PHASE-1226【励んでくれてなにより】
「本当に王都に来てよかったですよ。怪我を負った冒険者をここまで大切に扱ってくれるギルドも中々にないですからね」
「前線から退くことになっても、他で活躍してくれる才があるのならば、バンバンと取り入れていくのが内のギルドなんですよ。セカンドキャリアにも重点を置いたギルドを目指しております」
後半は完全に適当な発言ではあるが、そういった環境作りもしていこうと思う。
というか、この追い詰められた世界で才能ある者が早々に隠者生活を決め込むなんてことはさせてあげない。
ザジーさんのように前線で活動できなくなっても、テイマーとしての経験を活かして馬の調教師となってくれる人物だっているわけだしな。
馬の飼育だけでなく、調教師の責任者として若手の育成にも従事してくれているそうだし。
前線に立たなくても活躍の場は大いにあるってことだ。
むしろ後方でしっかりと支えてくれる者達がいるからこそ、前線を担当する者達は安心して戦えるわけだしね。
ザジーさんのような人材がギルドに加入してくれたのは本当にありがたいことである。
だからこそ、ザジーさんの冒険者時代の仲間はしっかりと登用しときたいね。
「もしかしたらザジー殿も前線に立つことになるかもしれませんけどね」
「マイヤの言には期待が含まれているね」
「はい。王土とミルド領が繋がったことが大きいです」
――王都とミルド領の交易と相互協力が成ったことで、お互いの技術を併せ持つことも可能となった。
ザジーさんの場合、後者の相互協力のほうで解決する可能性が出てきたそうだ。
王都のワックさんを中心とした技術者たち。
公都ラングリスの北西に位置する魔術学都市ネポリスにて、日々、励んでくれている代表のアビゲイルさんと魔導討究会の面々。
これに加えてネポリスと協力関係であるマール街の面々も参加することで、魔道具などを中心としたアイテムが飛躍的に向上すると考えられているという。
各地の叡智を集結させることが可能になった事は大きな発展に繋がる。
ザジーさんの義足にタリスマンを使用し、マナによる力で使用者の意思によって動かすというアイディアが出ているそうだ。
コクリコがカトゼンカ氏から頂戴したサーバントストーンは、術者の意思によって動く。
そのサーバントストーンの効果に近いものを制作するってことになるんだろう。
マナを使用できる者限定の使用となる義足のようだから、一般の方では使用は難しいかもしれないが、ゆくゆくは一般まで普及することを最終目標として掲げてもらいたい。
王土と公爵領のいざこざが無くなったことによる恩恵は巨大そのもののようだな。
「本当に喜ばしいことだ」
「はい。ですので会頭には押印作業もしっかりとお願いします。修練場での見学や鍛練を終えた後、執務室にて押印作業に従事してもらいますので」
「……はい……」
義足義手の開発をはじめ、様々な魔道具開発においての開発許可や、それに伴っての組織作りの許可も出さないといけない。
王土であるマール街の協力は既に王様から許可が出ているが、ギルドメンバーであるワックさんと、ミルド領サイドの許可は俺待ちって事になるわけだ。
もちろんそこは先生。抜かりはない。
俺がそういった事は承諾すると見込んで既に行動させてはいるそうだ。
だが正式な許可となると、やはり俺が出さないと大手を振ってという事にはならないらしい。
こっちとしては全く問題ないんだけども、端から見れば先生が独断で行動し、ギルドを私物化している。という見方をする者達だって出ないとも限らない。
公平性をしっかりとする為にも、ギルド会頭と公爵という立場にて最終決定権を有した俺が許可を出さないといけないんだろうな。
う~む……。
俺が前線にいるとこういった弊害が出るんだよな……。
ミルド領でもそうだ。
爺様と荀攸さんに丸投げなんだけども、最終決定権ってのは俺にあるわけだしな。
――……あ~面倒くせえな。
そもそもが俺に政治面の才能は皆無。だから丸投げしてるわけだし。
最終決定権も丸投げしようかな~。そうなると乗っ取りからの独裁へと繋がるという可能性も生み出すんだろうけども、そんな事はまずないしな。
