PHASE-1127【一流ではあるんだな】

「こいよ残念策士」

 思ったことを思いのままに発せば、


「人間風情が! やれぃ!」

 然り然りと乗っかる真の賢者様は、挑発にも簡単に乗ってくれるようだ。

 下知に従い、まずは私兵たちが仕掛けてくる。


「ハァ!」


「そい!」

 一番槍とばかりに私兵の一人が文字通りの槍による刺突。

 躱してグーパン一発。

 綺麗な顔だろうが物騒なもんで狙ってくるヤツに容赦なんてしてやる必要はないので、思いっきり顔面を殴ってやる。

 ズザァァァ――と音を立てながら仰臥姿勢で整地された地面を滑っていく一番槍さんは、ピクピクと痙攣して即座に戦闘不能になってくれる。


「まずはワンダウン」

 からの――、ラピッドを使用した一足飛びで一番槍さんの後ろに続いていた私兵たちの側面に移動し、中烈火をによる側撃を見舞い一人を仕留めれば、爆発の衝撃で近くの一人も吹き飛んでくれる。


「2in1だ。FPSでは中々できない芸当を現実世界でやってのける俺氏。射撃じゃなくて打撃だけど」


「油断しすぎだな! 勇者!」

 梟雄よばわりするカゲストと違って、ちゃんと勇者と呼称してくれるのは好感が持てる。

 そんな好感を持てるダークエルフさん達が手にする利器を使って四方から仕掛けてくる。

 私兵たちの攻撃よりは鋭いけども対応できる速度。


「マッドボルト」


「おう!?」

 回避する中で聞こえてくる魔法発動の声。

 地面から粘度のある泥が無数の蛇が鎌首を上げるような動きをすれば、瞬時に硬化。ハリネズミを彷彿とさせる鋭利な槍となって地面から伸びてくる。

 槍衾のような攻撃魔法に対して跳躍にて上空へと待避。


「逃がすな!」

 安全圏からのイエスマンの発言に従うダークエルフさん達は、


「マッドバインド」

 を追加で発動。

 硬化した泥の槍衾が再び鎌首を上げた蛇のように変化して勢いよく伸びてくると、俺へと絡みついてくる。


「ハハハハッ! でかしたぞ!」

 空中での拘束に成功したことでイエスマンは何とも嬉しそう。

 継いで追撃せよと私兵に指示を出せば、矢を番え――キリリッと弦が音を発し、鏃が俺へと向いたところで、


「放て!」

 意気揚々なイエスマンの下知で一斉に指を放せば、キュンと弦音を奏でる。

 マッドバインドで動きを封じられている状態からエルフの矢というのは脅威。

 ――と、普通の者ならそう思うだろうが、捕らえるバインドを力任せに引っ張り体を丸め、勢いよく四肢を広げて大の字を書いてからの、


「効かーん!」

 の一言と共にイグニースを球体で顕現させて全てを払いのける。

 泥のロープだろうが、エルフの矢だろうが全てを払いのける。

 自由になったところで、


「スマートな着地」

 あまりにも綺麗に決まったもんだから、ついついほくそ笑んでしまう。

 効かない発言からのほくそ笑み。

 相手は余裕の笑みと判断したのか一斉に一歩後退。

 やだやめてよ。そんな行動されると俺が勘違いしちゃうでしょ。


「効かーん! って言ったことだし、俺もミズーリに乗ってから海賊王を目指そうかな」

 って、口から出るくらいに勘違いしてしまう。


『調子には乗らないように』


「あ、はい……」

 ちゃんと見てたのね……。

 俺がちょっとでも高揚感に浸ればスパルタ強者が釘を刺してくるのはいつもの事。


「見てないで早く進入してくださいよ」


『もっと派手にやれ。室内の者達をもっと動揺させるんだ。今のところ加勢しようかで逡巡している』

 あ、ちゃんと屋敷内には侵入してるのね。

 ならばリクエストに応えてもっと派手にやらんとな。


「何を呑まれている! たったの一人だぞ! しっかりと囲んで魔法と矢で攻撃しながら接近で仕留めろ」


「偉そうに言うならお前が来い。手本を見せてやれ。イエスマンのいいところ見てみたい」


「貴様! このカゲスト・クリミネアンを何処まで侮辱する!」


