PHASE-1126【名乗り】

「分かった。弟子が無茶をしないようにお目付役を任せるよ。でもハウルーシ君も無茶をしないように」


「はい」

 ミストウルフの群れに追われる最中であっても、懸命に友達を守っていたハウルーシ君なら、サルタナをしっかりと見てくれると信じられる。

 

 加えて、


「二人を頼みます」


「「了承した」」

 エルダー二体は髑髏による首肯で応じてくれる。


「じゃあハウルーシには僕の大切な木剣を貸してあげるよ」


「ありがとう」

 ギムロンから借りたミスリル剣を腰帯に差し、代わりに腰に佩いていた自分の得物をハウルーシ君に持たせる。

 でもってギムロンに言われたように、実戦では得物は選ばないといけないから、あくまでも護身用。決して無理はしないようにとハウルーシ君に伝えるサルタナ。

 忠告を素直に受けつつハウルーシ君は木の皮で出来た鞘から木剣を抜いて――上段の一振り。


「「おっ!」」

 俺とゲッコーさんの声がシンクロ。

 ハウルーシ君の剣の振りは素晴らしかった。

 綺麗な姿勢からの一振りは――、


「しっかりと鍛錬している」

 というのが分かるもの。


「はい。ルリエール様を守る剣士を目指していますから」


「それは素晴らしい。サルタナも負けられないな」


「ハウルーシがルリエール様を守る剣士なら、僕は弟弟子を守る剣士になります」


「よく言ったぞ!」

 師としてうれしくなる発言だ。

 エルフなのに二人揃って射手って選択はないんだな。って、野暮なことは言うまい。


「さてトール」


「分かってますよ。責任重大です」

 ゲッコーさんが言わんとしている事は分かる。

 いくら隠れさせるといっても、渦中の側に留まらせることに変わりはない。


「絶対に無理はしては駄目だ」


「「はい!」」

 元気な返事を信じよう。


 ――――。


『始めようか』


「了解です」

 耳朶に直接届くゲッコーさんの声。

 次の行動のために別の場所にて待機し、いつでも始められる状態。

 残った俺たちは、屋敷の近くの下生えと木々に紛れて待機。

 サルタナとハウルーシ君には、自分たちよりも背の高い下生えにしゃがませて身を潜ませる。

 二人を守るエルダーも片膝をついて待機の姿勢。

 上位アンデッドともなれば、闇に溶け込むように身を潜めてくれる。

 流線型のフルプレートにカイトシールド。抜かれたロングソード。纏う漆黒のペリース。

 子供二人よりも目立つ装備なのだが、発見されるって不安感を抱かせないのは流石である。


「行ってくるけど絶対に出てくるなよ。あと、周辺警戒は怠らないように」

 念押しで二人に伝えれば肯定の返事。それを聞いてから俺は勢いよく飛び出し、下生えから整地された屋敷前まで一気に駆ける。

 俺の姿を立哨四名が捕捉する。

 目のあった四人を前にしつつ、胸を膨らませるイメージで長い吸気を一つ行い、四人の立哨が誰何や警戒の声を上げるよりも速く――、


「遠からん者は音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! 我こそは佐賀は唐津の住人、遠坂 亨なり! 玄界灘に揉まれ育った我が武勇しかと刮目せよ! さあさあ腕に覚えの者よ手合わせを願う。いざ尋常に勝負、勝負、勝負ぅぅぅぅぅ!!」


『平家物語かよ……』


「お陰で大騒ぎになったでしょ」


『まあな』

 即座に俺の前にダークエルフさん達だけでなく、エルフの兵士たちも展開してくる。

 あのエルフ兵はポルパロングの私兵の残りってところか。


「おうおう、これまた団体さんですな。だが弱者に興味はねえ。強いヤツ――出てこいや!」


「残念だな勇者。ここにいる者達は皆が強者だ。出てこいと言われれば皆を相手にする事になる」

 私兵がいるって事は当然、いるわけだよな。


「おうイエスマン。然り然りしか言えない男が今では立派な逆賊になったようで。ポルパロングの残存兵を受け継いでいい気になってんのか? いい事を教えてやる。そいつらすこぶる弱いぞ」


「ええい黙れ! 同志を侮辱することは許さん!」


「同志とかよく言えんな。ポルパロングを都合良く利用してただけだろ」


「戯れ言を。そんな言葉で我等が結束に楔でも打ったつもりか!」


「戯れ言で済ませてたまるかよ! こっちは命を奪う選択をさせられたんだからな!」


「同志ポルパロングを殺害した梟雄め!」


「梟雄って発言はそっくりそのまま返すぞ」


「各々方、同志の敵討ちでもある! 勇者とは名ばかりの梟雄を仕留めよ! コレは聖戦である!」


「聖戦って言うヤツって結局はろくな事しねえよな。自分が正義だと思い込んで、正義のためなら何でもするって考えに至るからな。正にお前がソレ」


「殺せっ! 一人でのこのこと来たことを後悔させてやれ! 何がサガだ! 貴様の物語などここで終わらせてくれる!」


「本当に後悔だよ……。仲間に頑張ってもらってやっとここまで来ることが出来たけど、まさかの孤軍奮闘になるんだからな……。後、その物語サガじゃねえ! 言葉の前後で理解しろ。読解力ねえのか? そもそも佐賀県民の前では分かりやすいように物語サーガって言え。それが佐賀県民に対する最低限のマナーだ!」


「奮闘などさせるものかよ。圧倒的な数によって殺してやる! 訳の分からんことを言う馬鹿なお前を仕留めた後、近くで暴れている仲間も直ぐに仕留めてくれる。たかが人間風情が勇者ともてはやされて勘違いしよって。真の賢者であるエルフの前では、そのような敬称など無意味なのだよ!」


「ああ、そうですかい」

 上手い具合に乗ってくれて助かりますよ。真の賢者様。

 完全に俺が一人って勘違いするあたり、長生きしすぎて頭に蜘蛛の巣が張っているようだな。

 何とも御しやすいヤツだよ。

 

 こんな御しやすいのがよくポルパロングを利用できたもんだ。

 然り然りと乗っかるだけだけど、心底では常に悪い笑みを湛えていた策士タイプって事なのかな?

 まあ今のやり取りで残念策士ってのは理解できたけどな。

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