まだ先生はギルド内に限定されているから全権を任せても大事ってのにはならないけども、流石に公爵領の全権ってなると問題も生じるだろう。
俺が前線にいるから最終決定権を下すのには無理があるって事と、政事能力が限りなくゼロってことを自覚しているから、爺様に全権を一任するってのをしっかりと明言したほうがいいな。
でもって、こういった問題を解決させるための特別な役職を作ればいいんだよな。
うん、そうしよう。後で先生とその辺も話し合って知恵を頂戴しよう。
上手くいけば押印作業もしなくてすむしな。
――……普通の思考だと、流血の前線より後方での押印のほうがいいはずなんだけどな~。
戦いが起こっている異世界に一年以上いると、前者の方が楽だと思えてしまっている俺は、この世界での戦いの場にドップリと馴染んだって事なんだろうな……。
「おう大将」
「おん?」
数騎の騎馬がこちらへとやって来れば、下馬して先頭の人物が挨拶をしてくる。
グレートヘルムを頭に被っているから最初は誰? と思ったけども、兜越しのくぐもった声は聞いた声。
なにより俺を大将と呼ぶのは――、
「ラルゴ?」
「おう! 悪かったな。俺達は大将の私兵だってのに昨日は出迎えに参加できなかった」
「いや、いいけども」
ラルゴたち私兵は、前日の夜遅くまで王都外で兵としての能力を高めるため、野営による訓練を行っていたという。
で、今の再開となったわけだ。
「爺様から提供された
「もちろん普段は装備してるさ。でも今回はこれを装備しての訓練だったからな」
言いつつグレートヘルムを取れば確かにラルゴであり、俺が名付けた元奴隷のリーバイも後ろに控えていた。
なんか皆して精悍な顔立ちになっているな。
ラルゴや以前から一緒に行動していた連中は元々が精悍ではあったけども、更に凄みが増している。
「で、訓練って?」
「馬術の向上に加えて、王都外の警邏をやっていたんだよ」
「へ~」
「このバケツは視野が狭くなるって事で、戦場ではその狭い視界で如何に上手く立ち回るかってのと、騎射をするって訓練をやってたんだ」
訓練もこなしつつ同時に警邏も行う。時間を有効に活用しているな。
「大将の私兵だからな。誰に対しても手本とならなきゃいけねえって優男が言うからよ」
「副会頭と呼びなさい」
と、マイヤから指摘を受けるラルゴ。優男って先生のことね。
元奴隷で砦を占拠していた連中だけども、根は真面目だし悲惨だった過去からの脱却も考えているからか、向上心が高いのはいい事である。
「で、手本となれるくらいには成長したのか?」
「おうよ! 王都兵相手なら同数での戦いってなるとまず負けねえよ」
チラリとマイヤを見る。
小さく首肯で返しつつ、当初からの戦いを知っている者達を除けばと付け加えてくれた。
俺達と一緒になってホブゴブリンが指揮していた連中と戦い、その後も戦闘を繰り返してきた精兵が相手となると分が悪いようだが、その後に兵となった者達となら戦っても負けないまでには成長しているという。
「私兵の主として嬉しい限りだよ」
「そう言ってもらえるとこっちも嬉しい限りだ」
「リーバイも頑張っているようだね」
「はい! 主に頂いた名に恥じぬように今後も己を磨きます」
「おう。頼むよ」
「じゃあ大将。俺達はまた王都外の警邏に戻るからよ」
俺が戻ってきたから代表して数人だけが挨拶に来てくれたという。
律儀なのは嬉しいものだ。
それだけ俺を信頼してくれているって事だからな。
「馬は大事に扱っていただきたい」
「分かってるって。アンタの育ててくれた馬は、俺らみたいな歩兵専門の素人が有能な騎馬兵にでもなったのか!? って、勘違いさせるくらいに優秀だからな。大切に扱うさ」
「そう言ってもらえるとありがたい」
ザジーさんが笑顔で語り、ラルゴは再びグレートヘルムを被ると仲間達を伴って俺達から去っていく。
――で、俺達もテイマーであるザジーさんに別れを告げて次へと移動。
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