PHASE-146【白】

「すぅ……すぅ……」

 普段の凛とした姿からは想像も出来ない、可愛い寝息で眠るベルだが、残された俺たち三人は顔を見合わせる。

 三人が共通しているのは、目を丸くしていた事だ……。


「と、とりあえず運ぼう」


「俺がやります」

 ゲッコーさんが横抱きをしようと動き出したが、即座に阻止。

 

 決して、邪な考えがあるわけでは無い。

 俺が召喚した人物だ。俺がやらないといけないと発言。


「分かった」

 了承してくれた。


「よっと」

 ベルを横抱きで持ち上げて驚くのは、身長からは考えられない軽さ。

 170㎝を超えてると、普通は50キロ後半はあると思うんだが――。

 しかも軍人として鍛えているはずだから、体重はあって当然のはず。

 スタイルだって、相当に良いからな。

 

 だが、ベルを持ち上げた感じだと、40キロ半ばくらいだろう。

 

 考えられない。

 

 いや――、これもゲーム設定だからこそか。

 ゲームのキャラだからこそ、現実とは違うわけだ。

 

 なので――、これもゲーム設定ということでいいんだよ――――な?

 ベルの異変に俺の頭はやや混乱中だ。





「んん……。どのくらい経過した?」


「あ! 起きましたよ!」

 ドア向こうからの会話はちゃんと聞こえている。

 

 正直、体力が無くなっている状態のベルの横で、大声を出すもんじゃないと、コクリコに対して拳骨を見舞ってやりたいが、それ以上に安堵する。


「大丈夫か」


「失礼だぞ! 女人の寝室に入るとは!」

 ええ……。心配してたのに、そりゃねえよ……。


 ミズーリを召喚して、ベルを運んだ先は艦長室。

 

 流石は艦長室なだけあって、広いし、ソファだってここにいる面子なら余裕で座れるし、横になれるレベルである。


 だが、俺にはミズーリを操舵というか、操作しないといけない責任もあるし、女性の部屋に居座るのも問題なので、ゲッコーさんと二人で露天艦橋に移動して周辺警戒。

 休息を取る時は、艦長室前の通路って感じ。

 

 ベルが倒れて一日が経過。

 俺の体は通路で寝てたせいもあって、ガチガチに固まっている。


「――――それはすまなかったな」

 説明したら、素直に謝罪を受けた。

 気弱になってるのか? とも思ったが、そもそもベルは礼儀正しい女性だったな。


「でさ、皆が気になってるだろうから代表して聞くが、なぜ――――」


「髪が真っ白になってるんです?」

 本当にさ、このまな板はさ、俺の台詞をとるなよ!

 俺が聞きたかったんだよ!

 

 まあいい。とにかく、眼界のベルの髪は白い。

 倒れて眠った時に、赤い髪から徐々に真っ白になってしまったからな。


 それに、髪だけじゃなく、眉なんかも白色に変色している。

 

 白と言っても、老人のような活力のない白じゃない。

 

 赤髪の時と同様に、艶やかな美しい髪だ。

 

 銀世界の美しさが、髪にそのまま顕現したかのように、幻想的でもある。

 正直、これはこれでいい。とすら思ってしまう俺。


「力を使い果たしたからな」

 俺たちに目を向けず、反対側を向きながら言う。


 哀愁がある。まるで、病床でふさぎ込んでいるみたいじゃないか。


「使い果たしたなら、もう使えなくなるのか?」

 ここでゲッコーさんが切り込む。


「もし、そうだと言ったら、どうします?」

 という返答には、


「うんん」

 と、困ったのか、伝説の兵士は、小さく唸って明後日の方向を見ている。


「トールはどう思う?」

 えっと、ここで俺へと振ってきますか。ベルさん。


「別にどうとも」


「ほう、炎が使えなくなるぞ」


「使えなくてもあれだろ、別にそれだけの事なんだろ」


「それだけの事と言い切るとは……」

 あれ!? 地雷を踏んだ?

 利用価値なしとして、ポイ捨てされると思っているのか?

 俺はそんな男じゃないぞ。


「違うぞ。別に炎が使えなくても、ベル自体は強いから、問題ないと言いたかっただけだぞ」


「そうか。初めて言われたぞ。そんな事は」

 あ、柔和な表情に変わった。

 地雷を踏むのは回避できた。

 代わりに、好感度ポイントが上がったみたいだ。


 ゲーム内でも、ストーリーが進んで行けば、こんな状況があるのかもしれない。


 で、周囲からは、無敵の力を失ったとか言われて、辛い目に遭うのかもしれない。

 

 うん、想像しただけで、そいつらを俺がボコボコにしたい。


「実際どうなんだ? 体術や剣術は?」

 ちゃんと聞けてないから、ここははっきりと聞いておく。


「問題ない。炎が使えない以外は変わらない。髪の色は無くなってしまったが」


「いや、凄く綺麗だと思うぞ」


「そ、そうか……」

 あら、俺ってば、サラッと恥ずかしい事を恥ずかしげもなく言ってしまったよ。

 でもって、ベルが頬を赤くしてるよ。

 

 あれ? チュー出来る?

 

 ――……チュー出来るって発想にすぐに至るところが、童の貞なんだろうよ……。

 

 自分の発想を粉々にしてやりたいよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る