PHASE-1475【狭まる視野】
「次こそ!」
「くぅ!」
まったくもって体が上手く動いてくれない……。
――連撃に対して防戦一方となってしまう。
「バーストフレア」
「イ、イグニース!」
正面から放たれる上位炸裂魔法に対して炎の障壁を展開。
ドカドカといくつもの爆発が生じる中で、
「うわぁぁぁあ!?」
情けない声を上げながら、吹き飛ばされてしまう……。
いつものような障壁を展開することが出来なかった……。
本来なら防ぎきる事も可能な攻撃を防ぐ事が出来ない。
脆弱に展開してしまった障壁では完全に受け止める事が出来ず、衝撃で吹き飛ばされてしまう……。
心のコンディションは最悪だ……。
「ミルモン!」
「問題ないよ」
コンディションは最悪でも仲間の元気な声が耳朶に届けば安堵。
無事を確認しながら即座に立ち上がって正面へと視線を向ければ、四枚の翅を羽ばたかせてこちらへとジージーが迫る。
そう、飛行して迫ってくる……。
この光景……。
「はぅわっ!」
――……俺の方向へと迫るセミ……。
ジージーの攻めと、俺の命を奪うきっかけになったセミの動きが重なってしまい、恐怖と驚きの混ざる声を上げつつ、ピーカブースタイルにて防御の姿勢。
「さっきから情けない姿ばかりだな!」
敵であるジージーからは怒気が飛ぶ。
相対する者から見ても、今の俺は無様な姿ってことなんだろう……。
「兄ちゃん! 動かないと!」
「わ、分かってる……」
迫る切っ先を籠手で受けながら、
「せいっ」
残火を振るも、
「腰が引けているぞ勇者! 力が全く入っていない振りなど通用するものかよ!」
ガントレットで受けて弾くだけで十分という気概で俺の斬撃に対処し、
「もう一度!」
ロングソードの白刃が目の前まで迫り、
「い゛!? ちぃぃ……」
回避を試みたけども、右頬に熱いものが走る。
徐々にジンジンとした痛みへと変わっていけば、斬られた頬から温かいものがつたう。
「浅かったか」
と、ジージーの一言に、城壁からは大歓声。
浅くはあってもダメージらしいダメージを与える事が出来たことで、明確に先手を取れたという喜びの声があがっていた。
「くそっ!」
トラウマに襲われつつも、雑嚢からポーションを手にして斬られた部分に直接かける。
「当然ながらハイポーションか。勇者なだけあって回復アイテムは充実しているようだ。だが、次は回復をしても意味がない一撃をくれてやる。その首を斬り落とせばどうにもならんだろう」
「くそっ!」
「それしか言えないのかな?」
この程度の手合いにいいようにされていたら、今まで戦ってきた強者に申し訳ない。
実際ジージーも強くはあるけど、デミタスやヤヤラッタ達に比べれば格下。
そんな格下にいいようにされている今の俺を見られようものなら、笑われる前に溜め息を零すことだろうな……。
「まったくもって情けねえ!」
「まったくだな!」
と、ベルからお叱りの言葉。
「いつまでも過去に囚われていないで克服してはどうだ」
継ぐ発言は厳しい語気によるもの。
分かってはいる。俺だってそう出来るならそうしたい……。
でも、それが難しいから困っているんだよ……。
死んだ原因となった存在に似た亜人がこの世界にいるとは思いも寄らなかったからな……。
インセクトフォーク・シケイダマンは、俺にとって特攻種族なんだよ……。
「抗え!」
ベルからの激励を受けるけども、
「ハハハ! 情けなしっ!」
激励を打ち消してくる哄笑と共に振るわれるロングソードに、再び守り一辺倒となってしまう。
「マッドメンヒル」
防ぐ中で俺の直下から現れる泥の柱。
下方からの殺意の籠もった柱に対して、
「烈火!」
左拳の烈火にて破壊。
「それでいいトール。危機が迫れば動けるじゃないか。それを相手に向ければ良いだけだ」
とは言いますけどね。ベルさん……。
柱とセミだと違うんですよ……。
とまあ、そんな事を返す事も出来ないくらいに、
「そら! そら、そらぁっ!」
豪腕から繰り出されるロングソード。
かろうじて防ぎきってはいるけども、足と腰に力が入っていない今の状況では、受け続けるのにも限界がある。
なんとか捌いて後方に下がるというので手一杯だ……。
本来の俺なら、相手が振り切ったところを見計らって反撃に転じているんだけどな……。
頭ではそれが分かっていても、踏み出せないヘタレが今の俺……。
「防ぐだけではこちらは倒せないな! こちらとしては好き放題できるから有り難いがな!」
と、語りかけてくるのは長い口吻。
語りながらのソレによる刺突を籠手で防ぐ。
凶悪な口づけ――しかも男となればお断り。
「まだまだ行くぞ!」
「くぅっ!」
剣技の中に混ぜ込んできた鋭利な口づけと白打による連続攻撃。
気分良く攻撃してきやがって!
――だんだんと腹が立ってきた!
とはいえ……、
「兄ちゃん!」
「ひょう!?」
やはり前に踏み出す勇気がない……。
ミルモンの警告がなかったなら、ジージーの白刃による刺突が頭部に突き刺さっていた……。
口吻と白打。これらの攻撃に気を取られすぎて、もっとも警戒しないといけない利器による攻撃に目が向かなくなっている。
精神が不安定になると、ここまで視界が狭まるんだな……。
「散漫状態。本当……情けない……」
自身のヘタレっぷりに、自己嫌悪に陥りそうだ……。
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