PHASE-1220【不死者も愛でる可愛さだったようで】

 王様たちへの挨拶を終えた俺は、外周の木壁からギルドハウスに戻ってきていた。

 テンションの上がった先生は、王様たちと共に城へと足を運び、今後の策を練る模様。

 ゲッコーさんは蔵元という立場もあるからと、酒蔵へと足を向かわせた。

 エルフとしての知識からポーションを見てもらいということで、シャルナも酒蔵へとついていった。

 ガルム氏も先生と一緒になって城へと戻り、リズベッドの護衛につくとのことだった。

 去り際、今回、新たに加入したゴブリン達のことをアルスン翁にお願いしたいので、次の日にでも会いたいと連絡を頼んだ。


 ランシェルは久しぶりの俺との再会からか、俺の側で世話をしてくれるとのことだ。

 ――……うれしいような。そうでもないような……。

 

 そして現在、コリンズさんとハウスの執務室にて挨拶を交わしているところ。


「それで、ゴロ太は?」

 お互いの再会の挨拶を終え、現状を問う。


「ゴロ太殿は健康そのもの。別段、問題という問題も起こっておりません」

 ゴロ太の護衛についてくれるのは、コリンズさんとスケルトンルイン達。

 とても頼りになる面子なのだが、常に護衛として側にいれば、ゴロ太と仲のいいコボルトの子供たちを怖がらせてしまうということもあってか、一定の距離をおいての監視という心配りによる護衛だったそうだ。

 だがそこは有能なアンデッド達。

 距離を置いての護衛であっても抜かりはなかったようだ。

 睡眠も必要としないから、一日中ゴロ太を見守ってくれていた。


「就寝中は寝惚けて、トイレと間違えて外に出ようとしてしまうところもありましたよ」


「へ~」


「直ぐさま起こしてあげればちゃんと一人でトイレに行って、ちゃんと一人で用を足しておりました」

 一匹、一頭なんて言わず、一人って言うくらいにゴロ太の行動は人間らしかったようだ。

 

 そして寝惚けた子グマのその行動はアンデッドのコリンズさんであっても――、


「愛らしかったようですね」


「ええ、とても」

 イルマイユ同様にゴロ太も庇護欲をかき立てるようだ。

 コリンズさんは好々爺のようなポジションってところだね。

 アンデッドであるコリンズさんにそういった感情を抱かせるイルマイユとゴロ太は凄いな。

 また寝惚けて外に出そうになるってのも可愛いもんだ。

 如何にもゴロ太らしいムーブである。

 今はベルがその愛らしさを目にしているんだろうね~。

 で、離れてはダメだと言いながらギュってされているんだろうな~。

 ――……ああ、ゴロ太になりたい……。


「なにやら考え事をしているようですが――」


「ああいえ。続けてください」


「我々は最低限の護衛を残し、王都からマルケネス城へと戻らせていただく」


「ご苦労様でした」


「何かしら問題が起こるようでしたら、我らが主を介して喚んでいただければいつでも協力しますので」


「お心遣い感謝します」


「主がああいった性格なので」

 俺たちと出会う前からの長い付き合い。

 自由奔放なリンに代わって、コリンズさん達は振り回されながらもしっかりとフォローしてきたんだろうな。

 まあ振り回される事は嫌じゃないようだけど。

 

 次の日に主であるリン、そしてイルマイユに別れの挨拶を済ませてからコリンズさんはマルケネス城の地下施設での現場指揮に戻るとのことだった。

 最低限の護衛として残ってくれるのは数体のスケルトンルイン。

 昼夜問わずの護衛を継続してくれるという。

 エルダースケルトン以上の戦闘力を有し、煌めく金色の鎧と真紅のマントを靡かせるスケルトンの最上位。

 上位のスケルトン達の実力はそこいらのごろつきでは太刀打ち出来ないってのは、北伐時の傭兵たちとの戦いでも理解している。

 護衛として最高の存在たちである。

 

 それにコリンズさんは護衛をする中で、王兵やギルドメンバーの実力も見定めていたそうで、自分たちが護衛として活動しなくても問題ないほどの手勢が揃っていると称賛してくれた。

 これに加えて現在はベルもいるからな。

 脅威となる者は近づくことも出来ないだろうし、まず王都内で好き勝手が出来ない。

 それほどに今の王都は治安がよいそうだ。

 先生の辣腕が細かいところまで行き届いている証拠である。

 なので、今のところカイメラが何かしらのアクションを起こそうとしているというのは見て取れないということだった。

 ミルド領で得た情報から即座にゴロ太の身辺警護を強化したのが功を奏したようだな。

 俺達が王都へと戻ってくるまでゴロ太の周囲は平穏無事。

 朝から夕方までワックさんの仕事の手伝いにもしっかりと参加していたそうだ。

  

 ――――。


「ふぃぃぃぃ~」

 コリンズさんが退室。

 執務室のソファにて体を伸ばせば背中からはコキコキと小気味のいい音。

 夜も深くなってきた。睡眠を必要としないアンデッドとの会話に傾倒すれば、こちらの睡眠時間は削られるというものだ。

 王都に戻って早々、大地を耕したしな。疲労もかなり溜まっている。

 

 ――ゆっくりと湯船にでも浸かって、体の芯まで温まったところで就寝したいところなんだけども……。


「なんで俺の寝室前で待機してるの?」


「私はメイドなので」


「リズベッドのね」


「お疲れでしょうから私が――」


「大丈夫。ランシェルもゆっくりと休んでくれ。日頃メイドとしての仕事も大変だろうしね。ギルドハウスの部屋を借りられるようにするから」


「でしたら――トール様と――」


「久しぶりのベッドだからな。ゆっくりと寝たいんだ」


「ですので――」


「側にいて夢とか見せてくれるのは結構です!」

 退出していただきたいので、ランシェルの背中を押して俺の部屋兼執務室より強制的に退室していただく。

 なんとも不服そうだったけど、色気ある夢を男に見せられるのはかんべんなので……。

 しかもランシェル自身が女体化する夢とかを見せられると本当に困るので……。

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