PHASE-839【単発と弾幕】

「さあどうする。お前だけが遠距離攻撃を出来るわけではないぞ勇者。しかもお前のは一朝一夕のピリア。対して俺は今までの戦いで昇華したもの。この差は大きいだろうな」


「確かに。でもその差を一気に縮めるくらいの死線は潜っているつもりだ。とんでもなく離れた位置から一瞬で目の前に現れる連中を集団で相手にした事なんてないだろ?」


「何のことだ?」


「俺はあるんだよ」

 異世界に来て短い間にとんでもない連中ばっか相手にしてんだよ。


「はっきり言って、経験の差で言うなら俺とあんたは天壌の差だ。勿論、俺が天の方だ」


「アンリッシュ・ワンショット!」

 気分を害したようで、強い怒気と共にサッカーボールでも蹴るかのように勢いのある蹴撃。

 足に纏っていた球体が気弾となって迫ってくる。

 拳から打ち出したものより遙かに高速。


「そいや!」

 ここは受けるよりも切り払う事で相手に威圧感を与える。


「見事だな」


「速くてもこの程度の速度なら見切れる」


「ならば!」

 一気にアクセルで間合いへと入り込んで、白戦による連撃。

 今度はファースンなるピリアを四肢に纏って打ち込んでくるもの。


「この!」

 残火を振るえば、ガリオンは臆することなく自身の拳を刃にぶつけてくる。

 魔法剣などが残火の物理攻撃を受け止めることはあったけど、拳で受けるなんてな。


「ふん!」

 斬撃を受け流してからの投げ。

 俺の体が軽々と宙に舞う。

 体を捻って体勢を整えるところで、


「これならどうだ?」

 再び右拳がオレンジ色に輝く。

 四肢に纏っていた光が全て右拳に集まり、


「アンリッシュ・バラッジ」

 正拳突きのモーションは一緒だけども。


「マジかよ」

 体勢を整えている最中の追撃は正に弾幕だった。


「いってぇぇぇ!」

 拳から放たれるのは散弾。

 小石程度の気弾がビチビチと音を立て、俺の体に痛みを与えてくる。

 コクリコのランページボールを全方位でなく、一方向に向けたようなピリア。

 ランページボールも指向性のある魔法ならこういった芸当も出来るんだろうな。


「あだぁ!?」

 着地に失敗して腰から落ちてしまう。

 直ぐさま立ち上がり構えると、容赦のない拳が俺へと打ち込まれる。


「いてぇって!」

 ブンッと残火を振ってガリオンを遠ざける。

 ズンッと腹部から波紋のように広がっていく鈍痛。

 火龍装備とタフネスなんかにより軽減はされているけども、ここ最近では経験のなかった痛みに襲われた。


「驚きだな。バラッジで仕留めるつもりだったのだがな」


「ビチビチビチビチ! めちゃくちゃ痛えわ!」


「痛みだけですむか。しかも腹部への一撃でも倒れない。それどころか反撃までしてきた。本来なら内臓が破裂している一撃だった」


「俺だからね」

 と、見栄を張るような強気スタイル。

 火龍装備様々ってのが本音なんだけどな。

 タフネスとストレンクスンを使用していたとしても、これが並の装備だったなら、ガリオンの言うような結果になっていたかもしれない。


「これは本気を出さないといけないようだな」

 俺のように見栄を張る強気スタイル――ってわけじゃないようだ。

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