PHASE-612【叩き落とす】

「空中に留まるのはいいけど、自由の利かない狭い板の上で何が出来るのかしらね」


「何が出来ると思う?」


「強者のような言い様ね」


「さっきまでのあんたみたいだろう」


「本当に生意気! ファイヤーボール」

 大したもんだ。

 俺とコクリコが仕掛けている間に、最初に切り倒した赤色よりも、強い輝きを発する赤色のオベリスクをベルが切り倒してくれた。

 火炎系の力は減衰しただろうけども、初期魔法は変わらずのバランスボールサイズ。

 魔術師としての地力は本物なんだよな。


「おら! 烈火」

 防がずに受けていくスタイル。

 左拳に作り出した球体で、ドデカい球体をぶっ飛ばしてやれば大いに爆ぜる。


「馬鹿なの」


「その通りだよ」

 こちとら自分の頭が出来たものだとは思ったことがないからね。


「でもストレートな言い方は駄目だ。いいか。俺は人よりやや劣るだけだ」

 跳躍し、爆炎の中を掻い潜りながらリンへと接近。


「言ってて寂寥感に襲われたりしないの?」


「認めてるからな。そんなもんに襲われたりはしないさ」

 ――……嘘だけど……。

 言ったそばから直ぐに心の中でチクリと傷を負ってますけども……。

 正面から迫ってくる俺に対して、リンが光の剣を構えると、刺突で仕掛けてくる。

 こちらは空中でバランスをとるのが難しいってのもあるけど、それを差し引いてもリンの刺突は見事なもの。

 

 魔法だけでなく、接近戦も一流だというのが分かる。

 脇を締めてジャブを打ち込むのに似た素早い刺突。

 体を捻って回避すれば、突きの速さだけでなく、引きの速さも大したもの。

 一般的な冒険者なら、接近攻撃の間合いに入る間に、刺突で五回は襲われているだろう。

 ベテランなら二回から三回。

 俺となれば――、


「二度目はない」

 ベテラン以上に強いという暗示を自らにかけつつ、リンの引いた腕に合わせて残火を上段で構える。

 魔法の選択は流石に時間がないのか、


「女に刀を振り下ろせるのかしら」

 中々にチクリと刺さってくる発言をしてくるな。

 だが!


「男女平等!」

 言って袈裟斬りの峰打ち。

 鎖骨は折れてるだろうが、アンデッドだからな。


「くぅ……」

 なんで痛みを感じないはずのアンデッドが、苦悶の表情を浮かべて床へと落下していくんだよ。


「――――はい着地」

 結構な高い位置からの着地でも平気な俺。

 リンはシャルナの調整したアッパーテンペストのおかげで、ぐしゃりと床に叩き付けられることはなかった。

 プロテクションを展開すると思ったんだけど、そっちをチョイスか。

 心なしか、ふわりと降ろすのではなく、一度、宙に浮かせてから叩き落としたように見えた。

 俺が峰打ちをした高さに比べれば低い位置からの落下だけども、何となくシャルナの悪意を感じた。

 おばあさまって言われたからな。

 ま、アンデッドだしいいか。

 などと思える俺も、女性に対する扱い方としては間違っているな。

 それに俺の峰打ちで、表情が歪んでいたのが気になる。

 アンデッドでも痛みを覚えるとなると、罪悪感も芽生えてくる。


「もう少し上手い具合に調整しなさいよ」


「喋れるくらい元気なら、自分で着地すればよかったんじゃないの」


「嫌なエルフ」

 よろめきながら立ち上がろうとするところに、


「抵抗は無しだ」

 オベリスクを切り倒していたベルが、レイピアの切っ先をリンの眉間に向けて凄む。

 その背後では、ゲッコーさんが小馬鹿にされたSG552を構えて待機。


「わ、分かったわよ……」

 立ち上がろうとしていたけど、力なく座り込む。

 流石のアルトラリッチも、ベルとゲッコーさんの二人に至近で睨まれれば、反抗的な態度を取る事は出来ないようだ。

 

 最初は俺たちを見下ろしていた位置だったけども、今では俺たちが見下ろすポジション。

 ここに形勢は逆転した。

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