PHASE-1529【貴重品は大切に】
まずは強者の余裕を崩すことから始めようか!
「ブレイズ!」
「いや、ですから……」
「ぐぃ!?」
刀身に炎を纏わせ、袈裟斬りといったところで腹部に鈍痛……を感じると当時にクロウス氏から強制的に離される……。
クロウス氏の伸びきった脚……。
――……強烈な蹴撃が原因だった……。
細身の体からは想像できない威力だよ……。
「あだだ……」
ゴロゴロと石材の床を転がらされた……。
「無事か」
「なんとか……」
直ぐさまロマンドさん達が片膝つく俺の前に立ってくれれば、残りがコクリコのフォローに回ってくれる。
火龍の鎧であっても腹部に伝わってくる鈍痛。
衝撃貫通はベルの専売特許じゃないってことだな……。
蹴撃一つでこの威力。大立者は伊達じゃない。
「仕切り直しですね!」
スケルトン達の掩護を受け、距離を取るコクリコ。
「いやいや、かなりの実力ですねコクリコ女史。それに女史の突撃に直ぐさま合わせて動く勇者トール殿もお見事です」
「簡単に吹き飛ばされて、片膝ついてるこの姿で称賛を受けても小馬鹿にされているようにしか思えませんよ」
「失礼。絨毯に炎が触れるのが嫌でしたので、雑な蹴撃となってしまいました」
「そうですか……。後ろに押す程度の力加減だと嬉しかったんですけどね」
「力の調整ができるほど私は強者ではないので」
よく言うよ。
――……いてぇ……。
余裕こいた感じで言葉は返すけども、実際は痛みを叫びながら床を転げ回りたいくらいだ……。
――……ふぃぃ……。
ただの蹴り一発で即ハイポーションを飲まされることになるなんてな……。
「カイディル気を抜くなよ! 姿を消しているのがいつ襲ってくるか分からないぞ!」
「そうだよ!」
「お二人とも助言、有り難うございます」
アル氏、ポームス共にタメ口をきけるくらいの関係性か。
力の差はあっても立場的には同じくらいってことなのかね。三人ともスーツ姿だし。
にしても、とんでもなく強いクロウス氏に加えて、アル氏がこの場にいるというのは厄介。
ユーリさんが瞬時にして制圧したから問題なかったけど、アドゥサルと同レベルである存在だからな。
一対一の戦いとなれば俺は苦戦を強いられる相手だ。
「勇者。我々がガーゴイルを相手取ろう」
「助かります」
俺の視線から悟ってくれるロマンドさんの対応の素早さには感謝。
――スケルトン達が隊伍を整え、眼窩に灯る緑光で睨みを利かせる。
睨みに対し受けて立つとばかりに、アル氏は単身で十八からなるスケルトン達の前に立つ。
「コクリコはどうする?」
「本来なら意趣返しとしてガーゴイルを狙いたいのですが、この場における最高の存在を狙うのが私という者です」
「気骨と向上心からなる精神は素晴らしいですね」
「その余裕、いつまで続けることが出来るか楽しみですよ!」
「無論、貴方方を撃退するまでです」
「生意気ぃ!」
――から放つのはライトニングスネーク――ではなく、ワンドから離れることなく伸びる電撃の鞭であるアークウィップ。
アドンとサムソンからも同様に発動。
俺が蹴られている間に力を練ったようで、通常時のロープサイズとは違い、大人の腕周りくらいの太さからなる電撃の鞭。
触れるだけで危険と分かるような強烈な音を鳴らしながらコクリコが振り回す。
「困りますよ」
「こう見えて私は接近戦も得意なのです」
「それは先ほどの動きから理解しております。放つのではなく共に行動する攻撃魔法。至近戦が得意な貴女にとって相性の良い魔法かと」
「本当に余裕ですね! 苦手なくせに!」
「ですので、腰が引けてしまいます」
「嘘くさい声音ですね!」
振り回す電撃の鞭を見事に躱していくクロウス氏。
生き物のように変則的に動いてターゲットを狙う三方からの鞭がかすりもしない。
「ええい! 当たらない」
「ですので困ります、そこを狙うのはお待ちになっていただきたい」
「くぁ!?」
黒い翼を一度、羽ばたかせる。
その動作で発生した突風によって、コクリコの体が宙に浮く。
「キャッチ!」
「感謝しますトール」
吹き飛ばされそうになったところで小柄な体を抱きかかえる。
「可能ならば共に攻撃してもらいたいのですが」
「そうしたいんだけど、電撃の鞭が荒ぶりすぎてコンビネーションが取れなくてな。現在、心の中でお前とクロウス氏の戦いを解説するポジションだよ……」
「それは申し訳ありません」
「ハハハハハ――」
「何がおかしいのですか!」
「失敬。戦闘中であっても余裕のあるやり取りができるのは良いことだと思いましてね。精神に余裕があれば視野も広くなり、隙も生じにくくなりますので」
「か~。なんですかあのカラス頭のお前たちを指導してやっているぞ。って感じは!」
「そうだな」
「勇者御一行の指導役とは恐れ多いこと。あと、先ほどから言っておりますが少々お待ちを」
コクリコをおろして二人して構える中、クロウス氏はオーケストラの指揮者のように両手を振る。
そこから生じるのは風。
警戒するもそれは俺達に迫ってくることはない。
「便利なことで」
金色の絨毯がふわりと浮けば、風によってクルクルと巻かれていき部屋の隅へと移される。
「いや、本当に便利なことで。一人でも楽に掃除ができそうですね」
「ええ、とても楽ですよ。そしてこれで私も後顧の憂い無く動けるというものです」
「向こうの気を散らすために絨毯を狙いますか?」
「やめとけ。殺意を持たれて攻撃されるより、今の状態のまま戦ってもらった方がこっちとしては有り難い」
「ですね」
「お二人ともよき判断かと」
「「どうも」」
二人して言葉を返せば、柔和な笑みを向けてくる。
笑みのまま戦われるのも怖いが、あの表情が鬼神のような顔に変貌し、命を刈り取るモードになろうものならもっと怖いからな。
貴重な品には手を出すまいよ。
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