PHASE-694【砦の皆! 逃げて!!】

 百人からなるS級さん達だが、整列する人数は百人ではなく七十人。

 三十人にはバランド地方において、各地の防備指揮官のサポート役として活躍してもらっている。


「さて、こちらの精兵を損耗させたくない。出来る限り素早く各砦の状況を確認し、臨機応変に対応してもらいたい」


「ハッ!」

 目出し帽――バラクラバとも呼ばれるとゲッコーさんから知識をもらう。

 そのバラクラバの中で隊列から一歩前に出た人物が敬礼を行えば、それに残りが続く。

 そして、


「バランド兵よりも素早く展開し、彼らが安全に砦に入れるように対応したいと思います」


「どのくらい必要だ?」


「斥候の話では砦には百ほど。時間を要していいとなれば一人でも制圧してやりますが、十人ほど動員すれば問題ないかと」


「よし、では万全を期して動員数は三十」


「了解!」

 なぜ三十人? などとは問わない。

 自分たちの力を信用してくれていないのだろうか? なんて事も思わない。

 ドミヌスであるゲッコーさんが三十人と言えば三十人で対応する。

 ゲッコーさんの発言はS級さん達にとって絶対だからね。

 数が多いほど戦術のバリエーションも増えるからな。


「トール。いまから言うのを出してくれ」


「分かりました」

 ――――ゲッコーさんからのオーダーはMH-6・リトルバード。

 その攻撃型であるAH-6・キラーエッグ。

 これらのヘリを一機ずつ。

 汎用性が高く、強襲攻撃を得意とした小型のヘリコプター。

 

 加えてHEMTTを二台。八輪からなる燃料タンクを有したカーゴトラックだ。

 そしてストライカー装甲車。

 タイプは兵員輸送のM1126二台と、指揮車両として使用されるM1130だ。

 ストライカー外部には四角形で中央が×マークみたいな燃料タンクであるジェリカンを複数設置。

 MEMTTの外部にもジェリカンを複数設置し、各車両とヘリの燃料問題はこれで問題ないとゲッコーさん。

 

 隠密による行動ではなく、この物々しさから正面から仕掛けるのかな?

 もし砦を塒にしている者達が戦いを選択した場合、S級さん達のオーバーキルによって、砦が制圧されるのは想像に難くない。

 出来れば即座に降伏してほしいと願う。


「では頼んだ」


「「「「了解」」」」

 揃った声はお見事。

 兵員輸送のM1126ストライカー二台を先頭に地上車両が進み、二機のヘリが先導する。

 小型のリトルバードに屈強な男達が銃を携行して搭乗するってのは……、俺はゴメンだな。

 外装式ベンチで密着しあって乗っている光景ってのはね~。

 隣がベルなら大歓迎だけど。


「では我々も行きましょう」

 俺たちは迂回するということはせずに、街道を利用して王都へと帰還する。

 といっても、


「いや~大所帯ですよね」


「ああ」

 残ったのはS級さん四十人。

 リズベッドと、供回りのガルム氏やアルスン翁の戦える亜人さんたち三十余人。

 これにバトルメイドのコトネさんやランシェルたち百余人。


 で――、


「これをすれば問題ないと?」


「その通りです」

 街道に未だ残る瘴気の場所に対応するためのガスマスクを装着した侯爵。

 まだ瘴気がある地点じゃないからつけなくてもいいんだけど、慣れたいからと装着すれば、コクリコが装着の指南をしていた。

 やはり臭いが不快とのことだったが、そこは我慢してくださいとコクリコ。

 ここらで思い出すのは、コクリコがガスマスクの臭いで車酔いしてから吐瀉ったことだな。

 美少女の口から酸っぱい臭いがしたのは残念でしかなかった……。


 今回は大所帯だけども、車両を運転できるS級さん達が四十人いるので問題なし。

 いつものように大勢を乗せることの出来るトラックを数台召喚し、ゆったりとした状態で荷台に乗車してもらい、野営用のテント、物資なども手早く積み込んでいく。

 テントや食糧、物資を全て提供してくれる侯爵には感謝しかない。


「俺たちのギルドにも力添えを――と。可能ならば後援者になっていただきたいのですが――」

 トラックへの積み込みの最中に願い出れば、


「大恩あるトール殿の願い事なら何でも聞き入れましょう。姫を救ってくださった時にも言ったはずですよ」


「ありがとうございます」

 もったいぶることもなく、二つ返事にてギルドのパトロンになってもらえた。

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