PHASE-1227【良い関係を構築しているようだ】

 ――立木のない広場へと足を進める。

 学校のグラウンドを思い出させる風景だ。

 打楽器である木琴を激しく叩いているかのような高い音が、方々から聞こえてくる。

 それに負けないような気迫ある声も上がれば、痛みを受けた時のうめき声もしっかりと耳に入ってきた。

 ――眼界のグラウンドのような場所では、実戦を想定しての対人による白兵戦の訓練が行われていた。


「よぉぉぉし! 次ぃぃぃぃい!」

 様々な音が聞こえてくる中、威勢のある声が耳朶に届く。

 野太く力強い声は、恫喝にも近いものがあった。

 聞かされる方は萎縮してしまいそうな感じでもあるが、野太い声に続いて気迫ある声がそれに呼応しているあたり、野太い声に負けないだけの気骨さがあるのがそれだけで分かるというものだ。

 

 で、その野太い声には聞き覚えがある。

 声の方角へと目を向ければ、立っているのは――ドッセン・バーグ。

 黄色級ブィの認識票を首にぶら下げた、やり手のギルドメンバー。

 北伐時の要塞戦にてメイスとバックラーを装備し、俺の側で大立ち回りをしてくれた頼れる人物である。


 そんな人物は黒色級ドゥブの認識票を首からぶら下げた新人さんたち三人の指導をしていた。

 新人とはいえ冒険者。

 対人戦に重きを置いたこの場において、素振りなどのような指導は当然ながらない。

 実戦あるのみとばかりに、自分に向かって全力で攻めてくるように指示をしている。


 ドッセン・バーグは普段から使い慣れているメイスと同程度の長さの木剣を右手に持ち、左手には木製のバックラーという装備で三人に対してノーガードによる佇まい。

 ――だったが――、


「おっ、仕掛けるか」

 俺達が見ている中で三人が動き出す。

 動きに合わせるようにダラリと下げていた両腕が構えるために上がり、迎撃姿勢となって三人を睨みつける。

 三人の新人さん達はその目力に気圧されつつも、相対するドッセン・バーグに対して後退りすることなく目配せを行い、小さく頷きあえば、横隊で足並みを揃えて正面三方向から仕掛ける。

 ロングソードを模した木剣持ちの二人が左右から。

 そして二メートルを超える長さの棒を持った人物が、中央から刺突の構えにて仕掛ける。

 足並みを揃えていた左右の二人から先行し、一番槍とばかりにドッセン・バーグに対して突きを打ち込めば、呼応するように続く左右が木剣を構える。


「あまい! そして遅い!」

 左手に持つバックラーで中央からの突きをいなして距離を詰めれば、トラースキックで長棒持ちを吹き飛ばし、いなしたバックラーで左から迫る横薙ぎ受け止めると、いなすことはせずに力任せに払いのける。

 衝撃で数歩、後退させられる新人さん。

 バックラーでの拭き飛ばしと同時に右方向から迫る両手で握っての上段からの一撃は木剣で受け止め、バックラーでの動作と同じように力任せにはじき飛ばす。

 右から仕掛けた新人さんは、その衝撃で手にしていた木剣が手から離れてしまい万歳状態。

 トラースキックとバックラーによる払いのけで後退した二人に対し、万歳状態の一人は、ドッセン・バーグが手にする木剣の間合いの中に留まってしまう。

 留まった結果、胴打ちを決められ力なく両膝をついてしまった。

 

 一切の手心がないようにも見えたが、ちゃんとレザーアーマーの厚みのある部分を狙っての胴打ちだった。


「この程度で両膝をつくな! そんなんだと直ぐさま敵に止めを刺されるぞ。そして何よりもぉぉぉお! 自分の命を守ってくれる得物を簡単に手放すんじゃねえ! 貧弱な握力しかねえなら柄の部分に紐を通して手首にでも括っとけ! 工夫しろ!」

 と、言いつつ、両膝をついた新人さんの胸部に前蹴りを見舞う。

 これで一人がダウン。

 

 ――三人がかりで太刀打ち出来なかった状況で一人が離脱してしまえば、残った二人では相手にならないだろう。

 

 はたして正にであり、次にドッセン・バーグが狙うのは長棒持ち。

 牽制の突きなどものともしないとばかりに長棒持ちに対して突進にて距離を詰め、体重と速度を乗せたバックラーによるシールドバッシュで吹っ飛ばしてのダウン。

 残った一人が対峙するも実力差は歴然。

 一対一になった時点でドッセン・バーグと戦えば、何も出来ないままにダウンさせられた。

 三人とも荒い呼吸のまま地面に転がるという光景。


「いやはや、荒い荒い」

 指導者として言動と指導方法に荒さが目立つよ。

 粗暴な冒険者然としたおっさんである。

 転生前の俺の世界なら、間違いなくPTAが出張ってくるね。


「これは会頭。お帰りなさい」


「どうも」

 先ほどまでの荒々しさが嘘のように鳴りを潜め、俺に対して典雅な一礼を行ってくる。

 以前、ベルの宣言によりギルドハウスの食事処でばつが悪くなったドッセン・バーグ。

 その時に俺が宣言の機会を与えてくれたという事で食事を奢ったんだけども、それによって俺に恩を感じてギルドへと加入した人物。

 ベルのコボルト達を自分の庇護下に入れるという宣言。

 亜人であっても偏見を持ってはならないというきっかけを作るのによいタイミングを与えてくれたんだよな。


 で――今現在、そのきっかけを作り出した二人が対面しているといった状況でもある。


「おう、コルレオンも鍛練か」


「はい!」


「ギルドハウスでの給仕もしながらいつも鍛練に励む。感心だな」


「ありがとうございます!」


「いい返事だ」

 ――と、以前コボルトが給仕なんかをするな! という発言をしていたドッセン・バーグと、言われたコルレオンの関係性は違和感のない気さくなやり取り。

 

 俺達が外で励んでいる間、王都を中心として活動している面々もしっかりと関係が進展してるようだ。


「なんだ? またマイヤに教わるのか」


「はい」


「ほう。美人にばかり手ほどきを受けるとは生意気だな! よし! お前は白色級バーンだ。いま俺がしごいていた黒色級ドゥブの連中に手本を見せるためにも俺とやれ!」

 豪快な声ってのは耳にする相手によっては恫喝にも聞こえるというもの。

 以前にキツいことを言われたコルレオンなら尚更そういった印象を受けるかとも思えるのだが――、


「よろしくお願いします!」

 と、ここでも快活良く返事をしていた。

 ドッセン・バーグに対して恐れってのはないようだな。

 俺達が外で活動している間に進展した関係は、良い方向で構築されているようだ。

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