PHASE-1188【今回はグイグイとくるね】
「ではさっそく準備をしましょう」
と、ここでもエリス自らが王族の宝物庫までひとっ走り……。
いやだから……。王様になったばかりなんだからもっと王様らしくしてくれ……。
「凄いですねトール。この国の王様を走らせるなんて」
「やめろコクリコ」
ここで言われたくない事をはっきりと口にするな。
ルミナングスさんのように俺の胃が痛くなる……。
――程なくして肩で息をしながらエリスが戻ってくる。
王様のその姿を目にすれば、こちらの胃がズキズキとするが、当の本人は全くもって気にしていないご様子。
「こ、こちらを」
息が整っていない状態のまま、青白く輝く箱を諸手にて俺へと差し出してくる。
せめてそこは護衛のエルフさん達に持たせればいいのではないのだろうか……。
まったくもって王様らしくないし、そんな事をさせてしまっている俺の胃が限界を迎えてしまうってものだ。
「さあ、どうぞ」
俺が申し訳ないと考えていれば、エリスには俺の挙動が遠慮しているように見えたようで、ズイッと箱を目の前まで差し出してくる。
――青白い輝きは見慣れたもの。
ミスリルによって出来ている箱の大きさは、靴を購入した時に使用されるくらいのもの。
この大きさのミスリル製の箱となれば、これだけでも立派な宝だな。
「開けていいのかな?」
「もちろんです。その為に持ってきたのですから」
本来なら国宝って事だから、もっと厳かな場所などで開けたりするべきだと思うんだけどね。
こんな宴会場と化した大広間で開けてもいいものなのだろうか?
「はよせんかい!」
「お、おう……」
ギムロンの血走った目での催促。
興奮した目力と鼻息から漏れる酒気に気圧される俺は、言われるままに箱を開く。
――……ふむん。
「ふむん」
心の思いがついつい口から漏れてしまう。
――……えっと……、
「これが
俺の質問にエリスが対応しようとしたところで――、
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉうぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉお!!!!」
とんでもない大音声が俺の横で上がる。
さっきからずっとテンションが高くなっているギムロンだが、ここに来て更にテンションが爆上がり。
あまりの五月蠅さにこの場にいる面々が耳を塞いでいた。
両手で箱を持ち、尚且つギムロンの横に立つ俺は、胴間声からなる咆哮が鼓膜にダイレクトアタックだった…………。
耳キーンなるわ。
「うるさいよ」
「仕方ないじゃろう!
つまりは二百年を超える年齢のギムロンでも目にしたことがないくらいに貴重なモノってことか。
――……うん。でもまあ……。
「コレが……本当に?」
思ったことをポロッと出してしまう。
正直、鋳塊が入っていた箱の方が神々しい輝きなんだけど。
対して箱の中身の鋳塊はくすんだ銀色。
いや、銀色というより灰色と呼んだ方が正しいだろう。
凄みもなにもあったもんじゃない。
大きさは二リットルのペットボトルくらいだけども、それを思わせるような質量は感じさせない。
箱もミスリル製だから軽い。
なのでギムロンが興奮するように、この鋳塊は間違いなくミスリルなんだろうな。
しかしこの色――既視感があると思っていたが、目の前のエリスの頭に乗っかっている王冠と同じ色だ。
戴冠式の時も地味な色とは思っていたけども。
「なるほどね」
その王冠が一番に説得力があった。
王が戴く王冠もこの
だからギムロンも鋳塊は初めて見ると限定した言い方だったわけね。
戴冠式で欲望まる出しに王冠を欲しいと言っていた理由と、ここでの興奮する姿。
本当に欲しいんだろうな。
目利きのドワーフがそれだけ恋い焦がれるモノだからこそ――、
「本当にもらっていいのかな?」
王冠に使用されている量と比べると、この量はとんでもないよね。
「当然です」
と、二つ返事。
「有り難う。じゃあお言葉に甘えて」
断り続けるのは逆に失礼だからな。
弟子の厚意をありがたく受け取ろう。
「うん。じゃあコレは王都に戻ってワックさんに――」
「待てぇぇぇぇぇぇい!」
「今回はつくづくうるさいぞギムロン。いい加減にしないと会頭としての立場で修正する事になる。丸太で修正するぞ」
「御免こうむるわい……。 って、違うじゃろう! ミスリルと言ったらドワーフとエルフと相場が決まっとろうが! この鋳塊を目の前にさせといて酷なことを言うない!」
「そうですよ師匠」
おう、エリスまで続くね。
「この鋳塊での刀剣制作は是非とも僕たちエルフに任せていただきたいのですが」
「違うじゃろ! そこはワシも入れてくれ! 会頭が当主である公爵家家宝の剣の外装を作り直したのはワシじゃ! 会頭の装備制作にはギムロン・ラドン有り! って言うじゃろうがい!」
後半の口上は初めて耳にしたよ。
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