PHASE-368【餃子クッションのようなもの】
「ここからは、わたくしが」
ということで、イリーからコトネさんにバトンタッチ。
武具を纏った美人から、メイドの美人に代わる。
絨毯の上を歩き進む最中に両サイドに目を向ければ、コトネさんに負けず劣らずな美人メイド達が俺に向かって優しく微笑んでくれる。
ここはなんて天国?
最高じゃねえか。こんな美人さん達と、毎日を楽しく過ごせたら最高に幸せだろうな。
というか、騎士団長であるイリーもそうだけど、美人ばっかりじゃねえか。
侯爵は無類の女好きなのだろうか? 英雄色を好むともいうし。
「――――ぬ!」
俺の目を特に引いたのは、右側に立つ女の子。
スタイルは居並ぶ美人さん達と比べれば
可愛い。可愛い女の子が俺に優しく微笑む姿は最高だ。
特に八重歯がいい。可愛い……。
甘噛みされたい。
――……なんて、変態的な考えが浮かんでしまった。
「いい加減にしろ。惚けるな」
おう……、現実に戻す研ぎ澄まされた低い声。
六つ胴はありそうな名刀の如き鋭き声。
これは客室に案内された後が怖いな……。
屋敷に入ってベルからの二回目の注意だ。キャリーオーバーによる蹴りが見舞われるかもしれない……。
そんな滑稽な流れを目にしておかしかったのか、俺が可愛いと思った子が口元に手を当てて、クスクスと笑っている。
再度その子と目が合うと、はたと真顔になって、申し訳なさそうに頭を下げてきた。
いや~いい! 許しちゃう。だって可愛いもの。
――――コトネさんが先頭となって俺たちを案内。終始、絨毯の上に足を付けることのなかった、徹底した立ち振る舞いだった。
通路の側面には調度品や甲冑が飾られていて、如何にも金持ちで権力者ってのが伝わってくる。
思うことは、甲冑とかは平時なら飾っていてもいいだろうけど、現状、大陸は有事なのだから、力のある存在に貸し与えればいいのにね。
そんな事をする必要が無いほどに、まだこの地には脅威というのが根付いていないんだろうな。
根付かないのに越したことはないけどさ。
人々が平和に田畑を耕せるって事は、魔王軍に対する恐怖を植え付けられていないという事。それが出来ている侯爵の辣腕はかなりのものなんだろう。
王様が姫を預けたのも頷ける。
でも、俺たちの事を魔王軍と思って取り乱した兵達のことを考えると、この安寧は薄氷の上にあるようなものだ……。
「お連れしました」
重厚な扉の前で一旦停止。
扉の両サイドには、今までの兵たちより鎧がワンランク上の衛兵によって守られている。顔出しの金ピカプレートアーマーだ。
コトネさんが一言発せば、両サイドの衛兵は首肯と共に、扉を塞ぐように手にしたハルバートを自らの胸元に寄せ、扉を開く。
通過していいという事なんだろう。
ここでコトネさんは俺たちに典雅な一礼をすると、場に留まり、手を開かれた扉へと向けた。
扉が開かれた先は謁見の間。
この辺は王城と変わらない。
違うとすれば、玉座を前にして両サイドに臣下がいないというところ。
加えて玉座みたいな椅子はない。そもそも王様じゃないから玉座ってのはなくて当然か。
だが眼前の使用は、王城で見た物より絢爛だ。
お姫様のベッドにありそうな天蓋があり、その直下には椅子ではなく、餃子の親玉みたいなデザインの大きな真紅のクッション。
低反発系の、腰によさげなクッションだ。
クッションのある台座は床より高く、台座へと続く三段ある階段が四方に設けてある。
権力者として、訪問者を上段から見下ろすつくりだ。
クッションのある台座より奥に扉があって、謁見の間から先に続いている。
俺たちが入ってきた扉と同じ形状だが、違いは、台座奥の方の扉は金細工を施したデザインで金がかかっている。
「絶対にあの扉からここに来るんでしょうね」
と、コクリコ。
皆して頷く。
「しかし不作法だな。俺たちが来ることが分かっているなら、普通はこの場で待っているはずだが」
ゲッコーさんがコクリコに続く。
確かにそうだ。会うと了承してくれた時点で、俺が向こうの立場なら、ここで待っているけどな。
上から目線の偉そうな人物なのかな?
才能と性格は違うからな~。
現在、石油王が好みそうな空間には、俺たちだけが佇んでいる状況だ。
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