PHASE-1306【大事なことは最初に言おう】
「いえ、ここは是非とも自分が!」
更に力強く一歩前。身長に差がなければ鼻と鼻が触れそうな位置で主張してくる。
「パロンズさんに任せてあげてください」
ここでコルレオンが自信に満ちた表情で参加。
「じゃあお任せしますが、どうやって積むんですか?」
「自分も会頭のようにゴーレムを召喚できますので」
「はぁ!? 本当ですか! 凄いじゃないですか」
「まだ初歩であるマッドゴーレムですが」
「十分ですよ」
トールハンマーの補強作業でも活躍していた土の巨人。
まさかパロンズ氏も召喚魔法が使用できるなんてな。
「感心しない!」
と、コクリコさん。
今日一番の怒号だった。
「そういった事はパーティーを組んだ時に直ぐに言う!」
「す、すみません……」
継ぐ叱責に俺も得心がいくとばかりに鷹揚に頷きつつも、最初に口にした感想が凄い! というものだったので、自分の思慮の浅さも反省する。
パーティーに入れてもらう為に願い出てきたくらいなんだからな。
コルレオンに説明を任せないで、そういったところを自分のアピールポイントとしてこちらに伝えるべきだった。
そうすればムカデ戦でもそれを前提にした戦い方もできた。
ゴーレムを召喚できるのだから、それ以外の大地系魔法だって使用可能な実力だってあるだろう。
戦闘時にバリエーションが豊かになる=味方への損害が軽減する。だからな。
持ってる手札は味方には公開すべきだ。
ゴーレムが召喚できるとなれば、アイテム士的な立ち位置から脱した活躍ができるからな。
「申し訳ありませんでした!」
大いに反省をしていると、下生えで顔が覆われるほどに深々と頭を下げる。
「すみません。自分も知っていたのですが黙っていました。ここぞというところで見てもらえれば、皆さんが喜ぶかと思いまして……」
ここでコルレオンもパロンズ氏に続いて頭を下げてくる。
――……小柄な二人が揃って下生えに頭が覆われての一礼。
なんかシュールだ……。
パロンズ氏が手斧を使用して前衛でも輝ける的な事をコルレオンが俺に説明してくれた時、他にも頼りになる力を有していると仄めかしていたが、大地系魔法のことだったんだな。
――以前の野良パーティーから戦力外扱いを受けてからは、体力向上だけでなく、様々な事に対応するためにピリアとネイコスにも励んできたということで、マッドゴーレムを召喚するまでのネイコス向上へと至ったという。
それでも地力の膂力は未だに他のドワーフと比べるとまだまだなんだそうな。
力はともかくとして、術士としての立ち位置で後衛を担当できるということも理解できた。
スリングの命中率も二発放って二発とも頭部に命中させているからな。
オールラウンダーな立場で十分な活躍が出来るドワーフのようだ。
そんなパロンズ氏に足りないのは、やはり自信を表に出すことが出来ないところだな。
この冒険で欠点を克服してもらわないと。
自信の過剰はよくないけども、過小も駄目だからな。
――。
「いでよマッドゴーレム」
「おお! ……おお?」
隆起した地面が盛り上がり、出てくるのは泥と草や苔がついた二メートルちょっとの人型の存在。
「些か小さいような」
ズバリとコクリコ。
確かに見た目は背の高いマッドマンって感じだ。
四肢部分は力強さを感じさせる太さがあるので、そこがマッドマンとの違いかな。
「今はこれが限界です。あと召喚の持続時間も短いです。アジャイルセンチピードを荷台へと積めば消えるでしょう」
もって五、六分ってところか。
戦闘時の使用となれば長期戦では頼りないけど、活躍のさせ方しだいでは十分に役に立つと思う。
――通常のゴーレムよりは小さくはあったが、力は確かだった。
四体の死骸をトラックの荷台へと軽々と積んでくれた。
で、パロンズ氏の発言どおり、積み終えたところで崩れるようにして地面へと戻っていった。
