PHASE-960【バランスわる】

「後、もう少し静かに始めろよ」

 継いで発せば、


「始めたところで――私ですよ」

 無い胸を反らしての威風堂々たる返し。


「結局、派手になるって事か」

 嘆息を漏らしつつゲッコーさんが銃を構える。

 スケイルマンでは通用しなかったペーペーシャの銃口が向けられているのはゴブリンゾンビの群れではなく更に奥。

 コクリコの先手必勝に目が向かってしまったけども、室内を見渡せば闘技場ほどではないけど広い。

 極力無駄な物は置かないとばかりの室内の広さはバスケットコートほど。


 壁側にも目を向ければ、ヒビの入った一枚からなる大きなガラス窓もある。

 ガラス窓の向こう側には小部屋が見えた。

 ガラスにヒビは入っていても割れていないことから、かなりの強度だというのが分かる。

 この世界特有の魔法付与による強化ガラスと予想。

 大方この部屋は、創りだした合成獣の力を調べるための実験部屋の役割をもった場所なんだろう。

 ここで試験的な戦闘実験を行い、最終試験の場となる闘技場で大規模な戦闘実験をするといったところか。


「おっと!」

 こっち目がけて飛んできたのを皆して回避。

 ぐちゃりと嫌な音を立てたのは俺達の後方から。つまりは飛んできたモノが壁にぶつかった音。

 後方を見て確認――飛翔物はゴブリンゾンビ。

 壁にぶつかった衝撃で頭が完全に潰れ、残った体は痙攣していた。

 実験でゾンビにされたあげくこの仕打ち。何とも虚しい成れの果て。

 というか、ゴブリンゾンビはスケイルマンの時もそうだったけど、使役されるだけでなく投擲物あつかいでもあるんだな……。


「室内を見渡す余裕はいいが、しっかりとお前が相手をする存在に目を向けた方が良い」


「あ、俺が相手って確定なんだな……」

 ゲッコーさんだけでなくベルもしっかりと室内の奥側に目を向けつつ、俺に対してつれないことを言う。

 毎度毎度、俺が一人で対応しないといけないような流れはどうにかしてほしいもんだ。


「掩護は頼みますよ」

 銃口を向けるゲッコーさんに言いつつ一歩前へと出る。


「まあ掩護が必要ならな」

 とか言う辺り、最奥から仕掛けて来た存在は、大したことない存在と考えるべきか。


「何とも醜いことで」

 最奥を見やっての感想を口にする。


「まったくだな。さっきもそうだったが、醜悪を平然と具現化させる連中は叩きつぶさねばならん」

 追従するベルはお怒り。

 その怒りにまかせて俺と一緒に戦ってほしいけど、俺が一歩前に出てもベルが足を動かすことはなかった。

 やはり俺が一人で対処か……。


「ファイヤーボール」

 唯一、目立ちたいコクリコが押し寄せてくるゴブリンゾンビに無双モード。

 俺を掩護するより目立つ方に重きを置いている様子。

 まあ大立ち回りによって、必然的にタゲ取り要員になっているから、今のところゴブリンゾンビが俺へと迫ってくる事がないのはありがたい。


「お馬鹿が調子に乗って、噛まれて死なないように掩護はまかせる」


「まかせといて」


「はい、は~い」


「私は見学」

 シャルナとオムニガルは快諾。リンは相変わらずのスタイル。

 何というか、強者が多い俺のパーティーだけども、強者にカテゴライズされる面子がスパルタだったり、自由奔放すぎるのは頭を抱えるところ……。

 裏を返せば本腰入れるほどの脅威じゃないと判断してんだろうけどさ。

 まあ、もう慣れてるからいいけども。


「んじゃま――」

 軽い助走から跳躍。

 ピリアによる身体能力の底上げにより一足飛びで――、


「近くで見れば更に醜いなオイ。変な連中のせいで不幸な運命をたどっちまったな」

 この室内でもっとも大きな存在の二歩手前辺りに着地。


「ヴァグォォォォォォォォォォォォォォォオ!!」


「その運命から解放してやるさ!」

 眼前で咆哮しつつヌッと立ち上がる大きな姿は、テレビなんかで見る熊そのものなのだが、灰色の毛並みは活力がなく、剥製が動いているようだった。

 目は黒目のないくすんだ白目だけだが、俺を見下ろしているというのは分かる。


 体格と毛並みは熊なのだが、決定的に違うのは醜悪な叫び声あげる頭部。

 スケイルマン同様、青白い肌の色からなり、皮膚がはげ落ちて壊死した赤紫の筋肉が露わとなっている人間の頭部。

 人間の頭部を熊の体に無理矢理くっつけたような姿。


 スケイルマンは人間サイズだったけども、この熊――ウェアベア――ウェアベアモドキと例えるべきアンデッドは、大きな熊の体に人間の頭部が生えているから非常にバランスが悪い。

 そのバランスの悪さが不気味さを醸し出しているのもたしか。


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