材料として使用可能なまでに生産が安定しているわけだ。
調味料が加わるだけで更に美味くなるのは喜ばしい。
「どうされました?」
「いやな。サンドイッチの調味料に感動してたんだよ」
「マヨネーズ――でしたね。独特な風味ですが野菜との相性がよいと、メイド達の間でも好評です」
「ほうほう」
城の中にも調味料として広まっているようだな。
当然ながらこの世界には存在しなかった調味料である。
「これをもたらしたのって――」
「トール様のお仲間である、ゲッコー様配下のお一人が広めたそうです」
やっぱりか。
現代知識を有しているS級さんの一人がもたらしたか。
このマヨネーズも先生考案の紙同様に、ギルドの特産として販売するってことも可能になれば、大きな収入源になりそうだよな。
紙と違ってマヨネーズの場合、保存方法を考えないといけないけども。
――。
「蔵元」
「おう」
「マヨネーズが美味しかったです」
「俺達が外にいる間に広めたみたいだな。人気の具合からして商売もいけそうだな」
ランシェルと共に、顔の下半分に手ぬぐいを巻き、白衣に身を包んでから酒蔵を訪れると、蒸留所出入り口付近で酒を楽しむゲッコーさん。
朝から酒気を帯びている伝説の兵士に感想を述べれば、俺と同じ事を考えていた。
「保存なんかが問題ですよね。冷蔵庫がないですからね」
「そこはライセンス契約で各地で生産させるんだよ」
――レシピを各地の商人に教えて商売をさせる。
そして売り上げの一部を許可料としてギルドに納めさせるという手法。
ボーイング社が三菱にF-15 のライセンス生産を許可しているのと同様のやり方で稼ごうとの事。
後半の方の説明は軍人らしい例えだった。
まあ、その部分は言われなくても理解できてたから不要だったんだけどね。
饒舌になっている辺り、結構な量の酒を朝っぱらから胃に流し込んでいる模様……。
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