PHASE-1001【嫉妬で振るっていい拳じゃないから……】

 俺が操縦できない以上――、


「ゲッコーさん」


「おう」

 名を口にすれば既に俺の後ろに立っていた。

 さっきまで傭兵団の方に向かって歩いていたのにな。

 相も変わらず感知の難しい歩法だよ。


「少しは手本に出来たか?」


「ん?」


「無駄のない回復への移行だっただろ」

 ――どうやらマジョリカの回復を褒めていたようだ。

 俺は気付けなかったけど、ゲッコーさんはしっかりと分かっていたようだ。

 

 紫電で死にかけた俺とは違って、攻撃を受けた後の素早い回復対応には感心しました。と、返せば、自分が危機に陥ることを常に考えて行動すれば、最悪の状況下でも落ち着いて対応できたりするもんだと返してくる。

 

 紫電でやられた時は冷静どころか、斬られた事が分かるまでに時間がかかりすぎたからな。

 異変を感じたら即対応って考えを意識しないといけない。

 

 にしても、流石はゲーム内でレーションを装備していれば、ライフがゼロになった瞬間に即回復する主人公なだけある。

 説得力が違うね。

 となると、俺もゲーム内のレーションを携帯していれば、瀕死状態を回避できるのかな?

 流石に試したくはないけど……。

 お守り代わりに後で一つもらおう。

 

 ともあれ、


「危機的状況の時こそ冷静に――ですね」


「さよう」

 なんで磯野さん一家の家長みたいな返しなのだろう。

 

「それよりもですね」


「ああ、任されてやる」

 言われなくても分かっていると、アーセナルフレームへと乗り込むゲッコーさん。

 このアーセナルフレームは手に入れることは出来るし、ゲーム本編でもゲッコーさんは搭乗することもあったが、最終的にはラスボスとして出てくる機体。


 その後のやりこみ要素的な内容では使用する事が出来るけど、プレイヤーは直接の操作は出来なかった。

 出来なかったのは、ゲーム製作時の容量不足なんかが理由だったんだろうけどね。

 据え置きゲーム機と携帯ゲーム機の差ですな。

 そんな事を考えている中で全体が角張った機体にゲッコーさんが搭乗する。


 簡単に形を表現するなら、全高約八メートルの直方体。

 その直方体の側面に逆関節の足と、腕部部分にはマニピュレーターではなく、ミサイルポッドやA-10サンダーボルトⅡに搭載されているようなアヴェンジャー30㎜を模したガトリング砲などがハードポイントにて装備されている。

 対空、対戦車、対人兵器が豪華に搭載された隙のない機体だ。

 

 そして最も目を引くのが背面部のランドセルから伸びる、テレスコピック構造からなる最長で三十メートルまで延長する長砲身のレールガン。

 レールガンによって戦略および戦術核弾頭を亜光速で発射する事が可能なとんでも兵器がこのアーセナルフレーム・エスクード。

 こいつが一機あれば魔王なんてなんのそのって思えるよ。


 まあ、核は抑止であって使っては駄目というのがゲッコーさんの考えだから、まずこの世界でも使うことはしないだろうけど。

 何より瘴気を浄化して魔王軍と戦うのに、瘴気の代わりに放射能で汚染させていたら元も子もない。

 放射能の方が瘴気よりたちが悪いからね。

 

 前面のキャノピーを閉じれば――、ゆっくりと逆関節からなる脚部が稼働し歩み出す。

 全高が八メートルを超える巨体が動く姿は圧巻。

 敵味方関係なく声が上がる。

 敵は脅威。味方は歓喜――ではなくこれまた脅威。

 こういう時って共通して脅威を覚える声をあげるもんなんだな。

 まあ、初見でこれを見れば誰でも驚くよね。

 俺も内心では驚いているし。


「更に」

 ここで地龍からもらった、角の一欠片からなる曲玉を取り出して地面を擦る。


「キュウ!」


「よく来てくれたゴロ丸」


「キュ!」


「今度はミスリルゴーレムか……」


「そうだ。お宅との戦いでこのゴロ丸を投入してもよかったんだぞ。俺が召喚する存在だからな。俺の力としてぶつけてもよかった」

 ゴロ丸のミスリルで出来た体ならば、またたきだろうが骨喰ほねばみだろうが受けたところで大したダメージをないだろうし、ミスリルの拳を振り回されれば対抗する手段は少ないだろう。


 俺とゴロ丸のタッグとの戦いを想像したのか、


「……これは勝てないな……」

 弱々しくマジョリカが口を開いた。

 そんな中で――、


「ん? どうしたんだゴロ丸?」


「キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウ!」

 ゲッコーさんの操縦で俺の近くにて待機するアーセナルフレームをつぶらな瞳で凝視している。


 次の瞬間。


「――――キュ!」


「あ、コラ!」

 俺の側で待機するアーセナルフレームに対して対抗心を抱いたのか、脚部を小突くゴロ丸。

 主のゴーレムは自分だけでいいといったような嫉妬心を感じ取ることが出来た。


「キュキュッ!」

 と、自分より二倍を超える全高を持つアーセナルフレームの脚部に、世界が取れそうな見事なワンツー。

 じゃない!


「ちょっと止めてくれる。ゲッコーさんとこのゲームはオートセーブ機能だから! 傷が残っちゃうから。いくら強度が凄いからって、流石にミスリルの拳で殴られたら傷もだけど凹むかもしれないから……」

 ――…………嫉妬にかられるゴロ丸を止めるのには苦労した……。


「……言うことを聞き入れないゴーレムのようだな」


「呆れ口調で言わないで……。普段は言うこと聞くんだからさ。今回は嫉妬からこういった行動をしただけだ。それに今は言うこと聞いているだろ」

 とりあえず反省の意味も込めて、俺の横で正座をさせる。

 ラグビーボールみたいな体で正座が出来るというのには正直、驚きだった。

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