PHASE-1221【教わるならやっぱり美人】

「はぁぁぁぁ……」

 結局、熟睡は出来なかったな……。

 もしかしたら夜中にランシェルが忍び込んで来るのでは? と、警戒をしつつの睡眠だったからな……。

 正直、寝ようとせずに起きたまま夜を過ごしたほうが、まだ疲れがとれていたかもしれん……。

 

 若干の気だるさを伴いながらギルドハウス一階へと移動。

 

 昨晩コリンズさんと執務室に入る前に目にした一階の光景は、メンバーや野良の冒険者の方々は既に宿泊施設に移動していたようで、少人数がいた程度だった。

 それでも賑やかではあった。

 残っていた者達は反省会と、無事を祝っての酒盛り。

 新人さん達は側の席で酒盛りをしていたベテランパーティーの見よう見まねで、酒盛りならぬエードで盛り上がっていたな~。


 などと昨晩の光景を思い出しつつ――、


「わざわざ来られなくても、私から足を運びましたのに」


「いやいや、忙しそうだとランシェルから聞いたからね」

 と、返す相手はマイヤ。

 昨晩は無理矢理に退出させたからか、若干、不機嫌だったランシェル。

 そういったリアクションは女の子にされたいんだけども……。

 そんな不機嫌なランシェルにお願いしてマイヤを呼んでほしいと頼んでおいたのだが、現在、一階にて新米さん達にアイテム選びなどのアドバイスをしており、それらを済ませるまで待ってほしいということだったので、多忙ならばと俺から赴かせてもらった。


 会頭である俺にご足労をかけたと言い、申し訳なさそうに頭を下げてくるマイヤ。

 目の前の美人は元々が生真面目な性格だからそもそもが礼儀正しいんだろうけど、その他の面々も冒険者とは思えないくらいに礼儀正しいのがうちのギルド。

 実力はあるけども性格に問題があったり、粗野な連中ってのがまあ少ない。

 新人に対して絡む冒険者とは名ばかりのチンピラみたいなのもいないしな。

 

 先生の見出す才能もあるんだろうが、以前に俺を含めた男性メンバーがベル一人にボコボコにされるという、トラウマ必至の地獄絵図が規律を生み出したんだと思う……。

 風紀委員長であるベルの秩序と規範により、礼儀を重んじる人格へと変化したんだろうな。

  

 俺としては礼儀正しいほうが接しやすいから有り難いけどね。

 不良みたいなのとやり取りするなんてのは嫌だからな。元の世界では俺とは無縁の面子だったし。


「それで会頭。私に用とは?」


「ちょっとお願い事があってね。そちらの用事が済むまで待たせてもらうよ」

 周囲の新米さん達の世話の邪魔をしたくないからね。

 そんな新米さん達は、目の前に現れた勇者でありギルド会頭な俺に対し、緊張から体は強張り、姿勢は真っ直ぐに伸びたもの。

 これに加えて尊敬の眼差しを向けてくる。

 完全に俺の弟子達と同じような目なんだよね。

 キラキラと輝かせているもんだから、こっちの体がこそばゆくなる。

 

 東奔西走による活躍に加えて、魔大陸まで足を進めて魔王軍幹部を倒したという事もしっかりと耳に入っているからか、恐れ多いとばかりに俺へと近づいてくることはなく、マイヤの後方からただ見てくるだけ。

 

「人々の為に頑張ってくれよ」

 目が合ったのでちょっと上からな感じで言ってみれば、まあ喜んで返事をしてくれた。


「俺、会頭と口聞いちゃったよ」とか「俺の目を見て言ってくれたよ」とか「優しくて強いなんて憧れる」といった声が上がってくる。

 最後の黄色い声が特によく聞こえる俺の耳は都合がいい。

 コクリコが歓声を受けて気持ちよくなるってのも分かるってもんだが、調子に乗るとろくな事にならないのはいつものことなので、粋がることなく、敬慕の念による発言を有り難く受けつつ、遠坂 亨はクールに去るぜ。


 ――――。


「お待たせいたしました」


「悪いね」

 一階の食事処の角のテーブルで待っていれば、マイヤが深々と頭を下げてくる。

 さっきもそうだけど、そこまで恭しくしなくていいのに。

 本来なら執務室でもいいんだろうが、やはり俺も調子に乗るタイプなんだろう。

 粋がらないようにとか思いつつも、しっかりと角のテーブルを占拠することで全体を見渡せる位置取りをするっていうね。

 お陰で俺は注目の的だった。

 とても気分が良かったです。

 ベルやゲッコーさんがこの場にいないからこそ可能なことだ。


「それで私にお願いとは?」


「二刀の使い方を教えてほしくてね」


「二刀――ですか」


「そう。マイヤは得意なんでしょ?」


「慣れてはいますが、基本は手に掴めるモノはなんでも扱えるように修練しています。二刀はその結果によるものです」

 格好いい台詞だね。

 出来る人の台詞だよ。

 ギルドに入る前は、元ローグとして魔王軍の前線兵舎なんかに忍び込んで盗みを働き、ついでにとばかりに破壊工作をしていたという女傑。

 忍び込むという事を生業とすれば、自身の得物が使用できない状況に陥る事もあり、武器を現地で調達することが当たり前な事から、様々な武器の扱いに長けていったそうだ。

 

 通常装備はモンスターの皮を鞣して作られた革製の鞭、小型のクロスボウ。暗器も装備しているという。

 そんなマイヤの装備で最も目立つのは、左腰に佩いたショートソードと右太股のシースナイフ。

 一振りと一挺を使用しての二刀による戦いを最も得意としているという。


 マイヤが戦っているところをしっかりと見たことがないので実力は分からないが、位階がカイルと同等なのだから間違いなく強者。

 そんな強者から是非とも二刀の扱い方を学びたい。

 なにより美人だし。

 美人から教わるってなればやる気も違うというものだからな。

 ベルと違ってまだ優しそうな感じもするしね。

 

 以前、ラピッドとビジョンを習得させてもったし、今回もよろしくお願いしたいのですよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る