PHASE-787【射撃号令】
「命令一下を発することは出来ますか?」
――……ですよね……。
はたして正にだったか……。
いつもは先生だったりゲッコーさんが出していた号令。
ここでも先生が指揮をしていたからそうするのだろうと思っていたけど、それは逃げであり卑怯な考えだ。
自分がしたくないことを下の者にやらせる。
責任の放棄だ。
馬鹿息子と同類になるようなものだ。
俺は会頭。先生は副会頭。俺の方が責任を持たないといけない。
しかも迫ってくる公爵軍は待ってくれない。
無理にとは言わないという先生の優しさが嬉しい。
俺にきつい思いをさせたくないと思うならば、俺は――、
「俺が決断を下さないといけない」
「では――お願いいたします」
掌を重ねての一礼に首肯で返す。
大きく深呼吸をして迫ってくる公爵軍を見る。
しっかりとビジョンで。
恐怖に歪む表情が更に歪むし、そのままの顔で死を迎えるんだろう。
「許してくれとは言わない。恨んでくれて結構。それが戦争だから」
再度の深呼吸から、
「――――撃ってください」
と、右手を前方へと向けて――継ぐ。
自分でも驚いたけど、以外と冷静にしっかりとした声が出せた。
俺の声に続いて、けたたましい射撃音が廠内から一気に響き渡る。
先頭を走っていた騎兵は馬ごと絶命。
スナイパーライフルではない。面制圧による射撃は馬もお構いなし。
号令により北門も開かれ、そこよりJLTVが廠の外へと出る。
ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――――。
無機質で不気味な音だった。
M134・ミニガンが横に薙ぎるように動けば、先頭からバタバタと人と馬が倒れる。
馬が倒れると乗っていた人が激しく宙を舞う。
落下による痛みを心配することはない。すでに死んでいるから。
ミニガンとLMGによる一斉射により、倒れていく人々はまるで糸の切れた操り人形のようだった。
悲鳴は生きている者達からしか聞こえてこない。
生きている者達はまだ弾丸を受けていない者達が多い。
けたたましい音が響くと、突然として目の前の戦友が死んでいく光景。
どういった攻撃なのか分からないが、自分たちの拠点であるはずの場所からの攻撃に――なぜ? といった表情と、背後からと前方からの攻撃により直ぐさま絶望へと表情は変わり、そしてそのまま死んでいく。
ビジョンは地獄を俺に見せてくれる。
眼窩に弾丸が当たればその部分がはじけ、そのまま後頭部から脳漿が飛び散る。
金属のケトルハットは、兜としての効果を発揮することの出来ないままに、飛び散る脳漿と共に舞っていた。
狙撃の時も目は反らさなかったけど、立て続けに訪れる死を見続けるのは精神が一気に削り取られる感覚だ。
小さく長い呼気。
火龍装備だというのに妙に冷える。
「無理して見なくてもいい」
「優しいねベルは」
「好きこのんで見るものじゃないぞ」
「でも実行させたのは俺だからね。見ないと駄目なんだろう」
死にゆく者達に対する最低限の責任だ。
――撃ち始めて三分ほど。
リロードも含めての射撃だったが、そこはS級さん達。
リロードを行っても隙は生まれない。リロードするまでに他の方々がしっかりと空いた穴を埋める射撃を行うという事を繰り返していた。
たったの三分。
カップラーメンが出来る程度の時間の射撃。
でもとてつもなく長く感じた。
こちらに向かって来ていた公爵軍は、大混乱の中で先頭がミニガンとLMGの銃火によって命を奪われ、後方からは王様達の軍勢に攻め立てられる。
先頭でなにが起こっているかも分からない後方の者達は止まることなく前進し、事切れた者達につまづき足を取られれば、密集隊形ゆえに将棋倒しにも襲われる。
圧死にて苦しむ表情も眼界に入れることになった。
地獄が存在するなら正にここだろう。
先頭の絶望に、それに続く者達の絶望。
――――ようやく先頭の混乱を理解した者達。将棋倒しの難を逃れた者達が先頭となり、今度は要塞の方向へと向かうために北東へと進路を変更する。
王軍から追われる状態は変わらないままに……。
恐怖に縛られながらも懸命に逃げる為に足を動かしていた。
地獄はまだ公爵の兵達を開放してくれそうもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます