PHASE-107【青い炎】
とはいえ、このまま眺めていても解決しないから、入り江に向かって移動を始めようとしたところで――――、
『いい加減にしろ! 不快なのだ!!』
ベルの大音声。珍しい。それほどお怒りのご様子。
実際の所、俺がエロに走れるくらいに余裕だったのも、ベルが本気を出せば問題ないと思っていたからなんだよね。
たとえ、にゅるにゅるが苦手でも、お怒りになれば関係なしだ。
全身の炎が今まで見たことないくらいに、轟々と音を立てている。
湿り気のある体のクラーケンも、熱さに耐えきれず、ベルを放そうとする。
が――、時すでに遅く。
『はあ!』
ベルの快活な声が上がった瞬間。ベルの炎が紅蓮から青い炎に変化した。
――俺はその光景に生唾を飲む。
青い炎になった瞬間、クラーケンの巨大な体が一瞬にして消滅した。
圧倒的な熱で、巨体は一部も残すことなくだ。
耳朶に届く、コクリコの横でカチカチと歯を鳴らす音。
強大な力に畏れを抱いたようだ。
『はぁ、はぁ……』
地に足をつければ、片膝になるベル。
これもまた初めて見る光景だ。肩で息をするなんて。
青い炎の使用は、相当にきついようだ。
青い炎。小学校や中学校の理科の時間。温度が上がれば火の色も変わるってのを教科書で目にしたな。
赤色よりも高温の炎が青色。
今までの敵も灰燼と変わり果てたが、今回のはレベルが違いすぎる。
ゲッコーさんもあっけにとられているようで、棒立ちだ。
ディスプレイの視点が全く動かないから、ゲッコーさんの現状がよく分かる――――。
「おかえり」
反転して降伏してきた海賊船を引き連れて、入り江に接近。
囚われた人々を誘導しながら、ベルとゲッコーさんもミズーリに乗り込む。
甲板にて、戦いの後の一服を楽しむゲッコーさんとは違い、ベルの顔は曇っている。
「大丈夫か?」
「ああ。情けない」
「何が? 凄かったぞ」
「感情にまかせて、青い炎を出すとは……。あれは無駄に体力を消耗する。感情にまかせて使用すればとくにな。あの程度の相手ならば、普通の炎で十分だったが、不快感と怒りで、力の調整が出来なかった……」
珍しく落ち込んでるな。
しかし、クラーケンがあの程度か……。流石はチートキャラだよ。
当の本人は、精進が足りないと、首を弱々しく左右に振っている。
俺としては、ベルにああいう力があるって事に驚きだった。
「はあ……」
う……、さっきから重い嘆息ばかりだな。本当にベルらしくない。
「イカ臭い……」
む? むむむ。
「今の――」
「ん?」
「今のをもう一回、言ってくれ」
「は? イカ臭いをか?」
「もっと艶っぽく」
俺のお願いで返ってきたのは、イカ臭いではなく、世界が狙えるローキックだった……。
甲板を転げ回る俺。
ミズーリの木製甲板は何とも綺麗に整備されていて、綺麗に転げ回ることが出来た……。
「おい!」
「ふぁい……」
涙目で応答する。
「これだけ大きいのだ。シャワールームぐらいあるだろう」
太ももをさすりながら、残った片手で指差せば、「ふん!」と、息を荒げて入浴へと向かっていった。
「お前、戦いの場でも十分に冗談を言えるようになってきたな」
煙草を咥えて、蹲踞の姿勢で俺をからかってくるゲッコーさん。
ですがね、冗談ではないんですよ。本気で聞きたかった、十六歳の童貞なんです。
まあいいさ、触手画像は保存したからな。
それに、本日、我が復讐を遂げる時が到来するかもしれん。
「ハハハハ……」
「お前、悪い顔になってるぞ」
ゲッコーさんがひいている。
――と、思えば、一気に口を真一文字にして真剣な表情だ。
後方で指示に従ってついてくる海賊たちが、反撃の意思を抱かぬように、徹底して無力感を植え付けておく必要があると提案。
先の戦いで、シーゴーレムを破壊しているから、ミズーリの力は理解しているだろうけども、至近距離でミズーリの力を見せることが効果的だそうだ。
ゲッコーさんの案を受け入れる。
自分たちが如何に強大な存在と戦っていたかを思い知らせるために、海賊たちが根城としていた小島に向かって、主砲を回頭。
衝撃回避のために、囚われていた人達を安全な艦内に移動させて、俺たちも艦橋に移動する。
俺が祈るのは、逃げ遅れがいないことだな。
まあ、クラーケンの一撃で船は悲惨なものに変わったから、まず、生存者はいないだろう。
「それでは――」
口にすれば、ゲッコーさんが首肯で返す。
コクリコはワクワクした表情。
「主砲、一斉射!」
実行のために、R2トリガーを押せば、九門の長砲身より、大気を震わせる轟音が九回。
砲撃目標は1㎞先。
「――弾着――――今!」
観測役となるゲッコーさんの発言どおりに、小島から炎が上がる。
遅れて、爆発音が俺たちの所へと届いた。
これが光速と音速の差だな。
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