PHASE-06【召喚】

「いっだ!?」

 肩に走る衝撃。躊躇したから、丸太みたいな腕で殴られてしまう。


「いってぇぇ……」

 紛う方なき現実だな。地面を転がった時より痛えよ……。折れたんじゃねえか?

 くっそ、鉈を拾ってやがる。対して俺は殴られた勢いで棒を手から放してしまう。

 更には、周囲のオーク達もこっちのやり取りに気付いて近づいて来てる。

 やばい、やばいぞ! これで死んだら今度はどうなるんだよ。日本に戻れなくなるんじゃないのか? それは困るぞ。

 どうする、どうすりゃいいんだよ!

 えーっと、俺の能力。

 手渡されたアレ――――、ゲーム機は? 俺のプレイギア。

 ――――あった! なんか見たこともないポシェットに入ってる。

 ていうか、こんなもんを腰に巻いてたのかよ。今まで気付かなかったぞ。どんだけ精神的に追い込まれてんだ俺。

 画面を見れば、買ったばかりの新作が、インストール済ってなってるけども。どうやって使うんだよ!

 どうすんだよこれ? 使用方法なんて聞いてねえぞ。

 ディスプレイには、新作ゲームのタイトル【ワルキューレ・クロニクル】が映し出されてる。 

 買う理由になった敵サイドの強敵である美人中佐も、主人公達の背後にばっちりと映し出されている。


「ベルヴェット・アポロ」

 ついつい画面の中の彼女の名を口にしてしまう。

 途端にディスプレイが強い光を放つ。


「くぅ」

 強烈な光で視界が奪われた。強く目を閉じても光が入ってくる。

 光に苦しめられる俺。

 幸いにも、オークもその光を受け付けなかったようで、「ぷぎぃ!?」って、驚きながら、足を止めてくれているようだ。

 ――――程なくして目をやおら開けば、俺の眼前には、臀部まで伸びた、炎のように真っ赤な髪の毛が飛び込んでくる。

 ――――落ち着いて全体を見る――。

 上下ともに体に沿ったタイトな白い軍服。裾なんかに金の装飾がこしらえてある。

 上着はスリーブレスで、胸元までを包む白いケープを羽織っている。

 腰の左側には細剣の収まった鞘。形状からしてレイピアだろう。護拳にも手の込んだ装飾が施されている。


「――――なんだここは!? 共和国の者達はどこへ姿を消した!」

 すげ~。本当にゲームキャラが出てきた。

 俺がセラからもらった能力――――。

 ゲーム機のストレージデータ内にある存在を召喚する力。

 ゲームのような主人公になれるとかセラは言ってたけど、それなら主人公になるんじゃなくて、ゲーム内のそんなキャラ達を召喚できる力の方が、一人で戦うより遙かにいいじゃないか。という発想から生まれた能力。

 突如登場したベルヴェットの姿にオーク達も驚いている。

 だが、現れたのが絶世の美女だったからか、一度は歩みを止めたオーク達が、美女に対して卑猥な視線を向け接近。


「なんだ貴様ら? 面妖な」

 未だに理解は出来ていないようだけども、情報を素早く得るために、周囲を見回しているベルヴェット。

 眼界の行いで、ベルヴェットは、オーク達を敵と判断したようだ。

 しかし凄いな。ベルヴェット・アポロだよ。

 ネットやゲーム雑誌で見た時から大好きなキャラになった。

 敵だから味方として操作できないけど、このキャラが動いて喋るところが見たかったから、買ったといっても過言じゃないからな。

 DLCがきて、動かせればいいなと期待もしていた。その前に死んだけど……。

 でもいい! 眼前には見とれてしまう美人がいるから。

 スタイルも抜群! キャラデザのRAIZOU先生様々だ。

 俺の前で実際に生身となって現れて喋ってる。二次元が三次元に! 最高かよ!!

 あと、スリーブレスだから、腋フェチになりそう。


「さがれ。お前たちが担いでいる女性たちを下ろしてな」

 剣を抜く。やはりレイピアだった。

 切っ先は地に向けてのもの。真っ直ぐにオーク達に向けないのは、警告レベルだからだろうか?

 ――――効果はなかったようで、オーク達はさらにベルヴェットへと接近してくる。

 どうやら、気の強い女は特に好みのようだ。口元から涎まで垂らしてるのもいる。


「阿呆が」

 と、発した瞬間。ベルヴェットの深紅の髪がゆらめき、全身と剣に、髪よりも濃い紅蓮の炎を纏う。

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