PHASE-949【盗電みたい】

「液体にタネがない。術者の遠隔による発動と維持でもない――」

 全くもって訳が分からないよ。


「タネなら簡単よ」


「へ?」

 既にリンは理解しているようだ。

 もったいぶらずに教えてくれと伝える。


「そもそもがジャンパーの時に気付いてもよかったはずなんだけど」


「ジャンパーの時? ……!? おお! 確かにジャンパーも隠されていたけど、常に発動状態だった。メインテインと同じってことか。……で、それがどうしたんだ?」


 ――……やめてくれる。その残念な人を見るような目……。

 普段の嘲笑の方がまだいいんだけど。


「タネをお教えください」

 本当に分からないので真摯に答えを求める。

 リンは長嘆息をしてから、


「この都市よ」

 と、つかみどころがない答え。

 まったく分からないのですが……。


「なるほど」

 と、ベルは納得するし、周囲を探索してくれるゲッコーさんも理解をしめすようにベルに続く。


「同志コクリコ」


「自分が分からないからといって、仲間集めをするのはやめてください」


「じゃあお前は分かるんだな?」


「分かりませんよ。あんな説明では」

 だよな~。

 よかったよ。安心した。馬鹿は俺だけじゃなかった。


「分からないならもっと思慮深くなるように修練しなさいね」


「「ぐぬぬ……」」

 二人揃ってリンになにも言い返せない……。


「同志シャルナ。アビゲイルさん」


「ここで更に仲間を増やそうとしないでよ。私は何となくだけど分かってるわよ」

 ぬぅ。

 もう一人に目を向ければ、理解していたし、こういった悪用をされるとは思ってもいなかったと落ち込んでいた。

 というかアビゲイルさんの発言とリンのこの都市って発言から察するに、


「ここってネポリスの内側で確定なのか?」

 ジャンパーって転移魔法を利用しているから、別の所まで移動したという可能性もあるんじゃないだろうか。


「間違いなくね」

 自信をもってリンが言うなら間違いないんだろう。

 そもそもジャンパーはゲートと違って、長距離移動のための魔法ではないそうだからな。

 

 にしてもこの都市がタネって何だよ。

 未だに俺とコクリコは分かってないから余計に焦るんですけど。

 この最下位争いから脱したいんですけ――、


「なるほど!」


「いやいやそんな馬鹿な! いいよコクリコ、そんな分かったふりをしなくても」

 俺が先に脱したいんだから。


「私を馬鹿にしないでいただきたい」

 いやいや、俺とお前は仲間だから。同志だから。

 刎頸の交わりでお馴染みの藺相如りんしょうじょ廉頗れんぱのような仲だから。

 そんな俺の思いは届くことはなく。コクリコはリンへと一歩近づけば、


「つまりはこの都市の壁上に等間隔で並んでいた柱を利用している――利用されているわけですね」


「――――正解」

 間を置いてからの拍手をコクリコへと送るリン。


「ふふん」

 同時に回れ右してドヤ顔を俺に向けてくるコクリコ……。

 この場において一番の馬鹿が決定した瞬間だった……。

 そしてドヤ顔のまま俺に説明をしてくれる。


 ――――聞かされてなるほどと納得。


 リンの地下施設――力の間にあったオベリスクの下位版であるこの都市の円柱は、魔力を蓄えて都市全体の様々なものに活用されている。

 車輪がないフロート馬車もそうだし、街灯などの灯りも円柱から魔力を引いて利用するそうだ。

 つまりこの施設は、その円柱から無断で魔力を拝借して、永続的に魔法を展開していたわけだ。

 日本における電気を勝手に利用する電気窃盗や盗電と呼ばれる犯罪をここで研究していた連中はやっていたんだな。


「まったくふてえ野郎共だ」


「そういった連中だから色々とここでやっていたんだろうな」

 言いつつ、ゲッコーさんが手に入れた羊皮紙の束を見せてくれる。


「なんと不用心な。普通そういった物は持ち出すか焚書したりするもんでしょうに」


「この羊皮紙に記された内容からして、大急ぎで逃げたといった感じだろう」


「逃げた? 何からです」

 埃の積もり方からして、この研究所は半年は利用されていないとゲッコーさんは言っていた。

 俺達がこの地に来てまだ一ヶ月ほどだろう。

 カリオネルとの戦いをいれてもそこまで経過してない。

 となると、俺達という存在が原因でここから撤収した訳ではないだろう。


「とりあえず目を通せ」

 手渡されたのは、先ほど見せてくれた羊皮紙の束。

 ズシリと重みを感じる厚み。

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