PHASE-122【アーレア・ヤクタ・エスト】
「敵要塞は丸裸だ。進め!」
「了解」
手を前に出し、前進の指示を出すベルに従って前進。
こういう状況になると、俺の部下としてのポジションも様になってきたぜ。
――……なってきたぜ。じゃねえよ!
ゴツゴツした岩肌からなる要塞。
遠くから見れば一枚岩のような外観だが、石垣の要領で積み上げて造られている。
「要塞の門は固く閉ざされている。トール、マスターキーの出番だ」
ショットガンじゃないんですけども。
小洒落たゲッコーさんの発言に対して、12.7㎝砲をスタンバイ。
主砲の40.6㎝だと、下手したら中にいるであろう火龍にまで被害が出るかもしれないからな。
閉ざされた門の中央ではなく、下部分を狙う。
貫通した砲弾が要塞に入らないように配慮だ。火龍の場所が分かっているなら、容赦なくど真ん中に撃ち込むんだけどな。
――……さっきから簡単に敵を倒してしまうことで、命の重さが軽くなっていくような不安さえ覚えてしまう……。
「虐殺ではない。憂いを断つための行為だ」
俺の表情を目にしてそう思ったのか、ベルがフォローしてくれる。
ありがたい発言だ。
ベルが敵キャラとか……。
もう、ゲームのワルキューレクロニクルは出来ないな。
敵として出て来るベルと戦うなんて絶対嫌だもん。
シーゴーレムくらいなら余裕で通れる大きな門も、12.7㎝の前では――――、
「開いたぞ」
と、ゲッコーさん。
何とも容易い門破壊だった。
MASADAのチャージングハンドルを引く光景は見慣れた。
銃を用意するゲッコーさん。即ち、これからは白兵戦での戦いだ。
「
格好つけてラテン語で言う俺は、やはり中二病なんだろうな。
火龍が囚われている要塞にたったの四人で攻め入るんだ。
今となっては後には引けない。やることをやらないとな。
カエサルがルビコンを渡る時の覚悟以上だぜ。
となりでは、何とも余裕なガスマスクが、雑嚢からメモ帳を取り出して、記入している。「アーレア・ヤクタ・エスト」と、口にしながら……。
「今のはどういう意味なんです?」
俺と同種――、俺以上の中二病者は、ラテン語が琴線に触れたようで、ガスマスク奥の琥珀の瞳がキラキラとしている。
ひねくれ者ならば、嘘を教えるところだが、優しい俺は、「難しい決断を下す時に使うのさ」って、教えてあげた。
必死になって、メモに意味も書き留めている。
驚くのは、こいつの綺麗な筆致だ。俺も、人様に見せられるくらいの文字をかけないとな。
メールばっかりに頼っていた現代人の弱さが露呈した。
「行くぞ」
今まではミズーリという、圧倒的な安心感に守られていたが、ここからはそうもいかない。
いかにベルとゲッコーさんがチートな存在とはいえ、俺とコクリコを守りながら、要塞内の敵と戦うのは難しいだろう。
俺も頑張らないといけないわけだ。
一体、どれくらいの兵力が待ち受けているのか。
未だにマナも使えないレベル24。
剣道二段のスキルのみでどこまで通用するのか……、
「器用貧乏でもいいから、オールラウンダーな勇者を目指さないとな」
必要な時に力を行使できないんじゃ、恰好の悪いことこの上ない。
「器用貧乏とか、言っていて恥ずかしくないんですか」
メモ帳を雑嚢にしまえば、そんな小生意気なことを言ってくる。
「初期魔法しか使えない自称ロードウィザード様に言われてもな~。便利な言葉だよ。自称」
「おい、なめるなよ」
「ワンドを振るな!」
まったく! いずれはお前以上の魔法を使用出来るようになって、凹ませてやる。
そして言ってやるんだ。【自分の胸みたいに凹むなよ】ってな!
だが、それはまだ後だ。
魔法は使えないが遠距離にも対応したい。
「ゲッコーさん。俺にも銃をください」
練習はしてきた。未だに銃は持たせてくれないが、今回はそうは言ってられない。
使えるくらいの事はしている。
「味方が前を通る時は?」
「引き金に指をかけない。銃口は下に向ける。でも、自分の足は撃つな」
「それだけ知っていれば上出来だ。何がいい?」
武器商人ですか……。
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