PHASE-510【お久しぶりの黒い人達】
「大丈夫か?」
流石にこの瘴気の濃さと量には、ゲッコーさんも心配の声。
ガスマスクが必要な二人に問うけども、二人とも問題ないご様子。
リズベッドの魔法によるバフのおかげで、瘴気なんてなんのそのだ。
「にしても――――、あそこだけまるで隔絶されているようだな」
門を潜って真っ先に俺が指さす方向では、不可視化の結界でもあるのかというように、半球状に瘴気が滞留している。
間違いなくあの場所に地龍がいる――、
「――のか?」
半球状の瘴気の滞留はさほど大きくない。
火龍が封じられていた時とは違う。
全長が二十メートルはあった火龍は全体を見ることが出来たけど、今回は姿がまったく見えない。
地龍は火龍ほどのサイズではないようだ。
「あれが私の結界です」
地龍を封じている不可視の結界が、リズベッドの結界。
渦巻く瘴気の中に封じられているなんて、地龍にとっては地獄だな……。
リズベッドの結界だけでなく、火龍の時と同様に、八方向より結界を取り囲むように、黒い六面体のクリスタルが宙に浮き、留まっている。
結界とクリスタルがリンクするように、結界内の瘴気がクリスタルを伝って、外部へと排出されているのも分かる。
これが外に漏れ出している瘴気の原因。
「神のような存在である聖龍の一柱をあんな所に封じているままでは忍びない」
「その通りです。ベル様」
首肯するリズベッドは、瞳を閉じて両手を結界へと向ける。
水色の髪が水面に漂うようにふわふわと浮き上がり、閉じていた瞳を見開けば、不可視であった結界が可視化。
青白い光の半球状の結界。
その周囲に大きな魔法陣が顕現し、結界の外周を回り始める。
滑らかな回転は程なくすればカクカクとした動きに変わり、回転が止まると魔法陣から新たに一回り小さい魔法陣が二つ出現。
そして最初の魔法陣と同様の動きを行い、今度は四つと――――、魔法陣は倍になっていく。
これの繰り返しだ。
――――枝分かれしていく度に魔法陣は小さくなり、数多くの魔法陣が顕現。
顕現する魔法陣すべてが滑らかな回転から、カクカクとした機械的な回転へと変化する様は、ダイヤル式の金庫のようだった。
――――全ての魔法陣が機械的な動きを停止させれば、現出が新しいものから順番に霧散していき、最後は最初に現れた魔法陣が消え、それに合わせて半球状の結界が消え去る。
「わっぷ!」
瘴気の影響はないけども、溜まり溜まった瘴気がぶわっと大波のようにこちらに迫れば、ついつい口元を腕で隠す所作を行ってしまう。
室内全体に瞬時に広がる濃厚な瘴気。
見渡せば、デスベアラーと戦闘した部屋よりも大きな造りだ。
これなら大魔法を使用してもいいだろう。
地龍に何かしらのアクシデントが生じた時の対策として、広い空間を確保しているんだろうな。火龍の時もそうだったし。
こちらとしてもありがたい造りだ。スプリームフォールを気兼ねなく使用できる。
地龍だからな。火龍と同じで水系は効果がありそう。
デスベアラーにも効果があったから、この世界での魔法効果は、水は土や岩には強いと判断して良いだろう。
「まずは周辺のクリスタルを破壊してください」
と、リズベッド。
リズベッドの結界は解けたけども、ショゴスの結界はいまだ健在。
火龍の時もコレを破壊してから戦いを開始したからな。
「いくぞ皆」
「任せてもらいましょう!」
ガスマスクを取り、くぐもった声と違った快活の良いコクリコ。
「ライトニングスネーク」
ワンドの貴石を黄色く輝かせて、宙をのたうち回る電撃の蛇が、クリスタルの一つに着弾。
瞬く間に黒いクリスタルが人型に姿を変える。
「お?」
今回のはアレだな、筋骨隆々だな。
人間の姿をした全身黒の存在の体は、マッチョ体系だった。逆三角形からなるナイスカットな外見だ。
「ライトニングスネーク」
連発するコクリコ。
直撃した黒いヤツはバチバチと青白く輝く。
「……あれ?」
「あいつらに効果的にダメージを与えるには、削っていくって感じなんだよな」
「はあ?」
「どちらかというと、着弾時に爆発するファイヤーボールのほうが、効果があるかも」
「ここにきて初歩……」
まあ、初歩だな。
というか、何を残念がっているんだコイツは。今までファイヤーボールばかり唱えていたくせに。
この黒い連中は、封じるだけに特化したような奴らだろうから、火龍の時と同様で、面倒だけど強くはないはず。
なのでノービスでも十分に通用すると思う。
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