PHASE-1546【床にある門】

 リンの気持ちを尊重してやりたくもある。


「大立者の話では、翼幻王ジズは大立者や他の幹部が同時に相手をしても太刀打ちできないそうな」


「そうなのね」


「ああ」


「それを知ってしまえば尚更ね」


「無用な心配だと言っている」


「無用か有用かは私が決める事であって、貴男じゃないのよ!」

 幅のある通路にリンの声がよく響く。

 珍しいとかじゃなく初めてだな。こんな必死な声は。


「ぬぅ……」

 だからこそロマンドさんも押し黙ってしまう。


「主は私。だから私の指示は絶対なの。分かった!」


「なんという力押し……」


「昔の誰かさんみたいでしょ」


「「「「然り、然り」」」」


「うぉぉぅりぃぃぃぃぃい……」

 ロマンドさんを除く他のスケルトンさん達のシンクロ発言に、ロマンドさんからはうめきにも似た声が上がる。

 そこを突かれると反論できないと言ったところのようだ。


「……ふぅぅぅぅむん――受け入れよう」


「受け入れるも何も、決定権は私にしかないからね」


「ぬぅ……」

 悪い笑顔ですな。

 対して言い返せないロマンドさん。

 その態度を目にして更に悪い笑顔になる。

 普段のリンらしくなった。


「ここまでの助力、感謝します」


「う、うむ」


「といっても、本当に危なくなったら、リンに助力を求めますので」


「そうか。危機にあると判断したら直ぐに喚ぶように。と、そこの我らが主に伝えてくれ」


「あ、はい」


「そうならないように立ち回るから。と、私の下僕に伝えてくれる」


「お、おう」

 目の前にいるんだから俺を介さないでいただきたい……。

 下僕って発言が癇に障ったのか、ロマンドさんの眼光に灯る緑光が激しく点滅……。


「まったく! 気分を害した! 我、もう帰る!」

 あ、拗ねた。

 スケルトンが拗ねた。アンデッドなのに拗ねた。


「はい、お疲れ~」

 軽く返しつつフィンガースナップを一つならせば、光に包まれながらロマンドさん達が帰って行く。


「本当に素直じゃないな~」


「ごちゃごちゃ動けば、皆の動きを妨げることになるから」

 今までを見る限り、整った隊列を作れる面々だからそんな事にはならないだろうけど、そういう事にしておいてあげよう。

 失いたくない方々のようだからな。


「オムニガルも無理はしないようにな」

 姿なき存在に伝えてみれば、


「大人しくしておくね。助力を求められたら動かないといけないけどさ」

 と、天井から上半身だけを出して応えてくれた。

 この子だけ帰さないのは理由があるんだろうな。

 以前、二人と対峙した時、エビルプラントっていうデカいラフレシアの親玉みたいなので攻撃してきたからな。

 二人だからこそ可能な連携ってのがあるんだろう。

 ロマンドさん達が頼りになる軍勢なら、オムニガルはリンにとっての懐刀ってところか。

 基本、戦闘には参加させたくないようだけども。


 ――ロマンドさん達と別れ、広々とした通路を進む。


 歩く事で生じる反響音。

 ゲッコーさんとユーリさんから聞こえてこないのは流石の一言。

 

 歩く以外の音と言えば、ベルがポームスとお近づきになりたいという思いで言葉を交わすくらいのもの。

 ――ポームスの好物はフルーツがふんだんに使われたパイや焼き菓子。

 これらをハチミツの入ったホットミルクと一緒に食すのが最高に幸せ。と、知らなくてもいい情報が勝手に耳に入ってくる。

 

 孤軍で不安だったポームスだったが、アンデッドの集団がいなくなったこともあってか、口数は増えた。


 で――、


「まさか本当にこの道まで探索していたなんてね」

 少しはベルとの会話で距離が縮まったのか、声から強張ったものが消えたポームスが俺を見つつ言ってくる。


「その言い方からして、このルートで間違いないようだな」


「いよいよだよ」

 小さな食指がさすのは床――に備わった鉄扉。


「俺もここまでは確認済みだ」

 と、ゲッコーさん。


「うむ……デカいな……」

 縦横3メートルはあるデカい鉄の扉は黒塗りで金の装飾が施されたもの。

 ここまで来ればブラフもないだろうが、


「ミルモン」


「念のためだね」


「よろしく頼む」


「おまかせさ! ムムム――」

 両目を閉じて小さく唸る。

 必要があるかといえば現状だと必要はないだろうけど、せっかくのミルモンの見せ場も作らないといけないし、なにより確実を得たい。


「――見える。見えるよ。六枚の真っ白な翼を持つ凄い美人がいるよ」


「ほほう」

 まず間違いないですな。


「トール。鼻の穴が広がってますよ」


「すっごく馬鹿な顔に見えるから戻した方がいいよ」

 と、コクリコとシャルナからお叱りを受ける。

 これから戦うかもしれない相手。しかも大幹部の一柱でもある相手に対して鼻の下を伸ばしたことに大層ご立腹。

 むしろ大幹部相手に、気後れしないで鼻の下を伸ばしている俺の胆力を褒めていただきたいと思っとります。

 

 そんな美人さんとの謁見が間近ではあるんだが、


「これはゴロ丸案件かな」


「出来ればそれがいいだろう。派手に入れば謁見どころか不遜なふるまいだと門前払いになる」


「ですね」

 ゲッコーさんと俺のやり取りを耳にすれば、破壊する気満々だったのか、ユーリさんは手にしていたC-4を静かに宙空に仕舞っていた。


 今回、使用はなしの方向。


 後々、弁償とかになればとんでもない額を請求されそうな作りだからな。

 要塞に入る時、ティーガー1で門を破壊しているから今更ではあるが、これ以上の負債を抱えるのも避けたい。

 大きな鉄門を壊すことなく開くとなれば、力自慢のゴロ丸が最適解。

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