PHASE-1225【唯才是挙】
――ちょっと場所を変えれば、立木も様変わりだ。
ここまでに見てきたのは人間サイズの立木が並んでいた光景だったが、ここには四、五メートルからなる大型の立木が並んでいる。
トロールやオーガをイメージした立木ようだ。
しっかりと隊列を組んでの包囲による連係攻撃を訓練する光景と、多方向からの波状攻撃による光景。
前者は主に王都兵によるもので、後者が冒険者。
こちらでも前者は猿叫を発し、長槍を模した棒で包囲して同時に突くという訓練。
後者である冒険者たちは声を出し合い、一人が躍りかかるように攻撃を行えば直ぐに距離を取り、その動きに連動して今度は反対側から仕掛けるという動き。
先ほどの人型サイズの立木に打ち込んでいた者達と違い、猿叫を気にせずに敏捷に動いているところからして、ここの冒険者たちは先ほどの面々より練度が高いようだ。
首にぶら下げているのは
――あらかたの連携を行った新人さん達は検討を行い、会話の中では大型を相手にするようなクエストを受けられるほどの実力も装備もないんだけどな。と言いつつ笑みを湛えて今後の為にもと励んでいた。
簡単なクエストであっても外に出れば難敵と出会う事だってある。
その時の事もしっかりと考えて油断怠りない鍛練には感心しかない。
そんな新人さん達の会話の中には生活も向上させたいし、装備をもっといい物にしてポーションなどのアイテムもしっかりと揃えたいという現状からの脱却も含まれており、新人でも着実に稼げることが可能なダイヒレンを狩って素材集めで金を稼ごう。という会話内容も耳朶に届いた。
新人さん達にとってダイヒレンは金になる素材として好まれる相手のようだ。
臆病で直ぐに逃げ出すから発見してからが勝負ではあるな。
ダイヒレンを意気揚々と狩る事の出来る新人さん達よ。その部分だけなら内の最強様であるベルに勝利してるよ。
「欲を言うなら、王都兵と冒険者が連携を組んでいる訓練も見たいけどね」
「兵達が冒険者側に合わせるのが難しいようです」
「だよね。逆に冒険者サイドが兵士サイドに合わせようとすれば個性が死ぬしね」
「そうなんです」
と、マイヤもその辺は考えているようだ。
魔王軍と戦うとなれば、王都兵だけでなく各地の兵士たちとも連携を組んで戦うことになるだろう。
兵士たちも土地が変われば特色の有る戦い方をするだろうしね。
それらを統合して戦闘をするとなると齟齬が生じる。
ましてや個の武が主な冒険者とは連携ってのも中々に難しいだろう。
「近くでお互いが訓練風景を目にするだけでも知らないよりは良いと思うべきか」
「合同演習は副会頭も考えているようです。その場合、ギルドの者達や野良で協力してくれる者達は搦め手を担当し、王侯貴族や豪族が指揮する兵士たちは大手を担当しての相互連携をと考えているようです」
「先生に抜かりなし。だな。しっかりと考えてくれている」
――しばらく訓練場を歩いて回る。
いやはや――本当に広くなったな。
まさか騎乗訓練も可能とは。
王都防御壁と木壁の間でなら騎乗訓練も可能だけども、まさか修練場でもしっかりとした騎乗訓練が出来るようになっているとは。
襲歩による騎射が可能な広さってのは正直、驚かされた。
「乗り手を選ばない馬というのも素晴らしいですよね」
「お、そうだな」
ランシェルの指摘で理解する。
そこまでの考えには至らなかったな。
乗り手が変われば癖も出て来る。違和感を感じれば馬の中には乗り手を振り落とそうとするのも出てくるだろうが、そういった事もなくしっかりと駆けている。
マイヤ曰く、乗り手が巧みなのではなく、馬が巧みなのです。だそうだ。
馬が乗り手を御するといった感じなんだろう。
乗り手が上達するまでは馬が乗り手に合わせてくれているのだという。
俺のダイフクと同じようなもんだな。
そういった馬をしっかりと育ててくれる調教師も、先生が選出した人物たちからなるという。
「噂をすれば」
と、マイヤが指さす方向を見れば、壮年の男性が馬の鞍を取り外していた。
「あの人ですか」
「はい」
鞍を外し馬を優しく撫で、周囲の若手達に厩舎で休ませるように指示を出していた。
「どうも」
と、挨拶。
