PHASE-1465【詠唱じゃないよ】
「いや~本当に、二人とも更に出来るようになったな~」
「兄ちゃんは初手のパンチ以外は見てるだけだね」
――……。
「うむ。情けないことだな!」
相手は空を飛んでるからね。
俺ってやつは、二人と比べると圧倒的に対空能力が乏しいのです。
ゲパルト自走対空砲を召喚すれば、直ぐさま撃墜スコアでトップに立てるだろうけど、わざわざそんな物を召喚しなくても対応可能な連中だからな。
連携はいいけども、実戦不足なのは戦っていて伝わってくる。
その差でこちらにアドバンテージがあるし、強くはあっても苦戦するというまではない。
クロウスのようなタンガタ・マヌや、一緒に行動していたガーゴイル達のような上澄みを除けば、兵の質は並と言っていい。
大幹部である
「あんな寡兵に……」
「なんという恥……」
上空では自分たちの不甲斐なさを吐露している。
「恥ではないですよっ!」
ここで上空の連中の嘆きを打ち消すような大音声。
この様な場面での声の主は当然ながら――コクリコ。
「いかんともしがたい圧倒的な実力差があるのですからね。一騎当千の存在を相手にしているのですから勝てなくて当然。なので恥ではないです。むしろ脆弱ながらも挑んでくることを誇ればよいのです。まあ、第三者から見れば蛮勇とも思われることでしょうが」
続けて口にするのは称賛なんだけども、最後の方は完全に挑発……。
――訪れる静寂。
嵐の前の静けさってやつだ。
「ふざけるなよ! 小娘ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!」
エンレージMAXですよ……。
少数に気圧されているだけでもアレなのに、追撃で挑発を受ければ、戦う者としての矜持が汚されたということになる。
しかもコクリコのような少女に言われれば、戦士として引くに引けない状況にもなるのだろう。
「勇者一行だかなんだか知らんが、ここで命を取り、ペルクナスへと叩き落としてやる!」
「出来ない事は言わないことです」
口角を上げつつのコクリコ。
やめない挑発。
わなわなと体を震わせているのだろう、金属装備が擦れているのか、カシャカシャという音が空の
体だけでなく、羽ばたかせている翼も怒りの感情が乗ると震えるようだな。
体全体が怒りで震えていた。
「確実に殺すぞ!」
「「「「おう!!!!」」」」
声を揃えて殺気も纏う。
気圧されても士気は高い。士気の高い連中は戦意や精神が折れにくくなるから戦いづらいんだよな。
それでもこっちは負ける気はしないけど。
「一気に決めるぞ」
一人がそう言い、背中の方へと手を回して取り出したのは……、
「……ちょっとそれは困るな……」
しかも一人に続いて十数人が同様のモノを手にする。
手にしたのは――スクロール。
以前、マナも扱えない野盗がゴーレムを召喚してきたのを思い出す。
「以前の野盗でゴーレムだったからな……」
「直上から上位に大魔法からなる連続攻撃を堪能させてやる!」
「やっぱりな!」
「防ぐ事も出来ずに死んでいけ!」
これは一転してまずい状況……。
流石のシャルナでも大魔法を連続で防ぐのは難しい。
イグニースを展開したところで関の山だろうし。
「どうしましょうか!?」
「急に声音が弱いのに変わりましたね~。コクリコさん」
「なんでそんなに余裕あるんですかね……」
連続の大魔法は想像していなかったのか、先ほどまで強者然としていたコクリコは一転して及び腰。
かく言う俺も及び腰。
余裕あるように見せているけど心臓はバクバク。
王都でガルム氏から聞かされてはいたけど、まさか一般の兵まで使用してくるとはね……。
能力で扱えなくても、スクロールって方法で使用してくるとはね……。
スクロールから展開されるであろう上位以上の魔法の連射となれば、対応が難しというより……無理……。
「終わりだな!」
巻かれたスクロール。
中央部分で結ばれた紐をほどこうとする連中の動作に南無三という言葉が口から出そうになるも、見上げる連中の更に上を見やって――、
「勝ったな!」
と、南無三は出さずに勝利宣言を口にする俺氏。
堂々と言い切れば、上空の面々の動きが止まる。
俺の自信に満ちた発言に何かあると思ったご様子。
連携が良すぎると、一人が躊躇すれば全体にそれが波及しやすくて助かる。
そこを利用させてもらって継がせてもらいましょう。
「――空から恐怖の大王が来るだろう。アンゴルモアの大王を蘇らせ、マルスの前後に首尾よく支配するために――」
「なんですかその詠唱は?」
「私も初めて聞いた」
詠唱ではないのですよ。コクリコさん、シャルナさん。
「聞いたこともない詠唱だ! スクロールに恐怖しての戯れ言だ! 怯むな!」
躊躇していたが、ハッタリと判断した上空では一人が紐をほどき羊皮紙で出来たスクロールを開く。
続くように他の連中もスクロールを開いて俺達の方へと向ければ、多彩な輝きと見るだけで確殺威力と分かるものが発生。
それでも俺は冷静に継ぐ。
「――とっくに過ぎ去った千九百九十九年、七の月でもなければ、降臨する世界も違うが――な!」
強烈な輝きが俺達へと向かって一点に降り注がれるところで、
「グラトニー」
上空よりカウンターマジック発動。
破邪の獅子王牙、団長補佐である極界のシェザールが使用した大魔法ライジングサンをいとも容易く呑み込んだっけな~。
聞こえてきた台詞と同時に、俺達の頭上に顕現するのはバランスボールサイズの黒点。
降り注いでくる多彩で高火力からなる攻撃魔法は俺達へとは向かってこず、周囲の空間を歪めて存在するその黒点の方へと強制的に向かっていき――封じられていく。
「馬鹿な!?」
驚くのも無理はない。
十を超える高火力魔法がなんの効果も発揮することなく黒点へと吸い込まれるんだからな。
ただの一つも俺達に見舞うことが出来ずに、吸い込まれたんだからな。
必勝の攻撃。
それが瞬時にして無効化された現実に、空にいる面々は翼以外をピタリと止めてしまう。
十数からなる魔法が一つの魔法で無効化されるという光景。
経験したことのない出来事だったんだろうね。
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