「当然、ボコボコにするまでだよ」


「小僧ぉ! ええい、貸せ!」

 おっ! 顔真っ赤で隣の私兵から弓矢を奪い取れば、俺に向けて即座に放ってくる。


「ていっ!」

 頭に目がけて飛んでくる矢を鞘をつけたままの残火で払い落とす。


「シッ!」


「おお!?」

 咄嗟に首を傾けて躱せば、鋭い風切り音が俺の横を通過する。

 一射目も正確なヘッドショットだったけど、次の素早く放った二射目もこれまた正確に頭部ルートだった。


「なんだよ。射手として一流じゃないか」


「上からな物言いが非常に不愉快! ブラストスマッシュ!」

 先ほどまで矢を番えていた右手に、今度は魔法を発動させる。

 視認できるほどに圧縮された風は球体を形作り、成形したソレを俺へと向かって放つ。


「イグニース」

 高速でこちらへと向かってくる林檎サイズの魔法をスクトゥムタイプに成形した炎の障壁で防ぐ。


「おお!?」

 これまた驚きの声を上げてしまう。

 かなりの威力である圧縮された風は、障壁に触れると同時に着弾した一点に衝撃を与えると、圧縮された風はそこを点として放射状に広がりながら炎の障壁を斬りつけていくのが反対側からよく見えた。

 

 直撃を受ければ着弾位置に強い衝撃を受け、そこを中心として体全体を切り裂いていくという打撃と斬撃を同時に与える風の攻撃魔法ってところか。

 ガグの時にポルパロングも使用したけど、あっちのは強い衝撃だけだった。

 こっちの方が芸が細かいな。

 威力は向こうの方が上だったけど、威力が高かったのはガクの時の使用だったからかな。

 洗練さで評価するならカゲストに軍配が上がる。


「我が上位魔法を防いだか」


「弓術、魔法ともに一流のようだな」

 ここは素直に称賛。


「当然だ! 私は氏族だぞ! この地位に立つ者が弱者なわけがなかろう! 故に強者であり高貴な存在である氏族――ヴァンヤールなのだ」


「それをダークエルフさん達の前で言えるのがね……。残念な脳みそなのは分かった」


「我々と共に行動すれば今よりはましになる」


「アホか。ここで失敗すれば今以上に立場が悪くなるっての。しかもなんだよ少しはましって言い方。上っ面の同盟が滲み出てるぞ」


「黙れ! 危険を冒さねば結果は手には入らん! 殿下を傀儡とし、私が頂に立つ。ウーマンヤールには今以上の生活を送らせる確約はしているし、それに納得している」

 自分の欲望により決起した事を堂々と言い切っているけども、それを長い耳で聞くダークエルフさん達の表情に変化はない。

 不快感も見せない。

 理由としては、自分たちもカゲストを利用している立場だからって事なのかもな。

 ネクレス氏もカゲストを利用するって言ってたし、他のダークエルフさん達も同様の考えなんだろう。

 

 カゲストの思い描く未来にもし進んだとしても、長期政権なんて夢のまた夢だな。

 自身の政権を樹立する前に、背後からダークエルフさん達に刺されて終わるバッドエンドしか想像できない。


 ま、俺たちがいる限りそんな未来も訪れさせないけどね。

 しっかりと俺たちがカゲストの欲望を駆逐して、ダークエルフさん達には武器を置いてもらう。

 

 しかし、この程度の薄っぺらい欲望に突き動かされる程度のヤツがポルパロングを動かせるのかね?

 弓術も魔法も一流ではあるが、超一流ではない。

 魔法でリンを超えるだけの実力は持ち合わせていない。


 フル・ギルの使用者は別にいると断定していい。

 結局イエスマン・カゲストも未だ姿を見せないヤツに我欲の部分を刺激されて都合良く動かされているだけの存在か――。


 もしくはポルパロング同様、カゲストもフル・ギルの支配下ってことなのかな。

 追い込めばメタモルエナジーの使用もありえるかもね。

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