「――おお、もしや会頭ですか?」
「はい」
初対面の人物は俺の纏っているマントや装備を眺め、俺の正体を把握。
肯定で返せば典雅な一礼をしてくれるので俺も返す。
「うわさ通り、腰の低い人物のようで」
「皆さんに支えられての会頭であり、勇者をやらせてもらっています」
「本当に腰が低い。しかも言い方にいやみったらしさがない。建前でなく本音だというのが分かりますよ」
笑顔を向けてくる壮年の男性が俺へと歩み寄り、手の出してくるのでしっかりと掴んで握手を交わす。
歩み寄ってくる姿にやや違和感を覚えたけども、まずは――、
「遠坂 亨です」
「会頭を先に名乗らせるのは無礼でしたな」
「いえ、ギルドの代表ですからね。先に名乗るのが当たり前ですよ」
「無意識な人誑しのようで。副会頭の言うとおりだ」
微笑む男性は鼻筋の通った整った顔である。
ブラウンカラーの短髪に同色の無精ヒゲ。
そして首には
つまりはギルドにおいて中核を担ってくれている重要な地位に立つ人物である。
「ザジー・ネロンといいます。以前は冒険者としてテイマー職に就いていました」
「へ~。テイマーってことはモンスターに指示を出して戦うタイプですよね?」
「はい」
ほうほう。ゲームでも好きな職だな。
大型のモンスターなんかを使役して戦うとか浪漫だからな。
それにしても、
「以前は冒険者にて――ということは既に――」
「引退しました」
「年齢的にまだ現役でもいいんでしょうけど」
「三十三ですからね。自分よりも年上の者達も冒険者として励んでくれていますが――いかんせん――」
――発しつつ右足に目を向けるザジーさんの動作で察する。
「足を悪くしているようですね」
「ええ、そうです」
先ほど俺に近づいてくる時の違和感は足の運び方からだった。
「ですが見た感じ、普通に動けているように見えるのですが」
びっこを引くといった感じではないようだし。
左側に重心が傾いているようだったが、普通に歩けていたようにも思える。
「これでも相当に励んでいるんですよ」
言ってザジーさんは大きな呼気を一つ出し、近くの丸太に腰掛けて、両手を右足に伸ばす。
「――ああ、なるほど……」
革紐をほどき、数カ所に設けられた金属からなるスナップ錠のロックを解除すれば、スポリと膝下部分から足が取れる。
正確には義足。
「ギルドに入る前までは棒義足だったんですがね。副会頭の目に留まってギルドへと招待され、ワック殿に精巧な義足を作ってもらったんですよ」
流石はワックさんである。
正直、義足は見た目だけならレザーブーツそのもので、冒険者が使用している物と違いがないから義足には見えない。
軽くて頑丈なモンスターの鎧皮から作られた代物だというところが、ワックさんの妥協を許さない精神が出ている。
棒義足の時は歩きづらかったそうだが、ワックさん制作の義足に変えてからは足があった頃――までとはいかないものの、普段の生活を行うには十分すぎるほどだそうだ。
「こんな体になっても好待遇でギルドに迎えてくれたことには感謝しかありません。加えて精巧な義足を無償で与えてもくれたんですからね」
ザジーさんは大層に感謝し喜んでくれた。
足を欠損した事で今までの冒険者パーティーと行動するのは、文字通り足を引っ張るということから脱退したそうなんだけども、長く付き合いのあった仲間達からは強く引き留められたという。
そんな仲間達の足手まといになりたくないからこそ自らの意思で脱退したそうだ。
「素晴らしいお仲間さんだったんですね」
「ええ、今も冒険者として前線で活躍しています」
「なんなら内のギルドに入ってもらいたいですね。仲間を大事にする方々は全体も大事にしてくれるでしょうから」
「会頭、その辺りはご心配なく」
マイヤが言うには、そういった人材は是非とも招き入れたいということで、既に先生が登用を考え、活動地点にギルドメンバーを向かわせて交渉しているとの事だった。
いやはや、有能と思えば貪欲に人材を集めるところは、
有能な人材を察知する嗅覚と推挙する能力は、他の追随を許さないのが先生である。
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