PHASE-935【多方面】

 ――冒険者ギルドの代表者たちと話し終えれば、落ち着いてきた諸侯たちも俺に挨拶をしてくる。

 冒険者ギルドの後に来た諸侯は俺の目をしっかりと見て、俺の力と仲間達の機動力や連携を褒めてくれた。

 今後も公爵に対しての忠誠を約束し、王様に対しても同等以上の忠誠にて励むと言ってくれた。


 俺以上にというのは、一見、俺に対する不遜にも思えるけど、俺よりも上の立場である王様に対して俺以上の忠誠を約束するのは当然だし、むしろ俺にだけ忠誠を約束すると言えば信用されないとも考えたんだろうな。

 その辺の駆け引きはちゃんと出来る方々のようだ。

 

 俺がカリオネルタイプなら俺にだけ忠誠をって言うつもりだったんだろうが、冒険者ギルドの代表者たちに俺が頭を下げたのをしっかりと目にして、俺の人間性を把握したからこそ、俺だけでなく王様に対しても忠誠を約束してくれたんだろう。

 目敏さが世渡りのコツだというのを教えられる。

 こういったタイプには権力を確約すれば、俺が凋落するまでは力を貸してくれるだろう。


 ――……だけど……、この後に続くのは駄目駄目だった。

 冒険者ギルドの代表者たち。それに続いた数名の諸侯の挨拶を終えた後に続いたのはおべっかばかりの発言が多かった。

 俺と目を合わせることなく、上擦った声でおべっかの連呼。

 あのような偉大なお力があれば魔王軍など何するものぞ! と、大体がこんな感じの発言ばかりが目立っていた。

 うん。信用できないね。

 オリジナルさが伝わってこない。

 一人が裏切れば、同じような発言をする連中は同様の選択をするんだろうね。


 で、最後の方になれば男爵がこれまた媚びへつらった笑顔で近づいてくる。

 拳骨を見舞いたくなる顔だけども、流石に年上をなんども殴るというのはよくないので我慢しよう。


「お見事でした」


「そうかい?」


「はい。見たこともないような力に、それを卓抜に扱う者たち。そして短い期間での調練であったのでしょうが、騎馬隊との連携は素晴らしかったです」


「あら!」

 やはり才を見抜くという力は素晴らしいものを持っているな。

 おべっかではなく、ちゃんとした感想を述べたよ。

 俺たちはミルドの地に入って日が浅い。故に領土の騎馬隊との連携は真新しいというのもちゃんと理解している。

 この男爵はカリオネルが原因で楽な金の稼ぎ方を知り、堕落に染まってしまったけども、そこを改善させれば有能さんに立ち戻るかもね。

 これはモンド達にしっかりと監視をしてもらって、有能さんに立ち戻らせよう。


「男爵は存外、後世に名を残すかもね。しかも良い方で」


「左様ですか?」


「変われれば――と付け加えるべきかと」


「これはドルクニフ子爵」

 ヨハンの親父さん。そして共に行動をしていた胆力ある貴族の方々が挨拶に来てくれる。

 諸侯を代表しての締めの挨拶といったところか。


「比類なきお力をお持ちですな。そしてその力と共に行動する者たちもまた比類なき力を有しています」


「ありがとうございます」


「しかし、如何に強大な力を持っていたとしても――」


「一方向だけでは全体はカバーできない。ってところですか」


「然り。口に出すまでもなかったですな」

 深く頭を下げる子爵。

 俺もこの世界で戦いをこなしてきている。

 勇者として少数で多勢、難敵とぶつかることが多いから、少数精鋭による戦い方や考え方が馴染んできているが、軍を動員しての行動となるとまた違った考えが必要になってくるというのも理解しているつもりだ。


 少数精鋭による活躍で得られるのは戦術的な勝利だけだろう。

 局地的な勝利を一つ得たところで意味はない。


 その局地的な勝利を多方向で成功させ、戦術的勝利を戦略的勝利へとしなければ魔王軍には太刀打ち出来ない。

 俺の能力やパーティーメンバーが如何に圧倒的な力を持っていたとしても、それが多方面の戦い全てに浸透するわけじゃないからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る