俺のゴロ丸は崩れることなく地面に戻っていくけども、その辺は鉱物とかの差でもあるのかもな。
マッドゴーレムが積み込んでくれている五分ほどのあいだを小休止として利用し、各々が水分補給で渇きを潤す。
「コクリコ、あんまり食べ過ぎるなよ。食事の時間はちゃんと取るからさ」
「干し肉一切れくらいで指摘しないでいただきたい」
指摘しないと一切れで済むわけがないからな。
「じゃあ行こうか」
全体が一息入れられたことを樹上から確認したシャルナが発し、皆して腰掛けていた倒木や石から立ち上がる。
「もう少し食事に時間をつかってもいいと思うのですがね」
「ちゃんと時間は取るって言ったろ。夜までは我慢しろ」
「つまり、夜になるまで歩くわけですね……」
テンションが下がるコクリコは、夜までは待てないと、早速、二切れ目の干し肉を口に咥えながら歩き出す。
ベルがこの場にいたら、はしたない! と、お叱りを受けていたことだろう。
食事はともかくとして、夜になるまでに目的地につければベストなんだけどな。
「JLTV」
と、夜になっても目的地へと辿り着くことはできなかった。
「いやはや、本当に便利ですな」
髭をしごきつつパロンズ氏が感心する。
「申し訳ないですが男性陣は外で」
「無論です」
木々が鬱蒼と生い茂る森の中は、夕暮れ時から空よりも先に夜が訪れたと錯覚するかのように暗闇が支配する。
タチアナを除けば、闇夜でも移動に問題ない目を有している事もあってか、移動を中断させたとタチアナは謝ってくる。
俺とコクリコはピリアであるビジョンだから、長時間の使用は集中力の欠如にもなるのでそこは気にしないでいいと伝える。
そもそも休息は必要だし、パロンズ氏の話では夜間のほうが大型生物の活動も活発になるそうだから、移動はやめて休息に徹した方がいいという助言ももらった。
「できれば家を出してほしいのですが」
JLTVのドアを半分開けてのコクリコ。
「あんなデカいのを木々の生い茂るこの森で出せるかよ。その車のスペースなら女性三人くらい余裕で寝られるだろ。安定した場所に車両一台を出せただけでも幸運だと思え」
そう言ってドアを閉めてやった。
「それにしても昼間の戦闘はお見事でした。我々の方を気づかいながらも瞬く間に二体のアジャイルセンチピードを倒すのですから」
「以前にも相手をしたことがあったから呑まれることなく対応できたんですよ。パロンズ氏だって見事なスリング技術でした」
「本当ですよね!」
活躍した姿を目にして、コルレオンは自分の事のようにパロンズ氏の活躍を喜んでおり、元気に尻尾を振っている。
そんなコルレオンに、
「討伐時にも言ったけど、フィニッシャーとして一撃目と二撃目を同じ箇所に入れたのは凄かったよ。沢山ある節の中でよく狙えたもんだ」
「パロンズさんのスリングによる攻撃で相手の動きが悪くなったから狙えたんです。一人で対応するとなれば難しかったですよ」
「一人で対応するなら難しいか。倒せないじゃなくて難しい。つまりは一人でも倒せるだけの力量が備わっているようだな。凄いぞコルレオン!」
「いえ、そんな。自分はまだまだですよ」
などと返してくるけども、俺の発言が嬉しかったようで、さっき以上に激しく振っている尻尾からも嬉しさが伝わってくる。
以前に調べた時、アジャイルセンチピード成体のレベルは40を超えていたよな。
となると、今回、相手をしたのもそれくらいのレベルだろう。
難しいと発したけども、倒せるってことは、コルレオンもそのくらいの成長をしてるってことだな。
王都にて鍛練に励んだことでの成長は、やはり先生のユニークスキルである【王佐の才】の効果が大きいんだろう。
もちろん当人が成長を望んで励もうとしないと成長だって出来ないけども。
コルレオン自身の努力こそが一番の成長要因だな。
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